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フリークは本当に極悪事務所なのか

合同会社FreeKlabolatory(以下FreeK)をご存知だろうか。FreeKは芸能事務所、兼イベント制作会社である。

自分がFreeKに通うきっかけとなったのはハープスターというグループである。ハープスターはFreeKの所属ではないが、あるタイミングからFreeKと一緒にライブをやるようになった。最初はFreeKアイドルにまったく興味がなく、ハープスターだけ見て帰る日も多かった。ただし、FreeKはライブの数が多いため、嫌でも目にする機会が多く、気づいたらハープスターと同じくらいFreeKアイドルを見ることになっていた。最初にいいなと思ったグループはサクサクJumble(現#PEXACOA)である。

そして、FreeKにハマるキッカケとなったのはアイテムはてるてるのみ(以下てるてる)の影響が大きかった。てるてるをきっかけにFreeKアイドルを見始めて約2年、気づけばFreeK総勢100名程度のメンバーの顔と名前が一致するくらいにはフリーカー(FreeKオタクの総称)として成長した。

そしてここからが本題なのだが、アイドルオタクのなかで、FreeKという事務所のイメージはあまりよくない。FreeKは過去にファンとの繋がりなどの問題を複数回起こしており、それが原因で、「繋がりの温床」「アイドルとオタクのマッチングアプリ」と呼ばれるくらいには、イメージが悪い。かくゆう自分もFreeKに通う前はそういうイメージを持っていた。ピンチケや最前管理が幅を効かせてて、繋がり問題も多く、現場も荒れてる、そういうイメージだった。

しかし、現在ではFreeK現場はとても居心地がよく、他の事務所のグループに比べても、オタク活動しやすい現場なのではないかと考えるようになった。実際、イメージに反して、FreeKの規模はここ1,2年で大きくなっている。


前置きが長くなってしまったが、今回は、なぜ繋がり問題で揶揄され、槍玉にあがりやすいFreeKが、変化の激しい地下アイドル業界でファンを獲得し続け、存在感を出しているのかについて書いていきたい。

コロナ禍で圧倒的にプレゼンスをあげたフリーク

コロナはアイドル業界においても大打撃を与えることになった。すでに緊急事態宣言も解除され、客足も戻りつつあるが、最初の緊急事態宣言が出された頃は、不透明なことも多く、どの運営も客も及び腰で、在宅コンテンツがメインの時期もあった。そんななかFreeKはいち早くライブを再開し、その圧倒的なライブの数で他の事務所を凌駕してきた。

昨年の波物語のように、コロナ禍におけるイベント開催は一歩間違えれば大炎上に繋がり、中止に追い込まれる。しかしFreeKはコロナ禍においてライブ開催の手を緩めず、むしろ愚直にライブの回数を重ねてきた。ときに月に30本以上。おそらくこの回数は世間からみれば異常な数であり、コロナ禍においてライブをするべきではないと、眉をひそめる人もいるだろう。

フリークのコロナ対策

コロナ対策について筆者は専門家ではないので、あくまで私見になるが、客席においては一般的な対策をしていると思う。
ライブは声出しNG、マスク着用義務、特典会はビニールシート、またはフェイスシールド越しをいまだに貫いている。事務所によってはコロナ禍であっても声出しOK、特典会ではマスクなしのところもあるので、比較的まともにやっているほうだと思う。
ライブハウスのキャパの都合上、密になることはあるものの、少なくともライブ中はある程度のスペースは確保できているので、そこまで潔癖でない人であれば問題なく鑑賞はできる。

一方、ここが問題になるのだが、FreeKはメンバーのコロナを隠蔽していた疑惑がある。疑惑というか、実際にほとんどのメンバーがすでにコロナ陽性もしくは濃厚接触者になっているのだが、公式としてコロナ陽性は明らかにはせず、あくまで「家庭の事情」ということで休ませることがあった。
ただ「家庭の事情」=「コロナ陽性」であることはFreeKのオタクなら誰でも知ってることなので、これを隠蔽とするかどうかの判断は読者に委ねたい。

フリークが築く競争障壁

コロナで息も絶え絶えなグループが多いなか、FreeKの勢いはなぜ止まらないのか。これから書くことは結果論であり、実際の戦略かどうかは定かではないが、振り返ってみると、うまくできてるなと思う仕組みについて書いていく。

16グループ100名以上という規模がもたらすコスト優位


FreeKは提携事務所とあわせると、在籍メンバーは有に100人を超える(2021年3月末時点)。地下アイドルの事務所でこれだけの人数を抱えている事務所はほとんどない。所属メンバーの人数が多ければ多いほど限界コストは下がっていくので、イベント運営やライブの制作費は下がり、結果的にコスト競争力が強くなる。FreeKは北海道・名古屋・大阪・福岡など地方にもグループを展開しており、基本的なグループのフォーマットやライブ企画は全国共通なので、事務所としてのコストはどんどん下がる。一度規模を獲得してしまうと、他の事務所はなかなか追いつけなくなる。


フリーク特有のカルチャーによってスイッチングコストが高い


オタク視点だと、FreeKのシステム・仕組みに1回慣れてしまうと、ほかの現場に切り替えるのが困難になる。たとえばFreeKは、チケットの発売がライブの2日前というのがザラにある。そして支払いをコンビニ払いにすれば当日開演ギリギリまで支払期限が伸びる場合もある。
一般的なアイドル事務所は、2週間〜1ヶ月前にチケ発をおこなうことが多いが、その日の気分で現場を決めたい自分みたいな人間にとっては、フリークのシステムが都合が良い。
ときに10分おきのチケ発、1日に10回以上あるチケ発、深夜1時のチケ発、チケ発1時間前に告知されるライブ、など、メジャー事務所ではありえないことだが、これは逆にFreeKのユニークさにもなっている。そもそもオタクは何もないところに価値を見出す傾向が強いので、チケ発すらもイベントであり、これらのハードルがフリークへの忠誠心を高め、むしろブランド化していってる節すらある。

習慣化させる異常なライブ本数


FreeKのイベントは決して他のアイドルイベントと比較してクオリティが高いわけではないが、なんとなく通ってしまう理由の一つとして、習慣化がある。FreeKは16グループもあるので、年末年始を除いてほぼ毎日どこかしらのグループがライブをやっている(非FreeKではあるが、一緒にライブをやっているbuGGの2021年のライブ本数は376本)。
メンバーからすると、ライブが多すぎるとありがたみがなくなってしまうのではないかという懸念があるかもしれないが、大半の人にとっては暇な時にフラッと足を運べる利便性にこそ価値がある。しかも無料で行けるイベントも多いので、1回自分の習慣に根付いてしまうと、他の現場に行くことが面倒になる。
ちょっとしたものを買おうと思ったら何も考えずにコンビニに行くように、なにかを選択する行為は人間にとってストレスなので、いつでもやってる安心感というのは、人間の購買心理に思った以上に影響を与える。

オタクにとってのサーチコスト


地下アイドルのサーチコストは高い。おそらく日本にはアイドルグループが千組くらい存在し、売れてるのはごく一部、そのなかで自分が好きなアイドルというのは簡単に見つかるものではない。膨大な数の地下アイドルがいる時代であり、どのアイドルがいい/悪い、合う/合わないというのは現場に行くまでわからない。ただし、オタクが現場に足を運ぶまでには、非常に高いハードルがある。1回3,000円のライブだとしても、今通ってる現場に行けば2回〜3回接触できるわけで、わざわざいいかどうかもわからないアイドルを見に行こうとは、ほとんどの場合ならない。そのため、SNSで人気の、顔が可愛い子を集めて新しいグループを作ったとしても、見に行くのはスタートダッシュを決めて古参になりたい一部のヲタクか、人気者に群がりたいミーハー層で、ほとんどの場合はうまくいかない。
オタクは損失を回避したいので、わざわざ新しいグループを見に行くよりは、同じ事務所の新しいグループを見にいくことで、損失を回避する。

アナフェスというドル箱

FreeKが定期的に主催する「今夜はあなたのフェス(通称アナフェス)」というフェスがある。全国のZeppホールやLINE CUBE SHIBUYA(旧渋谷公会堂)、Spotify O-EASTなど、1,500~2,500人規模の会場を中心に開催する自前のフェスである。平日・土日関係なく実施されており、出演組数は多いときは20組近くになることもある。
このアナフェスの仕組みが秀逸で、チケットが後方0円〜、前方2,000円くらいと相場より格安で販売されている。通常の地下アイドルの対バンはだいたい3,000円~4,000円くらいが相場であり、MARQUEE祭やGIRLS GIRLSなどのフェス形式であれば、前方7,000〜8,000円、後方4,000円程度であることを考えると、相場よりもかなり安く、低価格を実現できている。アイドルはお金がかかる趣味であり、さらに現代においてはオタク活動といえば接触(特典会)を指すことも多いため、なるべくライブは安くみたいというニーズがある。

アナフェスは消費者のニーズを上手に捉えている。
実際外部の対バンで各グループに動員を競わせることは多いが、FreeKはそこまで動員争いに力を入れてる感じは今のところない(※2021年6月現在)。Marqueeなどのアイドルフェスにおいて、各事務所は破格の特典をつけ動員を競っているが、FreeKが破格の特典をつけることはない。これはFreeKが外部対バンをそこまで重視してないことを意味する。なぜなら自分たちでフェスを組んだほうが圧倒的に利益率が高いため、わざわざ外部対バンを頑張る必要性がないのではないかと推測している。(もちろん外部対バンに出ることによって普段見られないお客さんに自分たちを見てもらえるというメリットはあるが、それよりもアナフェスの規模を大きくしていく戦略なのではないか)

※ここ数か月で外部対バンの入場特典は豪華になっているので、力をいれるようになったと思います。

SNSにおけるアテンションのとりかたがうまい

ほとんどの事務所がSNSでタレントの良からぬ噂が流れると、否定の声明文を出したり、正しい情報を出そうと努力する。間違ってることを流されたらそれを正すのは事務所の役割として当たり前なのだが、FreeKはありとあらゆる噂を無視する。
無視されると、オタクの声はますます大きくなる。つながりの噂が出ると、タイムラインに「またFreeK」かという皮肉の文字列が流れる。これは見方によっては、オタクに無料で宣伝してもらってるに近い。
FreeKは噂が噂を呼ぶ性質を利用して、オタクをタダ働きさせている。文字通り、「沈黙は金」である。

カメコの呼び水となっている撮影可能ライブ

無料の労働力といえば、もう一つ「基本all撮影可能」というのがある。最近でこそ撮影可能なアイドルは増えているが、FreeKはほぼすべてのライブにおいて静止画・動画撮影可能である。(フリークと非フリークで撮影レギュレーションは微妙に異なるので注意)
肖像権にうるさい芸能界において、撮影に一切口出ししてこないことによって、FreeKは騒ぎたいオタクだけではなく、カメコまでも集客している。
後方ならチケット無料、女の子も撮れるとなれば、当然カメコは足を運ぶ。そして撮影した写真をSNSにアップするなとか、チェックさせろとかそういう面倒なことも一切言わない。
カメラやスマホで撮影した写真が、運営のリソースなしで、タイムラインにどんどんアップされる。広告費換算するとかなりの額になっているのではないか。
おもしろいのは、運営やメンバーも躊躇なくカメコの写真を宣伝に使う。一般的に、この辺の話は肖像権や著作権が絡むので、ほとんどの芸能事務所は面倒がって一般人が撮った写真を宣伝利用しないが、FreeKのこのあたりの躊躇のなさはおもしろい。カメコもほぼ無料で撮らせてもらってるものなので、文句も言わない。このあたりのツーカーな関係が、まさにファンビジネスといった感じだ。

余談だが、いまどき珍しく、FreeKは所属メンバーのSNSの利用には厳しい。基本はTwitterのみで、Twitterのフォロワーが1万人を超えないと、InstagramやTiktokは始められないルールになっている。
このあたりも独自の戦略という感じで、ほかと差別化になっている。

当たり前のことができている

時間にルーズなエンターテインメント業界において、FreeKは開場開演時刻をめったに遅らせない。他の現場だと5分10分遅れるのは当たり前、ひどいときは30分以上押したりすることもあるが、FreeKはタイムマネジメントが非常にシビア。タイムテーブルが巻いてしまうと、次の出番を遅らせて調整するくらいの厳密さである。FreeKは10以上のグループが1日の間に3現場くらい複雑に対バンに組み込まれているため、どこかの時間が狂うと、すべての予定が狂ってしまう。そのため時間厳守せざるを得ないのかもしれないが、時間を守るという当たり前のことをできていることが、称賛に値する。なにごとも当たり前のことを当たり前にやるのが一番難しい。



誰でも参入できる地下アイドル業界において、FreeKが障壁を築きはじめてるのは、おそらく間違いない。

アイドル業界で勝つため重要なことは、逆説的だが競争しないこと、競争しないで勝てる環境を作り上げることである。
この「勝つためには競争するな」という話はAKBが売れたときに秋元康がしてる話であり、別に目新しくもないのだが、フリークは、秋元康ほどの知名度も資本もないところから始めてるところがすごい。


地下アイドルは稼働率ビジネス

前述したように、FreeKがほかのアイドル事務所と決定的に異なる点として、異常な数のライブ本数があげられる。年末年始以外はほぼどこかしらのグループが稼働しており、平日夜のライブは当たり前、土日は1グループあたり3~4本のライブがある。(余談だが、ライブ開始が朝の7時台ということもある)
狂ったようにライブをやっているFreeKだが、これもビジネス構造から理解できる。
アイドル事務所のコストは、移動費、レッスン代、ライブハウスのレンタル代などがあるが、ほぼ人件費であり、変動比率は低く、ほぼ固定費だと考えられる。

メンバーの稼働率が増えるにしたがって、1グループあたりの固定費は低減するため、いかに資源(=メンバー)を有効に活用できるかが重要であり、トップラインを伸ばすためには、稼働率を上げながら、メンバーの数(グループの数)を増やしていくことがセオリーである。

つまり、FreeKが狂ったようにライブ本数をこなすのは、ビジネス的には正しい戦略であり、ただそれを実行しているだけである。

そろそろまとめに入りたいが、自分から見えるFreeKはアイドル事務所として当たり前のことをやっているだけで、オタクから言われている「繋がりだらけの問題事務所」というよりは、「やるべきことを淡々とやってる事務所」という見え方になる。
もちろん噂で聞くような諸問題はあるのだが、企業の存在意義は「持続的な成長」であり、それが出来ている限りは、企業として大きな問題があるようには思えない。(と書いてるときにおもしろネタが飛び込んできたが無視します…)
いずれの問題も他事務所でも起こっている話であり、FreeK特有の問題だとは考えていない。


で、結局なんでフリークは成長してるの?


アイドルになるハードルが極限まで下がっている。最近だとYoutuberやインフルエンサーのほうが世間に対する影響力も大きくなりつつあるため、アイドルを目指す人は減りそうにもかかわらず、アイドル自体の人数はおそらくそんなに変わってないという前提に立つと、一昔前よりアイドルになる子の採用基準が下がっている可能性がある。それでも成り立つのがアイドル業界である。

そんなに変わらない容姿のレベル・ステージのレベルだとするなら、どこで差別化できるかというと、運営のサービス力や、コミュニティの強さだといっていい。
地下アイドルを継続して運営するには、ステージももちろん大事ではあるが、いかにオタクが来やすい環境、仕組みを作れるかの方が要因としては大きいのではないか。

FreeKの客足が伸びているのは、いつも変わらない価値を、コスパ高く提供しており、なおかつアクセスしやすい(変に外対バンに出ず、だいたい同じところで同じようなメンツでライブをやっている)ところが、ファンが増えている要因ではないか。

一方、オタクになるハードルが下がったことにより、地下アイドルに対するニーズはおそらく変化しており、「そこそこ可愛いくて、そこそこのステージパフォーマンスができる子を、気軽に安く見たい」が、今のオタクマジョリティの感覚ではないか。アイドルにそこまで高いクオリティを求めなくなってきてるともいえる。クオリティの高いグループは日曜深夜にテレビで乃木坂でも見てれば満足なのである。
つまりこのコロナ禍において、中堅〜メジャーグループの活動が制限されているからこそ、FreeKは低価格で大量の顧客を獲得し、メジャーアイドルがすくいきれてないニーズ(ライブの本数・ライブへのアクセスしやすさ)によって、アイドルオタクを全取りしようとしにいってるのではないか(完)


宣伝:ときどきフリークについても語ってます


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