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[短編童話] あっくんのロケット

誕生日

あっくんは5歳の誕生日に、お父さんに格好いいロケットのおもちゃを買ってもらいました。そのロケットには、最新の人工知能が付いていました。

あっくんが、「発射」と言うと、ロケットは「ゴー」と発射の音を出します。「止まれ」と言うとロケットは音を出すのを止めます。

あっくんは、すっかり気に入って、ずーと遊んでいました。そして、とってもうれしかったので、そのロケットを抱いて寝ることにしました。

ふと、夜に目が覚めると、ロケットがありません。あっくんは、変だなぁと思って、探しはじめました。

部屋の中にはありません。窓から外を見ると、そこになんとロケットがあったのです。それも、とても大きくなって、本当に宇宙に飛び出せるくらいになっていました。

あっくんは、びっくりして庭に出て、そのロケットに乗ってみようとドアを開けてみました。すると、そこには、もうお友達が来ていて、遊んでいるではないですか。

「あっくん、遅かったね。待ってたんだよ」と、けんたくんが、言いました。
「はやく、どこかへ飛んでみましょうよ」と、まりちゃんが、言いました。
あっくんが、「よし、じゃぁ、お月さままで行ってみよう」と言うと、
「はい、分かりました。ご主人さま」と、ロケットが返事をしました。

そして、ゴーという大きな音を出して、ロケットは月へむかって飛び出していきました。

餅つき

「ご主人さま、着きました」と、ロケットが言うと、そこはもうお月さまの上でした。窓から外を見てみると、うさぎたちが忙しそうに餅つきをしています。

「お正月に、間に合わせるには、もっと急がなきゃいけないぞ」と、うさぎの親分が言いました。

そこらじゅうで餅つきをしているので、ロケットがずいぶん揺れました。

「おもしろそうだから、僕達も手伝おうよ」と、しゅんぺいくんが言うと、みんなで宇宙服を着て、外へ出てみました。そして、うさぎたちの餅つきを一所懸命手伝いました。

うさぎたちは、あっくんたちが、手伝ってくれたので、早く餅つきが終わったといって、とても喜んでくれました。そして、出来立てのおもちにきな粉をつけて、ごちそうしてくれました。

「おなかもいっぱいになったし、今度はどこへいこうかな?」と、けんたくんが言うと、
「お月さまの次は、お日さまは?」と、まりちゃんが言いました。
「うん、いいね、そうしよう」と、あっくんが言うと、また、ロケットが、
「分かりました、ご主人さま、太陽へむかいます」と、いって、ロケットが動きはじめました。

太陽

しばらくたって、ロケットが、「着きました」と言うと、目の前は真っ赤っかです。なんと、太陽の真ん前にいるのです。途端に、ロケットの中は真夏以上の暑さになりました。

「うわー、暑いよー」と、しゅんぺいくんが、叫びました。
「いやだー、帰ろうよー」と、まりちゃんが、泣き始めました。

あっくんは、考えました。そうだ、「戻れーっ」ていえば、きっと、ロケットが太陽から離れるはずだ。そこで、大きな声で、言ってみました。

「地球に、戻れー!」

でも、ロケットからは、ちゃんとした返事がありません。なんだか、「もぁ〜、あぃも〜ぷ〜、・・・」と訳の分からないことを喋っています。

どうやら、ロケットも、太陽の熱にやられて、おかしくなってしまったようです。ロケットは、どんどん、ぐつぐつとに煮えたぎっているお鍋のような、太陽の中へと近づいていきます。もう、暑くて意識も朦朧としてきた時に、サイレンの音が聞こえてきました。

宇宙警察

そして、次に気が付くと、月の上に戻っていました。ただ、ロケットの隣に、知らない宇宙船があります。そうです、宇宙連合のパトロール船が、あっくんたちのロケットを助けてくれたのです。

隣の宇宙船から、宇宙連合の警察官の宇宙人が二人降りてきました。あっくんたちも、お礼を言おうと、ロケットから降りていきました。

あっくんが、「どうも、ありがとうございました」と、言いましたが、宇宙人の警察官には、通じないみたいです。すると、宇宙人の警察官が、ポケットから小さな黒い箱のようなものを取り出しました。そして、それをあっくんに渡しました。すると、その小さな箱のようなものから声が聞こえてきました。

「分かるかな。わたしは、宇宙警察官のラグシーだ。こっちは、相棒の、タイロンだ。
君たちは、もうちょっとで大変な目にあうところだったよ。
おじさんたちが通りかかるのが、ちょっと遅かったら、みんな太陽の中で溶けてたよ」

「助けていただいて、どうもありがとうございました」と、あっくんが言いました。

「これからは子供だけで宇宙に来てはいけないよ。ちゃんと、パパとママといっしょに来るんだよ。」と、ラグシーが言いました。

「はい、分かりました。」と、けんたくんが、答えました。

「よし、いい子たちだ。じゃ、おじさんたちがロケットを直してあげよう」と言うと、ラグシーとタイロンは、あっくんのロケットの中に入って、なにやら調べはじめました。

「ああ、ここが壊れてる。」と、タイロンが壊れたところを見つけました。

ラグシーは、ポケットの中から丸いボールのようなものを出して、なにやら命令をしています。すると、そのボールは空中を飛んで行って、壊れた場所の上で止まると、なにやら光線を出しはじめました。

しばらくすると、「あー、なんだか、変だなぁ、うーん、だんだん、はっきりしてきた。えーと、そうだ、こうしちゃいられない。あぶないぞーと、ご主人さまに、言わなくちゃ。でも、あれ、...」と、ロケットが、ひとりごとを言っています。

「もう、大丈夫だよ。宇宙警察のおじさんたちに助けてもらったんだよ」と、あっくんがロケットに教えてあげました。

「ご主人さま、そうでしたか。お役に立てずすみません」と、ロケットが言いました。

ロケットは、つづけてラグシーたちに何やら宇宙語で話し始めました。あっくんのもっている黒い箱のようなものからは、

「助けていただいてありがとうございました。宇宙規則にしたがって動く装置を取り付けてください。...」

と、聞こえてきます。どうやら、危ない目にあわないような装置を取り付けてもらうようです。これで、あっくんたちも安心して宇宙旅行ができます。

ラグシーが、「さようなら。気を付けるんだよ」と、言ってどこかへ飛んで行きました。

あっくんたちは、「ありがとう、ばいばい」と、手を振って見送りました。

「今日はいろいろなことがあったね」と、けんたくんが言いました。
「そうだね、宇宙警察というのがあるとは知らなかったね」と、あっくんが言いました。

そうしているうちに、みんなは疲れたのかすやすやと寝てしまいました。

あっくんは、目が覚めると「さーて、次はどこへ行こうかな」と、思いましたが、よーく周りを見てみると、そこはあっくんの部屋でした。

「なーんだ、夢だったのか」と、あっくんはちょっとがっかりしました。

お父さんに買ってもらったロケットもちゃんとあります。

「でも、おもしろい夢だったなぁ。宇宙警察官にも会ったし」と、考えていたら、ベットの隅になにやら小さな黒い箱のようなものがあります。それは、宇宙警察官のラグシーにもらった宇宙語でおしゃべりができるようになる機械でした。

あっくんは、やっぱり夢じゃなかったんだと安心して、また宇宙で冒険ができますようにと祈りました。

おしまい

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