白い犬とワルツを

脳腫瘍が見つかった。
といっても髄膜腫というもので、ごく小さいうえに良性らしい。
今すぐ命に別条がある訳でもない。
来週大きな病院の脳神経科で診てもらうので、それ以上の詳細は今は分からない。

きっかけはたまたま受診した眼科だった。
左目の痛みが続き、傷でもあるのかと適当な眼科に駆け込んだところ、酷いドライアイが見つかった。
痛みはこのドライアイが原因で、コンタクトと眼球が擦れたために起こったらしい。
精密検査を行ううちに、緑内障手前であることと、レンズの白濁(進行すれば白内障)が発覚、そしてとどめのように腫瘍が見つかった。
母にも脳腫瘍があり、また母の弟は脳出血で早世しているので、検査結果を聞いたときは、私にも来たか、という思いだった。
アラサーになってから、あちこちにガタが来ている。

帰りの電車に揺られながら、ふと高校生の頃を思い出した。
当時、私は漠然と「自分は35くらいで死ぬかもしれない」と感じていた。
母やZ会のチューターに伝えると、一笑に付されて終わったのだが。
「貴方はまだ若いから35が遠く思うだけで、あんなもの一瞬よ!」と大笑いしていた二人を前に、この感覚はどう言っても分かって貰えないのだと、怒りなのか哀しみなのか分からぬ感情を覚えていた。
あながち当時の予感は間違いではなかったのかもしれない。

とはいえ、別に今日明日どうこうなるような症状ではなく(だったら早急に精密検査になっている)、今日も東京の片隅で生きている。
今朝、近所の小さな屋上菜園の中を、女性と白いマルチーズが散歩していた。
毎朝聞こえる吠え声は、彼、もしくは彼女のものだったのだ。
私の家は8階なので、何故こんなに近くから犬の声が聞こえるのか、長らく謎だった。
緑の中を意気揚々と散歩する犬は、何だか誇らしげだった。
隣を歩く女性も、気持ちよさげだった。
よく晴れたいい陽気である。
白い犬とワルツを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?