カープダイアリー第8313話「大谷翔平の”三冠目指す”打法に通じる”変態打ち”で157勝右腕から今季4試合3ホーマー、その先に打撃タイトル」(2023年7月9日)

今季最多、3万6341人の入場者があったバンテリンドームナゴヤにカープファンのチャンテが響く。三回、二死一、二塁で打席に龍馬、マウンドに涌井…

リーグ最多98安打vs通算157勝、のこれぞプロ野球という対戦は初回の第1打席は龍馬に軍配が上がっていた。初球カーブストライクのあと、連続4球ストレート。内角を突かれる中、最後の高目を左前に弾き返した。

涌井のカープ戦登板は今季4度目。最初のヒットを含めて8打数で2本塁打を含む5安打と一方的な内容になった。

過去3戦は木下と組んだ涌井はこの日、今カード随所にいい仕事をしている宇佐見とのバッテリーで“龍馬対策”に時間を割いた。自軍が3連勝するためには、序盤最大のヤマ場を迎えたことになる。

涌井の初球、この試合通算45球目はアウトローへのシンカー。構えたミットに決まってストライク。龍馬はいつものようにクールに見送った。2球目は146キロストレート。ミットよりさらに内寄りにズレてボールになった。ボールカウント1-1。

龍馬の“変態打ち”は広く知られていて、高低も両サイドもゾーンを外れた球をヒットゾーンに運ぶ。だから投げる方はより慎重になる。

この打撃スタイルはメジャーリーグ・シーズン前半を終え、三冠さえ狙える位置にいる大谷翔平に通じるものがある。日本ハム時代から“メジャーの頂”を見据えて積み重ねてきた二刀流。今季は打つ方で開眼しつつある。高打率とホームラン量産。今の驚異的なバッティングを生み出しているのは「いい構えなら難しい球にも素直にバットが出る」というものだ。

5月、抜き球に苦しめられると、6月にはその構えから力感が消えた。見た目も大きく変わった。上半身と下半身が“逆くの字”になっていたものが、地面から垂直に立つ形に変わった。力を入れるのはインパクトのほんの少し前からだけ。結果、数字は月間15本塁打、打率・394に跳ね上がった。

内角球も含めてボール球でもスタンドに運ぶ。“そこに投げても僕は打ちますよ”と相手バッテリーを脅している?ようなものだ。

龍馬打法もいっしょ。構え方は大谷翔平とは異なるが“ゆるーく…”構えている。そしてどの高さ、どのコースでもテニスラケットで打ち返すように「面を使って」ファンと両軍ベンチを驚かせる。

様々な打者相手に投げてきた涌井でも、龍馬のような“変態”タイプはその引き出しの中にない。だから一方的に打たれているのだろう。しかも4月には高目のストレートを、前回対戦では初回に高目のシンカーをマツダスタジアムのライトスタンドに運ばれた。

だからまともには投げてこないと3、4球目も龍馬は見送った。アウトローへのカーブはボールになり、やはり外角へのシンカーもボールになった。カウント3-1。

満塁で五番松山と勝負…もバッテリーにとっては避けたいチョイス。もう逃げ場なし。5球目もミットの位置は外角だったがそれより甘く入ったシンカーが一塁線ファウルになった。

「投げる球が無くなりましたね…」放送ブースから両者のせめぎ合いを見つめるCBCラジオ解説の川上憲伸さんは、龍馬優位を匂わせた。

6球目のサイン。涌井は小さく二度、首を横に振ると二度頷いた。宇佐見のミットはインローいっぱいで止まった。

投じられたのはストレート。高目に浮いて、次の瞬間には勝負あり、となった。2月のキャンプから龍馬が磨きをかけてきた背筋力を使った高目打ち。打球はドラゴンズファンで埋まるライトスタンド一直線…

両軍8安打ずつとなったこの一戦はけっきょく3対2で龍馬に“勝利打点”がついた。先発した森が5回1失点で2勝目、バースデー登板になった栗林と中崎、島内にホールドがつき、矢崎に14個目のセーブ。涌井は9敗目(3勝)となった。

新井監督は「信頼して龍馬に四番を任している」という。そりゃそうだ。球団から監督要請があった際、真っ先に龍馬のFA流出阻止に動いた。当然だ。それでなくても四番を打てる人材が枯渇気味のチームの現状を考えれば、変態バットがあるのとないのとで天と地ほどの差がある。

新井監督誕生の知らせを耳にした龍馬は「驚いた!」とのコメントを残した。だがその驚きはほどなく新たな自分探しを可能にしてくれる新井体制に身を委ねる思いへと変わった。一度しなないプロ野球人生、レギュラーとしてファンに認められる活躍をしてさらなる高みを目指す、イコール打撃タイトルを奪いに行く。

飛距離にこだわる練習を2月からずっと続けてきたのは強い打球と技ありの打球をデュアルモードで切り替えられるようにするためだ。一発もある、率も残せる、となれば相手バッテリーを見下ろすことができる。この日、4の2の3打点をマークした龍馬は安打数、打率、打点ともチームトップ。しかも羽月の8盗塁に続く7盗塁…

開幕五番でスタートした龍馬はライアンの二軍降格で6月半ばから四番を打つ。およそ1カ月、四番の仕事をしたあと球宴休みを挟み、後半もたぶん四番だろう。

野間、秋山、龍馬、坂倉あるいは松山、そして田中広輔、小園という打線は左腕投手の前にモロさも見せるが、プラス材料はそれ以上ある。

右打者の新井貴浩と朝山打撃コーチらが行き着いたこのメンツの中心を龍馬が行く!

※この記事内で選手などの呼称は独自のものとなっています。

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