カープダイアリー第8222話「あの時以来、19年ぶり開幕4戦全敗に思う」(2023年4月4日)

マツダスタジアム開幕戦。新井監督とカープナインの記念すべき日のスタンドは大入り袋にはならなかった。2万9329人。

二回に1点先制され三回に野間の今季初安打(二塁打)で追いつき、四回、五回に1点、2点と失っても七回の坂倉の1号2ラン、八回のマットの犠飛で4対4にした。

米国“研修”などを経て、新たな姿を模索してきた九里が4回3分の1で6四球。この状況からの逆転勝ちはなかなか難しい。

一方で阪神先発の西勇輝を坂倉の一発で降板させはしたが、両者のピッチングに採点表があれば、こっちは6点下手すりゃ5点、相手は8点ぐらいだろう。

迎えた九回のマウンドには栗林。試合前のセレモニーでは阪神中野、湯浅といっしょに新井監督から花束を渡され、湯浅からは侍ジャパンメンバーのサイン入りユニホームも贈られた。

2月のキャンプインからベストを尽くし、紆余曲折あってカープファンの前で出番がやってきた。開幕3連敗中は出番なし。新たなシーズンのスタート…

阪神打線は3連戦で18得点。近本・455、中野・420、ノイジー・357、大山・357、佐藤輝明・300と一番から五番までよく振れていた。

その近本を1球で打ち取った。147キロ高目で遊飛。

しかしWBC組の中野には粘られた。フルカウントからの6球目、フォークが浮いて歩かせた。

ノイジーの守備固めで途中出場の島田の打席。ここがカギになった。一、二塁間を抜けたかと思われた打球を菊池が腕を思い切り伸ばしてグラブに入れると回転してファーストへ。二死は奪ったが走者は二塁…

菊池はこの日、3度ファーストベースにヘッドスライディングして2安打1得点。開幕八番のあと3試合連続で一番を任され意地を見せた。

ただ気持ちだけでは結果はついてこない。厳しい立場になることを受け止めて準備してきたからこその好守、好打の連発…

四番大山を迎えて、栗林と4戦連続スタメンマスクの坂倉の腕の見せどころになった。スタジアムに阪神の「チャンス襲来」トランペットが響き渡った。

初球ストライクだったがフォークが浮いた。もう1球フォークを試したらまた浮いてボールになった。

五回に九里から犠飛を放ち、七回にはケムナから中前打した大山は4試合連続打点で自信を深めていた。真っすぐに絞って3球目を待ったはずだ。ゆえに打球を押し込むバッティング。カッと乾いた音を残した白球は、左中間フェンスにワンバウンドで到達した。

その裏、一塁側ベンチの方は神宮球場3連戦での悪い流れの再現となった。

阪神はWBC組の湯浅。一死から代打松山が今季初安打となる中前打、すかさず代走大盛が送られてその耳元で赤松コーチが囁く。

最後まで諦めない野球が、ドラマを生みかけていた。

だがボールカウント2-2になって、サインが出た。セットに入った湯浅は一度、目で牽制、そして今度は素早い牽制球。すでに気持ちが二塁に向いていた大盛は完全に裏をかかれてセカンド手前でタッチアウト、次の球を菊池が空振りしてファンの悲鳴とともにゲームセットとなった。

「そこは…言えない」

試合後の新井監督は大盛がアウトになった場面について語ろうとはしなかった。

ファンとともに戦うことを誓って迎えたこの日は、自身があの“出戻り”で最初に打席に立った日と同じぐらい大事な時間になった。それなのに「勝ち切りたかった」としか言えないもどかしい状況が続く。

3試合連続の1点差負けは、チームに足りない何かを象徴していることになる。

開幕を前に選手たちには自然体で思い切り戦うことを説いてきた指揮官は、自らも原点に立ち返ろうとしていた。広島のことなら誰よりもよく知っているし、愛している。

だから新聞報道などで気になっていた旧広島市民球場跡地をある晩、自分の足で確かめに行った。もうかつての市民球場の面影はどこにもない。勝鯉の森の向かい側にもカフェなどができてまるで別世界…

思い出の上に新たな今を重ねていく。どう転ぶか分からない未来へとその歩みを進める。

ただしかつてのように手にはバットではなく、タクト。

「赤い心見せ 広島を燃やせ」

そう、あの調べに乗ってナインとともに5月の広島に相応しい姿を必ず取り戻す。開幕4連敗は成長への一過程…ミスをなくすだけでも失点が1減り、得点も1増える。この日で言えば九里の送球エラーが余分な失点につながった。

旧広島市民球場時代の2004年、山本第2次政権以来となる開幕4戦全敗。

2004年と言えば近鉄球団消滅に端を発する球界再編の嵐が吹き荒れ、しかも「四番新井」失格の烙印。代わりに赤ゴジラが咆哮したシーズン…「赤い心」は何度でも復活する…「赤の魂」はどんな逆境からも這い上がる。


※この記事内で選手などの呼称は独自のものとなっています。

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