カープダイアリー第8542話「楽天との倉敷3連戦、ラストイニングで打線が”新井カープらしさ”を存分に発揮できた訳…」(2024年3月3日)

インローの難しいコースを巧くさばく執念のひと振りだった。高木翔斗のバットが弾き返した打球はセンター前へ。三塁走者の久保修に続いて二塁走者の林もホームに滑り込だ。九回、3対2、逆転!楽天・今江監督のリクエストによるインターバルを挟みスタンドのカープファンが沸いた。

倉敷マスカットスタジアムでの3連戦最終日。入場者数は第1戦の6477人から1万3198人、1万6886人と増えていった。この日の内野スタンド自由席では売り切れも出た。

“大観衆”の中でプレーして、そして一軍入りを目指す。第2戦では一次、“吹雪”にも見舞われるなど、3日間とも底冷えのする中で三塁ベンチの若ゴイたちはみな、懸命のアピールを続けた。

空に向かって打て!

新井監督がまだプロデビューして2年目の2000年、地元の中国放送がオンエアした「新井貴浩特集番組」のタイトルだ。同番組は2話が制作された。まだその時点で新井監督は一軍通算100安打にも達していなかった。

エンディング曲には当時の最新曲、Dragon Ashの“Let yourself go, Let myself go”が使われた。
 
恐れからくる一歩の遅れが致命的なロスにつながる、悩む前に実践することの大切さ、勇気ある者はいかに振舞うか?そして空に浮かぶ雲の切れ間には、誰にも分からない未来が見え隠れする…
 
新井監督はけっきょく文字通り、紆余曲折の20年間の現役生活の積み重ねの上に今のポジションに落ち着いた。そう20世紀末の時点で「新井監督」の誕生を予想した者はいない。

高木翔斗は昨秋、侍ジャパン切符を引き寄せた田村俊介と同じ2003年8月生まれ。2月のキャンプ主力組は大きな転機となった。

準備は万全とは言えないまでもできることはすべてやった。

最大の“ヒット”は自らの意思で申し込んだ鈴木誠也との合同自主トレ。新選手会長・堂林と末包というふたりの“誠也塾生”や内田湘大とともに沖縄市内で貴重な時間を過ごした。初めて目の前にしたスカゴ・カブスの中軸打者のインパクトは強烈で、その打撃フォームが自然と身体の中にしみ込んだ。

そこで学んだのはやはり“今しかない貴重な日々を野球のためだけに使え”ということだった。悩んでいる暇や立ち止まっている時間などない。高級車やステキな彼女との時間は、プロの世界で一人前になってから…「あっという間に大事な時間は過ぎていく。

新井監督ら首脳陣は「結果だけじゃなくて、その内容」を重視している。見る者が見れば今、若い選手たちが何を考え、何をどうしようとしているかなどすぐに分かる。

1年前の日南キャンプでは、いきなり新井監督の口から田村俊介の打撃スタイルのさらなる深化についての指摘があり、その通りになった。高木翔斗はそうした事実を報道で知り、負けるわけにはいかない、と奮起した。

日南と沖縄で田村俊介らとともに一軍枠を目指して鍛える日々。その延長線上にあったのが今回の倉敷遠征だった。

野手では中村貴浩、中村奨成が、投手では遠藤や斉藤優汰、それに調整遅れが響いた常廣羽也斗などが次々と二軍送りになった。一度、主力組を外されれば「開幕一軍」の夢には届かなくなる。当面の最大のライバルは石原貴規…

実はこの日の高木翔斗は厳しい条件下で九回の打席に入った。

試合前打撃練習はふたりひと組での回し打ち。一番最後に打ったのが矢野と高木翔斗だった。

「カープ練習時間終了です」

打っている最中に場内アナウンスがあり、片付け開始。それでも最後に1球だけ打ったその貪欲さ。打球はセンター前に転がった。

ベンチスタートで試合の行方を見守っていた高木翔斗は七回、久保修、林が連続空振り三振のあと二死無走者で坂倉の代打で打席に立った。マウンドには広陵高OB、3年目左腕の吉川。センター前ヒットでこの遠征でもきっちり爪痕を残した。

ところが、その裏の守りで状況は暗転。四番手で出番となった内間拓馬の制球が定まらず、二死一、三塁から痛恨のバッテリーエラー。ショートバウンドした投球を後ろに逸らした高木翔斗のホームベースカバー内間拓馬もこれまた悪送球…でミスミス先制されるとさらにそこから連続四球。満塁のピンチで救援した塹江も押し出し四球。そんなバタバタの直後でも64番には反発する余力が残っていたことになる。

九回の反撃は第2戦に続いて一番スタメンの機会を得た宇草の中前打から始まった。楽天5人目、やはり広島出身の宮森の立ち上がりを捉えた。第1打席・中直、第2打席・中飛、第3打席・ニゴロ。1本出たのは大きい。打たなければまたすぐ二軍に戻される。守備力ではライバルたちにかなわないからだ。

続く途中出場の韮澤は空振り三振に倒れ、同じく途中出場の久保修は三ゴロ。ダブルプレーゲームセットのはずが相手の送球エラーで一、三塁になった。

打席には林。前の打席の分を取り返すチャンス!結果はライト線への適時二塁打。インローの球をうまくさばいた。

新井監督の下で目指す「最後まで諦めない野球」。その続きは週末からのマツダスタジアムでの中日3連戦でまた実践されることになる。

スタメンと交代選手
レフト宇草
サード田中広輔→4回裏から韮澤
センター秋山→4回裏から久保修
ファースト ジェイク・シャイナー→4回裏から林
キャッチャー坂倉→7回代打高木翔斗
セカンド マット・レイノルズ→5回裏から矢野
ライト田村俊介
DH堂林→8回代打小園
ショート二俣

 


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