カープダイアリー第8289話「60試合通過で31勝目、サヨナラの向こう側に見える風景に」(2023年6月14日)

サヨナラの打球がファーストベースに当たって高く跳ねた。その後方、一塁線上でどんな変化にも対応できそうだった鈴木大地が伸ばすミットの上を越え、ライト線を転々…

加速した上本が頭からホームに飛び込み、ベンチから藤井ヘッドが真っ先に飛び出した。

あとから出て来た新井監督とハイタッチ。さらに朝山打撃コーチとハイタッチ。朝山打撃コーチはそのあと新井監督とハイタッチだ。

グラウンドでは坂倉に抱きつかれた野間がナインの中に見えなくなった。

RCCプロ野球解説の天谷宗一郎さんは、この日の3時間14分の熱戦を、ピタリ!ひと言で表現した。

「言葉はアレですけど、喝とあっぱれ!がいきなり来たな…という…」

試合前には大瀬良の出場選手登録抹消が発表された。交流戦3試合計18回を投げて自責9。4月末にプレー中のアクシデントで登録抹消となり、戦列復帰したものの5月半ばには右肘の痛みの影響で登板が先送りされたこともあった。

「何とか力になりたい」新井監督の就任が決まった際、大瀬良はそう話した。選手会長としての重責とともにチームの先頭に立ってフル稼働するはずだった。しかし肝心のフィジカル面で多くの問題を抱えていては如何ともしがたい。

一方、自身3連勝中の九里は、心身ともに充実した状況でローテを守り続けて、防御率も1点台。タイトルも狙える数字を残しながら推定年俸4億7500万円の田中将大との投げ合いに臨んだ。

二回、先に失点したのは九里の方。一死から岡島に投じた内角真っすぐを完璧に捉えられ弾丸ライナーが右翼席へ。だが、その後も表情一つ変えず後続を抑えると、ベンチに戻ってもクールに振舞った。

こうしたひとつひとつの“実績”がけっきょく自分自身の存在を大きなものにしていく。「一喜一憂しない」というのが大前提。米国ひとり武者修行など、視野を広げたことでいろいろなモノが見えてきた。

その裏、一死一塁から推定年俸1100万円の矢野が粘って四球を選び、九里がしっかり送ってチャンス到来!菊池のレフト線二塁打で2対1と逆転に成功して田中将大の表情を厳しくさせた。

ところが四回、手痛いエラーで追いつかれる。二死二、三塁から鈴木大地の打球は二遊間へ。深い位置から菊池が正確に送球したにもかかわらずファースト林は落球。ガッツポーズになりかけた九里はマウンドにしゃがみ込んだ。

五回の攻撃では内野安打の菊池を置いて野間の流し打ちがショート山崎の美技に遭いライナーゲッツー…。九里は五回に続いて六、七回も3人で片付けて援護を待った。

迎えた七回、楽天は二番手安樂にスイッチした。代打田中広輔の内野安打に続いて菊池の送りバントが敵失を招いて無死一、二塁。最高の場面で野間は送りバントを二度失敗したあとサード頭上へ勝ち越し適時打を放った。

ところがこれで話は終わらない。九回の矢崎が浅村に11号ソロを許して試合は振り出しに戻ったのである。

仕切り直しとなってもなお打線は粘り強く、松井裕樹から代打上本が中前打して突破口を開き、菊池の送りバントでサヨナラをお膳立てした。

「失敗はあるのでね。自分もたくさんミスをしてきた。次が大切。前へ前へとやって欲しい。特に試合中。反省は試合が終わってからでいい」

新井監督のこうした思いがどこまで選手に浸透しているか、は今の成績を見ればわかる。打たれた矢崎はまたあすも出番が来れば抑えるだろうし、林にもスタメンのチャンスが与えられる。

こうした戦いの積み重ねで、交流戦勝率はまた5割に戻った。12球団サバイバルゲームで“負け組”に回っていた昨季までのひ弱さとは無縁の様相だ。

60試合を消化してサヨナラ負け6度は相当のものだ。サヨナラ勝ちはこれでやっと3度目。それでもなお、トータル31勝29敗、貯金2。

昨季の60試合通過時点の成績は29勝29敗2分けでほぼ“互角”。順位的には昨季は3位、今季は4位。指揮官にとってもナインにとってもここからが“勝負”ということになる。

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