カープダイアリー第8357話「野間さん。打ってよしすねぇ、守ってよし、走ってよし、峻祥ですか?」(2023年8月26日)

両軍合わせて25安打、3時間46分ゲームは7対6でカープが逃げ切った。ベンチ裏の、ファンには見えにくいところで両軍監督のコントラストが際立った。
 
「何もありません」
 
三塁側通路から帰りのバスへと向かう高津監督の表情は硬かった。チームは5連敗となり借金は今季最多の18に膨らんだ。何よりマツダスタジアムで11戦11敗。昨季までリーグ優勝への貯金口座が開設されていたはずだが、どこでどうなったのか?
 
8月8日からの神宮球場3連戦では5-4、11-5、13-3という特徴的なスコアで後輩にあたる新井監督に高校先輩の威厳を見せつけたはずだった。しかも第3戦で勝ち投手になったピーターズはカープ打線を分断する術を心得ていた。
 
今季この日までに5試合に先発して対戦防御率は1・74…
 
・4月1日(神宮球場)6回78球2安打3三振無四球無失点、勝ち負けつかず
・5月27日(マツダスタジアム)7回100球4安打5三振2四球1失点、負け投手
・7月1日(神宮球場)5回2/3、108球7安打3三振1四球2失点、勝ち投手
・7月25日(マツダスタジアム)5回1/3、97球6安打8三振2四球2失点、勝ち負けつかず
・8月10日(神宮球場)7回107球7安打2三振1四球1失点、勝ち投手
 
この日も序盤3回を終えて5対1とゲームの主導権をほぼ掌握しかけていた。それでもモノの見事にひっくり返された。期待の左腕は5回101球降板となり被安打9で7失点…
 
3万人を超えるスタンドではスワローズファンが狭いエリアに押し込められるようにして座っていた。そんなビジパフォからの声援を受けても、もうかつてのような反骨のエネルギーは沸いてこないようだ。
 
新井監督のインタビューの方は質問者が戸惑うほどの明るさ?だった。
 
-四回に打線がつながりました。
 
新井監督 各自が粘り強く後ろの打者へ、と。私たちカープの持ち味ですからね(満面の笑み)。良かったと思います。
 
森下が4回5失点で降板せざるをえなくなった中、四回は龍馬、堂林の連打と曾澤の四球で一死満塁として末包が右打ち。これが2点タイムリーとなりさらに菊池申告敬遠で再び満塁となって野間もライト前に2点タイムリー…
 
-野間選手、満塁で勝負強さを発揮。きょう3安打です。


新井監督 いやぁ頼りになりますねー!野間さん。打ってよしすねぇ、守ってよし、走ってよし、峻祥ですか?
 
-はい(もう笑うしかない…?近くにいた番記者らも同様…)
 
「野間さん…」と言った時点で新井監督の目はもう笑っていた。そこを読んでください!というのが新井流…

日々の戦いと一緒で”仕込み”上手の指揮官は、場の雰囲気を取り繕うことにも慣れている。締めのコメントで”乱れ”は修正された。
 
「何も言うことはございませんね。彼はいつもね、チャンスでオレに回してくれって言ってますから。ほんとに頼りになる選手です」
 
クオリティスタート成功が当たり前の右腕がKOされたなら、今度はみんなで取り返す。新井監督の誉め言葉はマットにも向けられた。
 
新井監督 ずっと彼はがんばってますので、ほんとにホームランというのはベンチも助かりますし、彼の日頃の努力とバッティングコーチのサポートの賜物だと思います。
 
コンディション不良もあり二軍調整も経験したマットが、ここにきて柵越え量産体制に入った。8月19日の巨人戦で13号ソロを放ってからこれでマツダスタジアムでは4試合連続弾。しかも来日初の1試合2発を打つべき相手から放ったのである。
 
「打ったのはストレート。いろいろタイミングを変えてくるピッチャーなので高目にきた球を狙って準備していた。2ストライク(1ボール)だったからコンパクトに振ることを心掛けた」(2点を追いかける二回、先頭打者で16号ソロ)
 
「打ったのはフォーク。内角球や外の見せ球もある中2ストライク(1ボール)に追い込まれた、フォークがあることは頭にあったのでしっかり捉えることができた」(5対6と1点勝ち越された直後の五回の攻撃、一死一塁から17号2ラン)
 
マットアロー2発はともに高々と舞い上がり、1本目は夕焼け空をバックに、2本目はナイター照明を受けながらいずれもレフトコンコースに着弾した。
それだけじゃない。七回の第4打席では木澤からセカンド右を抜くヒットも放った。
 
開幕から長期不振が続く中「センター方向オンリー」の指示が出されてもなかなか「自分の間」で振り抜くことができないでいたが「暑くてしんどいので…」と自慢のあごひげを全面的にそり落とし突如として打撃内容も別人のようになった。そう、正に別人95号…
 
球団HPにその髭なしイケメン姿が紹介されたのがやはり8月10日だった。ただこの日の対ピーターズ用に組まれた打線の中にマットの名前はなく、代打で出番が回ってきた六回に左腕から左越え二塁打を放って意地を見せたのだった。
 
新井監督は現役時代に「僕は機械じゃない、人間だから感情がある」と言っていた。チームを預かってからは「選手は機械じゃない…」に変わった。
 
この日、三番手で投げ、一死満塁のピンチを乗り切った中崎は球団6人目の100HPに到達したが、やはり新井監督の下で地道に努力を重ねて大事な持ち場を任されるようになった。同じくブルペン陣では島内も32ホールドとして球団日本人最多記録を更新した。
 
就任当初から「目指すべき監督像はなくて、自分の思うようにやる」と話してきた新井監督はその言葉通りの姿を2月のキャンプインから見せ続け、チームに新しい風、より新鮮な”赤い心”を吹き込んだ。
 
パ・リーグでは、新井監督と懇意の「水本さん」が京セラドームベンチの中嶋監督の隣で笑顔になり、オリックスにも優勝マジック24が点灯した。
 
東京ドームの阪神は9対6で巨人を蹴散らしてM22とまた前進した。もう間もなくレギュラーシーズンの決着を見ることになるだろう。阪神に待った!をかけることができたなら、新井監督はどんな一発ギャグをかますだろうか?
 
 
 
26日 広島7―6ヤクルト(マツダ)  ヤクルトはまたしても広島で勝てなかった。接戦を落とした逆転負けで、今季マツダスタジアムでの広島戦は11戦全敗。この日も敵地で続く屈辱の連敗を止められなかった。  主砲の村上宗隆内野手は、ここぞの場面でことごとく、バットが空を切った。3回無死満塁、5回無死一、三塁でともに空振り三振。両チーム合わせて25安打の乱打戦となったが、3打数無安打で蚊帳の外だった村上は、硬い表情で球場を後にした。  先発のディロン・ピーターズ投手は5イニングを来日1年目でワーストの7失点。3回まで4点あったリードを守れなかった。広島相手に前回までの5試合で防御率1・74と抜群の安定感を誇っていた左腕がまさかの炎上。降板後は「何もありません」と悔しさをにじませた。  チームは今季5度目の5連敗。借金を同ワーストの18に更新した。高津臣吾監督は絶好機で精彩を欠いた村上に「前に飛ばしてほしいところでの三振。もちろん本人もわかっているでしょうけど、なんとかしてほしかったというのはありますね」とがっかり。マット・デビッドソンに決勝2ランを含む2本の本塁打を喫したピーターズの投球を「逆球のまっすぐと変化しなかった変化球で一発。その2本っていうのが効いたゲームでしたね」と振り返った。

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