カープダイアリー第8363話「長良川から早朝移動でマツダスタジアムへ、昼過ぎのグラウンドにカープ家族の風景」(2023年9月1日)

試合開始直前のマツダスタジアム放送ブース。Jスポーツ解説の達川光男さんが言った。

「ファンにね、夢を、希望を持ってもらうために、私らは(首位とのゲーム差)5・5をね、1986年残り25試合、巨人をひっくり返しました!」

本拠地に中日を迎えての3連戦初戦。前夜、長良川球場で巨人に負けたことで首位阪神までのゲーム差が5・5に開いた。

阪神が残り26試合を勝率5割で行けば最終勝率は・590。カープがそれを上回るには、今後の直接対決の結果にもよるが18勝5敗のハイペースが求められる。

要するに9月は1勝の、1敗の重みがぜんぜん違ってくる。

しかし試合は意外な展開になった。

先発の玉村が初回、一死からカリステに左前打されると、細川をクロスファイヤーで見逃し三振に仕留めたあと、石川昂にライト線に落ちる適時二塁打を許した。

打ち取ったような打球だっただけに残念な失点になった。

二回を9球で片付けたあと、三回に“悲劇”が待っていた。カリステにはレフトコンコース手前のテラス席に来日1号を、続く細川にもレフトスタンドへ19号を許した。

カリステには初球のカーブが浮いたあとの高目の真っ直ぐを高々と上げられ、細川には低目にスライダーを投じたにも関わらず低い弾道で運ばれた。

8月、巨人戦のみ2試合に投げて2勝を挙げた玉村はその後、登板機会がないまま一軍帯同で調整してきた。11日空いたから難しい部分もあっただろう。

ここまで中日とは9勝8敗1分けできていたチームにとって、この3連戦は3連勝以外に考えられない状況だった。それなのにチーム本塁打数リーグダントツ最少の中日打線にホームラン2本献上…やってはいけないことが起こった。

打線は五回、小園の5号ソロで反撃開始。六回には小園、龍馬の連打で無死二、三塁としてプロ6度目の先発マウンドに上がったドラ1右腕、仲地を降板に追い込んだ。

さらに二番手のフェリスも打って3対3同点に追いつき“逆転のカープ”を匂わせた。

今季、マツダスタジアムでは38勝18敗、圧倒的なその強さはリーグ3連覇の頃に匹敵する。一方の中日ベンチは同点になったことで青ざめたかもしれない。マツダスタジアム14連敗中。いい思い出は皆無に等しかった。

ところが八回、試合を決する一発がまたしても中日打線から飛び出した。

八回は自己最多タイとなる51試合目登板の島内。にわかに雨が落ち始める中、先頭の岡林を打ち取ったあと、カリステにチェンジアップを3球続けた。結果は1号弾よりさらに飛距離の出たレフトコンコースへのホームラン。2球目をファウルにした時には合っていないように見えたのに3球目は完璧に振り抜かれた。

今季、ブルペン陣ではただひとり開幕から一軍に帯同し続ける島内。投げるたびに新たな自分を発見してチームの勝利に貢献してきた。ただ、この一発を食らったこと動揺は隠せず、四球絡みの2安打で2点目を失い交代となった。

この2点は残り2イニングの打線にとって極めて重い。九回にはR・マルティネスが出てくるからだ。

勝負はその裏、八回の攻撃。だが育成1ルーキー松山の前に頼みの堂林、末包は三振に終わった。六回、四球で出塁して代走を送られたマットはベンチで声を出すしかなかった。

「ドラゴンズファン、カープファンのみなさん、素晴らしい応援ありがとうございました。またドラゴンズファンのみなさん、名古屋から広島までお越しいただきありがとうございました」

5対3で勝った中日のヒーロー、カリステの声がマツダスタジアムに響き、ビジパフォのドラゴンズファンから歓声が上がった。

そう、中日ナインがこの日の朝イチで名古屋から広島入りしたように、カープナインも岐阜市内からの新幹線移動を強いられた。

名古屋-広島間だけでものぞみで2時間ちょっとかかる。それでも正午前にはもう新井監督や羽月、大盛ら控えメンバーは半パン、Tシャツ姿になってグラウンドに姿を見せた。

朝山、迎の両打撃コーチも伴ってフリー打撃がほどなく始まった。ロングティも取り入れた。選手たちの方から希望した練習であり、それに監督自身も同じトレーニング姿になって参加する。外野のフェンス沿いでは松山がひとり黙々とランニングを続けていた。

山本浩二-マーティ・ブラウン-野村謙二郎-緒方孝市-佐々岡真司とバトンが繋がれてきた中にあって、こういうシーンに出会うことはなかった。

それが新井監督の言う「カープは家族」。勝った阪神に優勝マジック18が点灯しても「日本一」目指してやることは変わらない。


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