カープダイアリー第8358 話「新井vs高津、マツダスタジアム5時間1分勝負はドロー」(2023年8月27日)

夏の終わりに5時間を超える死闘が待っていた。それは2月のキャンプ以来、“みんな”でやってきたことを表現する一つの集大成だった。相手は借金まみれとはいえリーグ連覇のヤクルト、そして県工の先輩後輩対決、舞台もふたりに関係の深いマツダスタジアム…

グラウンドには異様に張り詰めた空気が漂っていた。セカンドランナーはワンバウンドでスタンドインした坂倉の代走羽月。ファーストランナーは申告敬遠された堂林の代走中村奨成。そして打席にはこの日ベンチ入りしたメンバーの最後のひとり、代打磯村が入った。

マウンドにはヤクルト8人目の山本。自ら招いたピンチで顔面蒼白に近い状態になっていた。

時計の針は午後11時を回り、それでも大勢のカープファンが声だけの応援で盛り上がっていた。いやビジパフォのスワローズファンもまた、今季12戦目での敵地初勝利を見届けるため宿舎に戻らず声を枯らしていた。

両軍合計でこの日506球目を山本が投じて磯村が引っ張った。バウンドした打球は三遊間を抜けることなくショート長岡が捕球した。そのタイミングで右手を回していた赤松三塁コーチはストップをかけた。しかし加速した羽月はオーバーラン。サード村上にボールが送られてタッチアウト、ゲームセットとなった。

「全員野球、それがカープの野球…」

勝てなかったことより新井監督は選手たちの「球際の強さ」に改めて手ごたえを感じたはずだ。

6対7ビハインドの五回、マウンドに送ったのは益田武尚。二死二塁から一番武岡に右前打されたが末包のダイレクト返球で突っ込んできた古賀を余裕のタッチアウトにした。

前日、森下のダブルエラーを誘発するホームへの悪送球を犯した末包は、しかしこの日、初回にヤクルト先発の高橋から満塁弾をかっ飛ばして四回の第2打席でも柵越えと同じ右方向にヒットを放った。「ミスをしたあとどうするか?」チーム全体のテーマを末包が実践して見せた。

六回の大道は先頭の二番青木を歩かせた。一死から村上に中越え二塁打を打たれたがここも野間-小園-坂倉で青木を余裕で待ち構えてアウトにすることができた。

八回、堂林がバットを真っ二つにされなかがセンター前に落として試合は振り出しに。

延長十回の島内も二塁に走者を背負うピッチングになったが、これまで散々がんばってきたからたまには運も味方する。青木への初球がホームベースで強く跳ねてヤクルトベンチ前まで転がり、丸山和は三塁も蹴ってホーム突入、しかし島内のタッチに行くグラブに坂倉の返球が収まり三度、追加点を阻止することができた。

だが、ここでカープベンチには難題が残された。残る投手はアドゥワひとり。延長は最大であと2イニング。

スタンドの拍手をからだいっぱいに浴びておよそ4カ月ぶりの一軍の舞台で、しかしアドゥワは投げることに没頭した。邪心なし。延長十一回の一死一塁では村上を空振り三振に、二塁打2本と3ランで5打点のサンタナを見逃し三振に仕留めた。

延長十二回はオスナの強烈なワンバウドする打球を叩き落として投ゴロにすり替え、ぴしゃりと3人で抑えてみせた。

この日、マツダスタジアムにほど近いイオンモール広島府中では日テレ系「24時間テレビ」の募金会場が設置され、カープOB安部友裕さんのトークショーがあった。

「覇気の出し方」を訪ねられた安部友裕さんは「没頭することです。自分から進んでやる!人から言われて出すもんじゃありません」と明快回答だった。

前日、Jスポーツ中継の解説を務めたは際には中村奨成 ついて実況アナから聞かれ「戦っている対象がまだまだ違う印象です。見えない何かと戦っている印象が非常に強いです」とここでも明快回答だった。

それでいえばこの日、二軍での万全の調整を経て先発マウンドに上がった黒原が「見えない何か」と戦う投球に終始した。立ち上がりに2失点。すぐに大量援護をもらったのに二回にも二死一、二塁のピンチを招き三回には長短3安打されて2点を失い降板した。

続く四回には森浦があっさり逆転3ランを浴びるという、ある意味最悪の展開になりかけたが、そこからまたみんなでファイティングポーズを取り続ける。

残り試合27はリーズ最少で、まだまだずっと見ていたいような戦いの日々が続く。それが新井カープのあるべき姿、今季マツダスタジアムでは38勝18敗、そこに初めて引き分け1が加わった。

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