万葉人たちの結晶

今は昔、万葉人という者ありけり。
それぞれの想いを和歌に詠い、それを或る歌集にまとめた。

それこそが、『万葉集』だ。

万葉集には天皇や貴族の歌はもちろん、庶民の歌までも収められている。

そんな万葉集には紹介したい年末年始に相応しい歌がある。

「新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事」

大伴家持の和歌である。
年が明け、新春の今日に降る雪みたいに良い事がたくさん起これという願望を詠んだ歌。
この歌は、恩師ともいえるおじいちゃん先生が紹介して頂いた歌でもある。
この先生は今の私を形づくったと言っても過言ではない程、恩を感じている。
古典に興味を持っているのも、漢検に合格したのも、この先生のお蔭である。
そんな先生が新年の授業で紹介して頂いた。

皆さんにもどうか良い事が起こる2023年になる事を祈っている。




これで、記事を締められるわけがないだろう。

万葉集にはまだまだ語りたい魅力がある。

万葉人たちの燃えるような恋から、チクリと刺さる嫉妬。七夕伝説に馳せる想いに、占いに一喜一憂する者たちなどなど。

これだけ聞いただけでも、興味をそそられるのでは。

そんな魅力たっぷりの万葉集を一言コメントと共に一気に紹介してこう。


まずは、紅蓮の如く燃え盛る恋の歌から。

恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から
[こいくさをちからくるまにななくるまつみてこふらくわがこころから]

「私の恋を草に例えるくらいなら荷車七台くらい積み上げるほど熱い恋を心からしているの」
という廣河女王の熱い恋の気持ちを歌った相聞歌。


続いては、占いに一喜一憂する万葉人たちの歌を三首をご紹介。


眉根掻き鼻ひ紐解け待てりやもいつかも見むと恋ひ来し我れを
[まよねかきはなひひもとけまてらやもいつかもみむとこひこしわれを]

「あの娘はきっと眉を搔いているだろう、くしゃみをして、下着の紐がほどけて恋しく思っている私が来るのをいつかいつかと待ち焦がれているだろうよ」
これらの事象は当時、恋人と会える前兆のようなものである。
この歌は「※今日俺が来る前兆がたくさんあっただろう? ずっと君の所に行きたい行きたいと思っていたからね、その思い伝わったよね?」という想いを詠んでいる。

※「エロスで読み解く万葉集」大塚ひかり著より引用
おすすめの一冊です!


相思はず君はあるらしぬばたまの夢にも見えずうけひて寝れど
[あひおもはずきみはあるらしぬばたまのいめにもみえずうけひてぬれど]

「両想いじゃなかったらしいの。神様にお願いまでして寝たのに夢で貴方に逢えなかったのに」
愛する人と夢を見るためにあれやこれやと試す歌は多くある。これもその一つ。
この歌を歌った人は残念ながら夢で愛しの彼には逢えなかったらしい。
こんな切ない和歌も万葉集には少なくない。
それにしても両想いでないと決めつけるのは時期尚早だと思うのだが。
しかし、当時の人が占いや神頼みを大事にしていたことの証明でもある。


言霊の八十の衢に夕占問ふ占正に告る妹は相寄らむ
[ことだまのやそのちまたにゆうけとふうらまさにのるいもはあひよらむ]

「人々の噂が飛び交う上代のスクランブル交差点で占いをしたら、結果は吉だって。これは、愛しいあの娘との恋は成就するよ」
八十の衢の訳、「上代のスクランブル交差点」は大塚ひかりさんの訳をリスペクトしたものだ。おそらく十字路みたいな場所で人通りの多い所は運気が溜まりやすいというような迷信があった。そこで、吉とでたので男は恋が成就するかもとはしゃいでいるのだ。
これはこれで、過信であるが。


続いては、恋にはつきものである嫉妬の歌。

うちひさす宮の我が背は大和女の膝まくごとに我を忘らすな
[うちひさすみやのわがせはやまとめのひざまくごとにわれをわすらすな]

「日が差している宮に出張している彼は宮の女に膝枕されている度に私のことを忘れてはダメよ」
出張中の彼に他の女とイチャついてもいいけど私のことを忘れてはいけませんよと釘を刺す彼女。
イチャついている前提であるのも面白い点だが、このようなシチュエーション、現代でもありそうであるのもおすすめポイント。
こういうのは今も昔も変わらないことなのかもしれない。

まだまだ紹介したいが紹介しきれないので、
最後にまとめて和歌のみ紹介しようと思う。

年にありて今か巻くらむぬばたまの夜霧隠れる遠妻の手を


角島の瀬戸のわかめは人のむた荒かりしかど我とは和海藻


はなはだも降らぬ雪ゆゑこちたくも天つみ空は雲らひにつつ


しぐれ降る暁月夜紐解かず恋ふらむ君と居らましものを


どうであっただろうか。
万葉集は現代にも通ずるものや、魅力がたくさんある。
それだけでなく、多くの作品に影響している。
かの有名な源氏物語にも引用されているほか、多くの和歌にその源流がみえる。

魅惑的な万葉集に多くの人が魅了されている。
是非、最古の和歌の世界に彷徨ってみるのも良いのではないだろうか。

そうおすすめしたきなるほど、万葉集には万葉人のすべてが結晶として凝縮されているのである。


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