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5月7日は「ゴナ」の日?

パソコンやスマホでテキストを編集する人が多い昨今、「フォント」や「書体」と言っても、多くの人に通じるのではないでしょうか。

フォントの中で、ポピュラーなのは「明朝体」と「ゴシック体」ですね。

一般的な縦組みの書籍の本文で多く使われている、筆で書いたような活字が「明朝体」です。

明朝体はもともと、中国の書体で、「明(みん)」という王朝が栄えた時代に使われていた書体でした。

それが活版印刷の技術とともに、明治時代に日本に伝わりました。

と言っても、日本人は中国人に活版の技術を教わったのではありません。アメリカ人の宣教師がそれを教えてくれたのです。

この辺の事情についてもおもしろいエピソードがあるのですが、今日の記事の本題ではないので、また、機会があったら書くことにします。

▲どのようにして日本に活字が伝わったかこの本に詳しく書いてある

「ゴシック体」は、見出しによく使われる太めの書体で、明朝体に比べると、文字を構成する線が均一に近い太さになっています。

ゴシック体は、日本で作られたオリジナルのものですが、この書体にもモチーフはあります。

それは欧米発祥の「サンセリフ体(sans-serif)」です。

▲この「ヘルベチカ」という書体は、サンセリフ体の代表的な書体

「サンセリフ体」の「サン(sans)」は、フランス語で「無い」という意味、「セリフ(serif)」は、日本語では「うろこ」などと言われます。

「うろこ」は筆で書いた文字の端の部分にある、小さな山のような部分のことです。文字の書きはじめ、終わりの「はらい」や「とめ」の部分ですね。

つまり、「サンセリフ」は、「うろこがない」という意味になります。

上に示した「ヘルベチカ」という書体を見てもらうとわかると思いますが、筆で書いた文字とは違って、線の端にうろこがなく、線の太さが均一になっていますよね。

日本のゴシック体は、このサンセリフ体をモチーフにして作られたようで、その昔は「呉竹(ゴチック)」と表記されていました。

ゴシック体は、サンセリフ体とは違って、うろこがあるので、まったく同じというわけではありません。

その起源には諸説あり、「隷書体(れいしょたい:篆刻に使われた書体)」から派生して、ゴシック体が作られたとする文献もあります。

これは私の個人的な見解ですが、サンセリフ体、隷書体の二つを融合して生まれたのがゴシック体ではないかと思っています。

また、参考にされた比率としては、サンセリフ体の方が大きかったのではないでしょうか。

というのも、その当時、アメリカで作られていたサンセリフ体の書体には「○○ゴシック」というような名前が多くあるのです。

ヨーロッパで「ゴシック」というと、ドイツ発祥の「ブラックレター」という書体のことを指します。

▲この本の題字に使われているのがブラックレター

ですから、日本でもこのような書体を「ゴシック」と命名したのは、アメリカで作られていたサンセリフ体の活字が影響していると考えられるのです。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

この記事のタイトルにある「ゴナ」というのは、その昔、日本で大流行りしたゴシック体に属する書体です。

ゴナは写真植字(写植:写真の技術を応用した活字)の時代に作られた書体です。

日本の活字は正方形の枠に収めるように設計されており、隣接する文字同士がくっつかないように、文字の外側に余白を作ります。

したがって、活字の実際の大きさよりも印字される文字は小さく設計しなくてはならないのです。

ところが、写植では活字の枠の制限が大幅に緩和され、文字自体の大きさを大きく設計できるようになりました。

写植の活字は金属で作られた版ではなく、レンズを通して印画紙に投影するものなので、文字同士を重ねることすらできるのです。

そんな環境が整い、‘70年代に生まれた書体がゴナでした。

ゴナは従来のゴシック体よりもさらにサンセリフ体に近く、うろこもなく、線の太さが均一に作られていました。

ちなみに「ゴナ」の名前の由来は「中村ゴシック」で、これはこの書体を手がけた中村征宏さんの名前に因んだものです。

中村さんは、写植メーカーに入る前は、看板の文字を描く職人さんだったそうで、看板に書くような太くて大きい文字を写植で再現するべく、ゴナを設計しました。

ゴナは写植メーカーが全盛の時代には、特に人気のフォントでした。印刷物だけでなく、町の看板やサイン表示、テレビのテロップなどにも多様され、一世を風靡しました。

今でこそ、ゴナに類似したフォントは巷に溢れていますが、当時はゴナのように大きくて見やすいフォントは画期的だったのです。

ちなみに、この記事、「ゴナの日」というタイトルですが、5月7日=ゴナという単純な語呂合わせで、私が勝手に作りました^^;

写植メーカーのフォントなので、今はほとんど使われていませんが、日本の印刷史に残る伝説のフォントです。古くからある看板のサイン表示に今でも残っていることがあります。

一般的ではない話なので、この記事で初めて知った方が多いかもしれません。

忘れ去られてほしくないと思い記事にしてみました。




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