一華 -Ikka-

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内燃「2.書き潰した願い」

 俺たちは大会を一ヶ月後に控えていた。若手の登竜門で、五年目になる俺たちにとっては、ラストイヤーになる大会だ。まだ、勝負のネタが完成していないので、少し焦りを感じている。それは、一ノ瀬も同じのようで、とにかくネタ合わせをしようと訴えてくる。切羽詰まっていることは確かだったので、とりあえず集まることにした。  そういう日は必ず、半額の惣菜を買い、俺の家で集まることになっていた。四畳半のワンルームは、一人で暮らすのには便利だが、二人で過ごすには少し狭い。 基本は俺がネタを書くこ

    • 内燃 「1.漫才バンザイ!!」

      「漫才バンザイ!!」  突然、一ノ瀬が叫んだ。通りがかったカップルと足早に歩くサラリーマンがこちらをチラリと見たが、そのまま雑踏へと消えていった。 「どうもありがとうございました!」  受け取り手のいない虚しい音は、サラリーマンのように街に溶け込んでいった。空の水色は鮮やかさを急速に失い、ビルが辺りに暗い陰を落としていた。 「今日はこの辺にしとこか。」  そう言って、カンパ用の箱を取り上げた。サクラでいれておいた小銭以外は入っていない。いつものことだ。  この街のお笑いに対す

    内燃「2.書き潰した願い」