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「いきてゆくって、カッコいい」介護福祉士&カメラマンとして写真展に関わる水本光さん

「いきてゆくウィーク」は、大阪府豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。

高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、さまざまな方が参加したり、学んだりできるようなイベントになっています。今年度は、11月7日から11月13日の1週間、オンラインを中心にイベントを開催しました。

このnoteでは、いきてゆくウィークに関わるメンバーの想いや背景を発信しています。今回インタビューしたのは、介護福祉士でカメラマンとしても活動中の水本光(みずもと・ひかる)さん。

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今をいきる高齢者のみなさんの写真展示をした「いきてゆく写真館」に企画から関わり、カメラマンを務められました。そんな水本さんに、これまでの経緯や運営の中で感じたことを伺いました。

最期を過ごした介護施設の思い出も残ってほしい

── どのような経緯で、介護の仕事を始めることになったのでしょうか。

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高校を卒業してから、建築の勉強のため大阪の学校に進学しました。でも、途中で挫折してしまい、「自分に合う仕事はなんだろう?」といろんな仕事を転々としている時期があったんです。当時は仕事に行き詰まりを感じていました。

それで、親が介護職に就いていたこともあり、介護業界で働いてみることにしたんです。そんな経緯があって、未経験の中職業訓練校に通い、介護福祉士として働くことになりました。介護については、楽しいというより大変そうというイメージを持っていましたね。

── 水本さんは介護福祉士の他に、カメラマンとしても活躍されていますよね。

カメラを始める1番のきっかけになったのが、介護の仕事を始めてから出会った利用者さんのお葬式でした。そこで使われていた遺影写真が集合写真を引き伸ばしたような感じですごくぼやけていて、若い頃の写真だったんです。

大好きな方だったのに、僕が知っている方だとひと目でわからない写真で。「どうして最近の写真じゃないんだろう」とすごく残念な気持ちになったことを覚えています。

その方は施設で暮らしていたとき、持病の影響で言葉を使ってコミュニケーションを取ることは難しい状態でした。でも、笑ったり困った顔をしたりして、表情で僕に気持ちを伝えてくれたんです。

その人の人生にとって終末期の短い期間かもしれませんが施設での生活も楽しんでほしいし、終の棲家としても大切な思い出を積み重ねていってほしかったんです。それに、施設の暮らしの中でもすごく素敵だなと感じる場面はたくさんあるんですよね。

それなのに、お葬式では昔の写真が使われていて、すごくショックを受けました。「施設で暮らしたときの思い出は残らないんだ」「終末期って人生でとても大事な時間なのに、なんで記録に残らないんだろう」と感じたんです。

この出来事がきっかけになって、働いていた介護施設で写真撮影をする機会をつくろうと思いました。施設に写真館が来たというコンセプトで、イベントができたらいいなと思いついたんです。

お化粧をしたりオシャレを楽しんでもらったりして、おひとりでも好きな利用者さんや職員さんと一緒にでも、写真撮影を楽しめるイベントです。

そんな時間をつくれたら、施設での暮らしも思い出として積み重ねていけるのではないかと思ったんです。家族が集まるきっかけにもなるという想いもあって、初めて企画書を書いて「こんなイベントをしたいです」と当時の上司に伝えました。それで、「出張写真館」というイベントが生まれました。

今をいきる高齢者の写真展示をした、いきてゆく写真館

── 出張写真館当日は、どのような様子でしたか。

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イベント前は、カメラを向けることで利用者さんを嫌な気持ちにさせないかすごく不安でした。でも、実際は利用者さんがすごく喜んでくれたんです。

中には、ぼくの苦手だなと感じていた男性の利用者さんも参加してくれました。服薬などの介助中によく怒らせてしまったりして少し苦手意識があったんです。それで、カメラを向けるのは正直怖かったのですが「写真を撮らせてください」とお願いすると、優しい表情で「どうポーズをとったらいいんや?」「こうか?」と言ってくれました。

また、ある女性の利用者さんも参加してくれたのですが、撮った写真をモニターに映し出したとき、「本当に私?信じられへん。写真ちょうだい」と何度も喜んでくれたんです。写真を見せる度に喜んでくれたことが嬉しかったですね。

「はじめて介護以外のことで役に立てた」、「写真でも喜んでもらうことができるんだ」と思いましたね。2回目のイベント時には、利用者さんのご家族が遠方から来てくれたんです。「出張写真館」は僕の自信にもなりました。

── いきてゆくウィークで水本さんは「いきてゆく写真館」の企画に関わられていましたね。企画が決まった経緯について教えていただけますか。

去年の7月に一般に開かれて行われたオープンミーティングに参加したのが、いきてゆくウィークとの最初の接点です。運営メンバーに声をかけてもらったんです。最初は、遊びに行く気持ちでしたが、どんどんイベントに巻き込まれていきましたね(笑)

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その後のミーティングで、企画がどんどん形になっていきました。いきてゆくウィークでも写真館ができたらいいなと思ったので、「いきてゆく写真館」を企画名にするのはどうかと提案したんです。

最初、チームのメンバーと企画していたのは、来場者の方みんなでつくる写真館でした。会場を写真館のようにして、その場で来場者の写真を撮り、会場に貼っていくという企画です。

あるメンバーが「いきてゆくって年齢は関係ないよね」という意見を出してくれて本当だなと思ったんです。高齢者の方だけに限定するのではなく、イベントに来てくれた方みんなでつくり上げる写真展になればいいなという想いを込めていました。

その他にも、昔の写真を持ってきてもらい同じポージングの写真を撮るなど、いろんな企画を考えていました。でも、新型コロナウイルスの影響で、イベントが現地開催からオンライン開催に変更になったと昨年9月に聞きました。それで、急遽いきてゆく写真館の内容も大幅に変更することになりました。

最初は写真のコンテンツ自体がなくなってしまうかもしれないと思いましたが、いきてゆく写真館は現地で開催できることになったんです。それで、豊中市で暮らしている高齢者の皆さんの写真を撮影して展示することになりました。

最年長は102歳。20名近くのモデルを撮影

── 撮影当日の様子について教えていただけますか。

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60代から102歳の20名近くのおじいちゃんおばあちゃんにご協力いただき、撮影は豊中市の岡町商店街を中心に行いました。「ここで撮影は少し辛いかな」「車椅子から立ち上がってもらうとき、どこを掴んだらいいかな」など、事前にロケハンをしてどこで撮影するか考えましたね。

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介護福祉士ということもあって、撮影当日のリスクを心配していたんです。初対面で幅広い年齢の皆さんを撮影することになったので、当日は本当に不安でした。

例えば、絵を描くことが好きなおばあちゃんを撮影したとき、最初はお互いに緊張して距離を感じました。はじめに撮った写真も素敵でしたが、まだベストの写真にはなっていないなと焦っていたんです。

それで、当初予定にはありませんでしたが、大石塚古墳と小石塚古墳のある古墳公園で撮影することになりました。公園に着いたとき、おばあちゃんが「わー、ドングリがこんなにたくさんある」と言って、ドングリを拾い始めたんです。

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すごくいきいきした表情で、両手いっぱいになるくらいドングリを拾って、「小さい頃、よくこういう遊びをして」とリラックスした様子で話してくれました。そのときに、「1枚撮らせてください」とお願いして、その写真をイベント当日に飾らせていただきました。

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撮影の中で、皆さん一人ひとりが自分らしさを持たれていると感じましたね。例えば、山登りが好きなおばあちゃんがすごく大事にしているリュックを持ってきてくれたり、定年してから卓球を始めたおじいちゃんがゼッケン姿で撮影に来てくれたり。モデルを務めてくださったすべての方々が、印象に残っています。

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「自分はこんな人間で、これが好き」ということをいきいきと話してくれて、初対面の僕を受け止めてくれました。

どうおじいちゃんおばあちゃんをカッコよく撮影できるかを僕は考えていましたが、実際は皆さんがいきいきと自分を表現されていました。自然と自分を表現されている様子に合わせて、僕がシャッターを切る。そんな撮影でしたね。

カッコよく撮ろうとしなくても、おじいちゃんとおばあちゃんが、すごくカッコいいんです。「いきてゆくってすごくカッコいいな」「長生きってすごいな」と思いました。

── 撮影中にモデルさんから聞いた話で、印象に残っていることはありますか。

お寿司屋さんの大将から聞いた言葉が印象に残っています。仕事を始めて46年経った大将に、一つの仕事を続けられる理由を聞いたんです。

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そうしたら、大将は「わかんねえけど、ここまで続いた」と。「好きかどうかもわかんねえけど、食べていくには続けていくしかない。お客さんが来てくれるから続けてこれた」と話してくれました。

20代の頃、僕は「何者かにならないといけない」と思っていました。自分に何ができるのかを考えて、「何かできないと生きる価値がない」と自分に対して思っていたんです。

そんなこともあって、この言葉を聞いたとき「生きるのに特別な理由づけをする必要はない。これこそ、いきてゆくことだ」と感じました。「いきてゆく写真館」のコンセプトにぴったりの言葉を教えてもらいましたね。

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イベント当日は、モデルの皆さんが写真を見てどう感じるかを気にしていたので、正直怖かったです。でも、自分の写真の隣に立って写真を撮っている姿を見て、ホッとしました。周りにいるご家族や介護スタッフの皆さんも喜んでくれて、とても嬉しかったです。

生きているだけでカッコいい

── 水本さんにとって、福祉・介護業界の魅力は何ですか。

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「こんな自分に何ができるんだろう」と、僕は自信がなく傷ついた状態で介護の世界に入りました。仕事を始めたばかりの頃は不安だったんです。

でも、利用者さんたちが「また来てね。次いつ来るの?」「あんたがおってくれるから、明日も生きるわ」と言って僕のことを受け止めてくれました。だから、今まで長く続けてこれたと思います。介護の仕事はすごく魅力的で、とても貴重な時間を一緒に過ごさせてもらっているなと思っています。

また、介護では「看取り」という利用者さんとの死と向き合わないといけない場面も出てきます。看取りでは「生きるってなんだろう」「死ぬってなんだろう」と利用者さんの最期の瞬間まで寄り添うことで大切なことを学ばせてもらいました。本当に大先輩たちから人生で大切なことを教えてもらうことが多い仕事だと思いますね。

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それと、介護は自分の得意なことや好きなことを活かしやすい仕事だなと思います。写真が好きなことも利用者さんが受け入れてくれて喜んでくれたから、介護現場でも好きな写真にチャレンジすることができたんだと思っています。

もっと介護の仕事をする人が増えたら良いのになと思います。介護は、すごく魅力的な仕事なんです。

── 最後に、水本さんにとって「いきてゆく」とは何か教えてください。

いきてゆくとは、カッコいいこと。「生きているだけで十分カッコいいし、いきてゆくことに無理に理由をつける必要なんてないんだよ」とカッコいい大先輩たちから教えてもらいました。

── 水本さん、ありがとうございました。

いきてゆくウィークって?
「いきてゆくウィーク」は、豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。

高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、
さまざまな方が参加したり、学んだりできたりするようなイベントになっています。

今回は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて、オンライン(一部、展示会については現地開催)で行います。

これまでとは少し違った新企画がぞくぞく。
特設ホームページはこちら👇

いきてゆくウィーク2021
https://ikiteyukufes.wixsite.com/toyonaka


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