見出し画像

「介護のつらさを解消したい」創立者・秦義則さんに聞く、いきてゆくウィークの原点

「いきてゆくウィーク」は、大阪府豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。高齢者介護・福祉をベースにしながら、さまざまな方が参加したり、学んだりできるようなイベントになっています。

「いきいき長寿フェア」の始まりの一つは、2001年8月に豊中市で開かれた「納涼祭」に遡ります。当時、高齢者や介護を行う家族が外出できる貴重な機会となった「納涼祭」。

その創立者が、秦義則(はた・よしのり)さんでした。

画像1

2000年に介護保険制度が成立する前から、介護を必要とする高齢者や家族を支える活動を続けられています。そんな秦さんに「いきてゆくウィーク」の原点や、これまで大切にされてきた想いを伺いました。

介護保険制度
社会全体で介護が必要となった人を支える仕組み。介護が必要となったときも、住みなれた地域で安心して暮らしていけるよう支援する。40歳以上の方が納めている介護保険料と税金が財源になっているため、介護を必要としている方は、原則1割の自己負担でさまざまな介護サービスを受けられる。(※前年度の所得により、自己負担は2割または3割になる)

介護サービスにはさまざまな種類があり、自宅で利用できるサービス(訪問介護、デイサービスなど)や、施設に入所するサービス(介護老人福祉施設など)、生活環境を整えるサービス(住宅改修や福祉用具レンタル・購入)などがある。

市町村の地域包括支援センターで、介護保険制度に関する相談をしたり、情報提供を受けることができる。

24時間365日、家族が介護で苦労している様子を見てきた

──「納涼祭」を始めるまで、秦さんは介護を必要とする高齢者の方々や家族をどのように支えられてきましたか。

画像2

1988年から、事務長として豊中市内の診療所に勤めていました。当時は、診療所の経営だけではなく往診の補助もしていて。緊急の依頼があれば、夜中であっても院長や看護師と家庭に駆けつけていました。

その中で、24時間365日家族が介護で苦労している様子を目にしたんですよね。診療所で治療をする時間や往診の時間はごくわずかで、限界があるように感じました。

それで、診療所を辞め、1991年3月に訪問看護事業を行う「有限会社ユーアンドアイ」(現「株式会社ユーアイプラチナ」)を立ち上げます。

当時は、脳卒中や寝たきりの方などのリハビリ補助や痰の吸引、入浴や清拭、栄養管理、食事介助などを行っていました。介護保険制度ができた2000年には、ケアプラン作成とヘルパー派遣を始めました。

── 当時、秦さんはどのような家族と出会われてきましたか。

介護と医療の間になんとかサポートに入らないと、家庭を維持するのは難しいだろうなと感じたのが、訪問看護事業を始めたきっかけでした。介護の苦労から、家庭自体が崩壊してしまうような状況もありました。

当時は、核家族化が今ほど進んでいなかったので、一つ下の世代が家で介護をなさることが多かったんですよね。それで、ご家族に介護の負担がかかり家の中がギクシャクしたり、親の介護のために早期退職をしなければならない方がいたりしました。

ご夫婦で介護をなさっている方も多かったです。お互いが高齢になり、体力の関係からベットに寝かせきりになってしまうことがよくありました。本来防ぐことができた床ずれが起こってしまって、病気が悪化してしまう状況も見てきました。

介護の苦労が絶えない状況を目の当たりにする中で、他人が間に入ることでその状況をなんとか解消していきたいと思っていました。

高齢者や介護家族が楽しく過ごせる場を。地域で開いた手づくりの納涼祭

──「納涼祭」開催の背景には、どのような想いがあったのでしょうか。

労力のいる介護をご家族が主になさっていたので、なかなか外出できる機会がなかったんですね。その中で、みんなが楽しく過ごせる場を何とか提供したいと思うようになりました。

画像9

それで、豊中市立第三中学校の校庭をお借りして、お祭りをしたという経緯があります。最初は、一介護事業者に校庭を貸していただけるかどうかも不安でした。

でも、自分の足で中学校を訪ねて、校長先生とお話しすることができて。「そういうことだったら校庭を貸します」と言っていただけて、とても嬉しかったです。

地域の方々に協力していただきながら、お祭りをつくっていきました。例えば、やぐらを組むための足場を地域の工務店さんからお借りしたり、酒屋さんにお借りしたビールケースで手作りの舞台をつくったり。

僕らの熱意を受け取って、気前よく無償で貸してくださったんですね。手づくりのチラシも地域に配り、スタッフ一丸となって、納涼祭を一からつくりあげていきました。その過程がとても楽しかったです。

──「納涼祭」当日はどのような様子でしたか。

盆踊りをしたり、舞台で銭太鼓の演奏をしてもらったり。また、高齢者の方々にマイクをお渡しして、即興のカラオケ大会をしたり。

画像7

画像8

おにぎりやフランクフルトを販売して、みんなと外で食べたりもしました。高齢者の方々の表情が豊かになっているのを感じ、嬉しかったです。

高齢者の方々やご家族、地域の皆さんに集っていただけたという達成感があって、今でもできてよかったと思っています。

苦労の多い介護の中で、ご家族もお祭りに来てくださって、高齢者の方々と一緒に笑顔になってもらったことが財産です。「納涼祭」の後も、「開催してもらってよかった」「元気をもらえた」というお声をいただきました。

── 秦さんが始められた「納涼祭」は、どのような経緯で「いきいき長寿フェア」に変わっていったのでしょうか。

家でいろんな作品をつくっている高齢者の方々がたくさんいらっしゃったので、豊中市の福祉会館(現「地域共生センター」)の1階をお借りして、作品展を開いていました。

画像7

画像8

あるとき、それが豊中市役所の方の目に留まって。「こんな場をみんなで共有しませんか」という話になりました。それで、2001年に「豊中市介護保険事業者連絡会」の創設メンバーになり、他の事業者と立ち上げを手伝いました。

2003年には、世代を超えて参加することができ、市民のみなさんが介護保険制度を知ることのできるイベント「介護フェア」(後の「いきいき長寿フェア」)を開催しました。

介護保険制度ができて間もない頃だったので、制度の内容をPRしていく場もほしいという話が出たんですよね。それで、今介護で苦労している方々が楽しめる場と、市民のみなさんが制度について学べる場を一つにした「介護フェア」が始まりました。

リニューアル後も、介護のつらさをなくしていけるイベントに

── 今年から「いきいき長寿フェア」は「いきてゆくウィーク」にリニューアルされますが、新しく運営に参加したメンバーに引き継いでほしい想いはありますか?

時間が変われば、内容も変わっていって良いと僕は思っています。ただ、どうしたら介護の苦しみをなくすことができるかという視点は、忘れてはいけないところだと思うんです。未だに介護で苦しんでいる方々がいらっしゃるからです。

その方々が、イベントの数時間だけでも楽しむことができること、少しでも相談相手ができること、いろんな制度を知ることができること。そのことで、介護の苦しみをなくしていくことが根底にある想いです。

画像7

今、介護に関わっていなくても、誰もが今後介護に関わる可能性があります。そんな「介護」に主眼を置いたイベントが世の中にあることは、とても大事だと思うんですね。介護保険という軸をぶらさずに、これからも続けていただけたらなと思っています。

── 長年介護業界で活動されてきた秦さんにとって、福祉・介護業界の魅力は何ですか。

人の命に関わる介護は、なくてはならない仕事です。これまで一生懸命頑張ってこられた方々の締めくくりの時期に、僕らは関わることができます。その方と一人の人として関わることができるんですね。

穏やかな生と安らかな死を迎えられるよう、手助けできるのが介護です。その方の人生を垣間見ることができる大切な仕事だと思います。

── 秦さん、ありがとうございました。

介護保険制度
社会全体で介護が必要となった人を支える仕組み。介護が必要となったときも、住みなれた地域で安心して暮らしていけるよう支援する。40歳以上の方が納めている介護保険料と税金が財源になっているため、介護を必要としている方は、原則1割の自己負担でさまざまな介護サービスを受けられる。(※前年度の所得により、自己負担は2割または3割になる)

介護サービスにはさまざまな種類があり、自宅で利用できるサービス(訪問介護、デイサービスなど)や、施設に入所するサービス(介護老人福祉施設など)、生活環境を整えるサービス(住宅改修や福祉用具レンタル・購入)などがある。

市町村の地域包括支援センターで、介護保険制度に関する相談をしたり、情報提供を受けることができる。


取材/執筆:田中美奈

ーーー


画像9

画像10


いきてゆくウィークって?
「いきてゆくウィーク」は、豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。

高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、
さまざまな方が参加したり、学んだりできたりするようなイベントになっています。

今回は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて、オンライン(一部、展示会については現地開催)で行います。

​これまでとは少し違った新企画がぞくぞく。

特設ホームページはこちら👇

いきてゆくウィーク2021

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?