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食べる喜びはいつまでも 『摂食嚥下関連医療資源マップ』 ~歯科医師 戸原 玄(とはら はるか)さん~

戸原さんは歯科医師。「噛めなくなった」、「飲み込むのが難しくなった」という患者さんの「食べる力」を盛り返す達人です。食べる喜びを最期まであきらめないで欲しいと、患者さんを応援しています。

「摂食嚥下(せっしょくえんげ)関連医療資源マップ」というHPをごぞんじでしょうか? 全国の摂食嚥下関連のクリニックやレストランなどの情報がまとめられています。

噛むこと、飲み込むことが難しくなった方のための情報満載のマップです。戸原さんはこのマップを作成されました。

戸原さんには、このマップを作成するもととなったある患者さんとの出会いがありました。戸原さんに当時から今に至るまでを振り返っていただきました。

🎙 インタビュー
食べるよろこびはいつまでも~『摂食嚥下関連医療資源マップ』 歯科医師 戸原 玄(とはら はるか)さん~


◆ 歯だけ診ていたんじゃダメ

戸原さんの大切な思い出の品  ( 患者さんからのプレゼント )

今はあちこちで大活躍の戸原さん。しかし大学で学びたての頃は、「大学で待っていても患者さんは来てくれない!」と考えて、訪問歯科をアルバイトで始めました。

〈戸原さん〉まだ病気のことを詳しく知らないころに、パーキンソン病のおばあちゃんの入れ歯の修理に伺っていました。いつも寝ていたので意思疎通ができないと思っていました。ある日ご家族から、おばあちゃんからのチョコレートを渡していただいたのです。患者さんは話せないのではないと知りました。ものすごく反省しました。歯だけ診ているだけじゃダメだと気がついたのです。

食べるよろこびはいつまでも~『摂食嚥下関連医療資源マップ』~
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おばあちゃまがいつも眠っているように見えたのはパーキンソン病のお薬の影響でした。おばあちゃまは一生懸命な戸原さんの治療を嬉しく感じて、日ごろの感謝の気持ちをチョコレートに込めたのですね…。

◆ 素の自分に反応してくれる

戸原さんは今でもこのプレゼントの写真を大切にしていらっしゃいました。患者さんの気持ちによりそう訪問診療の原点となった宝物のプレゼントだったのですね…。

〈戸原さん〉患者さんに歯医者だからと接してもらうのではなくて、素の自分に反応してもらえるのは替えがたい体験なのです。

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◆ 診療で大切にしていること2つ

① 雰囲気ほぐす

〈戸原さん〉言い出しづらい空気になってはダメ。後輩たちを連れて行って必ず一発芸をさせています。歌を歌ったり、折り紙を折ったり、似顔絵を書いたり、小さいキーボードを持って行って演奏したり…。そんな学生を見た患者さんは「 上手! 上手! 」と褒めてくれるのです。

食べるよろこびはいつまでも~『摂食嚥下関連医療資源マップ』~ stand.fm

② 人として気持ちを通わせるって…大切

〈戸原さん〉口の中しか診ない診療をする歯科医だったら、自分が患者なら噛むかもしれないですね…。

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口の中は繊細でデリケート。ささいな不具合があっても、「噛めない、飲み込めない」ことにつながります。ちょっとした違和感も遠慮なく伝えられるという歯医者さんとの関係性はとても大切です。心と心で向き合える歯医者さんと出会いたいものです。

◆ マップに登録を !

食べることは人生の1ページを彩る大切なエッセンス。一人でも多くの方に食べる力を盛り返して欲しいと、戸原さんはこのマップに関連するクリニックや飲食店の方々に登録を呼びかけています。

登録数も増えていますが、まだまだ足りない地域もあるとのこと。これからますます登録が増えることを願っています。

◆ 「食べる力」を応援したいあなたへ

〈戸原さん〉食べることは単に栄養を取ればいいというものではありません。食べちゃダメと言われている方の中にも前に進める方もいらっしゃいます。あきらめないでマップで訪問歯科を探して、もう一度食べられる力を取り戻して欲しいです。

食べるよろこびはいつまでも~『摂食嚥下関連医療資源マップ』~ stand.fm

食べる力は生きる力のもと…。母を見て感じています。

訪問歯科の治療を受けて、母は体重が3キロアップしました。入れ歯を作り直してタクアンなどの「繊維いっぱい」な食べ物も楽しめるようになれました。この春はタケノコに舌鼓

しっかり食べられるようになれたら、母の意欲が盛り返し、あきらめていた料理や外出を楽しむようにもなりました。

食べる喜びを最期まで味わえるように、訪問歯科や素敵な嚥下(えんげ)食対応のレストランや食品店を探してみたいなというときに…このマップを活用してみてくださいね !

🎙 インタビュー
介護家族の勘は当たる!? 口から食べる喜びを諦めない

入院などがきっかけとなって、口から食べることをあきらめてしまう方も多いと聞きます。でも戸原さんは諦めてしまうのはまだ早いと考えていらっしゃいます。「うちのおばあちゃん大丈夫だと思っていました~」という家族のカンは侮れないとおっしゃっています。

◆ 食べる力復活のサイン

医療者はデータを見て口から食べるのを危ないと判断しますが、介護家族はデータには現れない「ご本人の食べる力が復活したサインをキャッチできる力があるのだそうです。

〈戸原さん〉
~食べる力復活のサイン~ 
・以前より声がよく出るようになった
・以前より座っていても姿勢が崩れなくなってきた
・声のガラガラが減ってきた

あなたの大切なご家族に「食べる力復活のサイン」が見られたら、訪問歯科に一度診ていただくのも良いかもしれません。

◆ 訪問歯科医の見極め

介護家族がキャッチした情報を活かすも殺すも歯科医次第。信頼できる訪問歯科の先生と出会いたいものです。戸原さんに「良い訪問歯科医の見極めのポイントとコツ」を教えていただきました。

〈戸原さん〉
~訪問歯科医の見極めるポイントとコツ~
① 話をよく聞いてくれるかどうか
  ⇨誰かが話している直後に返答をしてくるのはダメ
  ⇨何かを伝えたら一呼吸おいて返事をするのはよく話を聞いている証拠
  ⇨介護家族がキャッチした情報をもとに最適な治療につなげられる
② 戸原さんのインタビューをもとに、こんな診療をしてくれないかと相談して反応をみる

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◆ 食べる力を盛り返した患者さん

娘さんから入院しているお父様のことで戸原さんに相談がありました。「また食べられるようになるかもしれない」と…。お父様の退院後に診療してみたら、娘さんのカンは大当たり。患者さんは再び口から食べられるようになれたのだそうです。

〈戸原さん〉初診は退院後にお家にうかがってしました。寝たきりでしたが座ってもらいました。クッション入れたり調整したりしたのですが・・・15分程度姿勢も崩れずしっかり座り続けることができたのです。つらそうでもなかったのです。プリンを少しだけ食べてもらったら誤嚥(ごえん)することはなく大丈夫でした。その日から「食べる練習をしても大丈夫」とお伝えしました。

娘さんによると、いろんな人にもう一度口から食べさせたいと相談してもダメだししかされなかったそうです。「食べさせたら危ない」とか、「誰が責任取るのか」としか言われなかったそうです。

入院中と退院後の状況は違います。まずはできるかどうか試してみることが大切。良くなっていることに気が付く人がいることがないと先に進めません。介護家族のカンは侮れないと感じています。

介護家族の勘は当たる!? 口から食べる喜びを諦めないstand.fm

介護家族のカンは鋭いのですね。目の前の大切な家族の「もう一度食べられそう」というサインをキャッチできる家族でありたいものです。

それにしても頼れる訪問歯科の存在は大きいですね…。

戸原さんのインタビューで印象的だったのは「食べることを最期まであきらめないで」というメッセージです。「食べる力」を最期まで維持することの大切さを強く感じました。

母は訪問歯科の診療で「食べる喜びを感じられる暮らし」を再び手に入れることができました。かつては「もう使うことはないから」と手放した炊飯器を再び購入し、毎日炊き立てのご飯を味わうまでになりました。「手間がかかっても美味しいものを食べたい」と言い、日々食べることを楽しんでいます。

最期まで自分の口で噛んで飲み込んで、食べ物をしっかり味い続けたいものです。あなたと、あなたの大切な人も、食べる喜びを味わえるずっと人生でありますように…。

📕戸原さんのオススメ本

◆ 食べることの意味を問い直す

食べることの意味を問い直す 物語としての摂食・嚥下 新田邦夫・戸原玄・矢澤正人 著

◆ 口腔医療革命 食べる力


口腔医療革命 食べる力 塩田芳享著

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