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なんで水を飲む必要があるのか?

人は水なしでは生きられず、人間の文化は水とうまく付き合うことを軸として生まれてきたのではないか?

なんてことを考えていたら、ふと疑問に思うことがあった。

そもそも、なぜ生物に水が必要なのでしょうか?

当たり前のようで、実はそんなに簡単な問いではありません。考えてみましょう!

1 なぜ生物は水を必要とするのか?

人をはじめとする多くの生物の体重の50%以上が水である。なんでそんなにたくさん水を持っているのか?なぜそんなに無理をして重たい水をお腹に入れて持ち運んでいるのか?調べてみるといろいろ出てくるのですが、主なものを2つ紹介します。

①水は温まりにくく冷めにくい (比熱が高い) → 体温を一定に保つ

比熱(ひねつ)とは、1gの物質の温度を1℃上昇させるために必要な熱量のことです。水の比熱が大きいということは、温度を上げるために多くのエネルギーが必要ということになります。もし水の比熱が小さいと、外気温の上昇とともに体内の水分の温度も上がってしまいます。

なぜ体温が上がったらまずいのでしょうか?志士雄誠(るろうに剣心)は、体温が上がりすぎて燃え上がって死んでしまいましたが、実際は、体が燃え上がる前に、大抵大きな問題が起きます。人間をはじめ生物の体内では酵素(タンパク質)が化学反応を進める役割を果たしています。そしてこのタンパク質は非常に温度変化に敏感であるという性質があり、体温が大きく変化すると、体内のタンパク質が固まり、死に至ってしまいます。水の比熱が大きいために、外から熱が加わっても体温を一定に保つ働きをしているのです。トカゲなど外界の温度によって体温が変わる、変温動物というものもいますが、水を体に保つことによって体温変化を最小限にしているといえます。

②色んなものを溶かす(極性をもつ)→ 代謝を可能にする

水の分子は水素2個に酸素1個がくっついたものですが,水素はプラスの電気の性質,酸素はマイナスの電気の性質をもって電荷に偏りがあります。このような分子を「極性分子」と言い,イオンなど他の極性分子をもった物質をよく溶かすのです。水が他の物質をよく溶かすことにより,生命体の中で多様な化学反応が可能になり,複雑な生命活動が可能になります。さらに、溶媒として栄養素、老廃物、酸素、二酸化炭素、電解質などを溶かし込み、これらの物質が体内を循環できるようにします。

なるほど。水というのは、地球上にある液体の中でも結構特殊なやつなんだということがわかります。進化の中で、水が体を構成するチームメンバーに抜擢されたのもわかります。でも、ここまで読んでくれた方ならば、さらに思うかもしれません。

そもそも、なぜ生物は水を摂り続けているのか?

上の説明だけだと、ただ水を溜め込み、それを後生大事に使い続ければええのではないか?なんで一方で水を排泄し、また一方で水を飲み続けているのでしょうか?どう説明するんだ!生き物は、わけもわからず、底の抜けた桶に水を入れ続ける、愚かなやつなんだろうか?そうだとしたら、進化とは、なんと間抜けな存在だろうか。

余談ですが、漫画「HUNTER×HUNTER」に出てくる大好きな言葉があります。「吹雪の中で裸で震えながら、なぜ寒いのか理解していない」。世界のあちこちでみられる皮肉な現象を、端的に表す、おもろい言葉です。

2 なぜ水を摂り続けなくてはならないのか?

僕の考えでは、生物がもつ根本的な限界がこの疑問に関わっています。

生物の限界とはなんでしょうか?亀仙人は、かめはめ波によって月を破壊することができます。しかし、そんなことができる生物は今の所見つかっていないし、おそらくですが、今後も現れないでしょう。それは生物の限界を超えているからです。

同様に生物は、「食べたものを完璧に消化して利用することができない」という限界を持っています。人の健康を語るとき、デトックスとか老廃物という言葉をよく聞くと思いますが、これは、代謝によって体の中で利用できない物質が生まれることを意味しています。タンパク質が分解された後の産物であるアンモニアは、尿素に換えられ体から排出されます。こうした老廃物を人間はさらに分解してエネルギーとして利用すればいいような気がしますが、化学的な障害が大きく、それはできない。頭の中では、取った栄養を完璧に(元素に)分解してそれを元に体を作ったりすればいいのではないか?と思われるかもしれません。しかし、それは生物が月を吹っ飛ばすのと同レベルの難関なのです。余計なものを常に排出し続けることで、体内の状態を一定に保つということができており、そのために水が常に体の外から中、そして外への流れ続けることが必要になります。

参考:人間の排泄機能(腎臓の働き)についてのドキュメンタリーを紹介します。これをみて水が体を通り抜けていくことの重要性に思い至りました。登壇者の掛け合いが少しぎこちない。

3 なぜ水を摂り続けなくてはならないのか?植物

一方、植物ではどうでしょうか?植物も動物と同じように水が重要な役割を果たしている上に、常に水を摂らなくては、枯れてしまいます(中には乾燥に非常に強い種もいます)。しかし、水が常に必要である理由は、すこし動物とは異なります。ここでは大きく2つ紹介します。

①光合成によってグルコース(でんぷん)を作る

植物は、太陽の光を受け、水と二酸化炭素から糖を合成するという。生態系の中で唯一無二の役割を果たしています。植物が糖を合成してくれているから人間をはじめとする動物は、エネルギーを取って生きていくことができるのです。このとき、二酸化炭素とともに水が糖分の中に閉じ込められてしまいます。継続的に糖を生産し続けるためには、水を吸い上げ続けなくてはならない。

また、植物は二酸化炭素を外界から体内に取り入れるために、葉の表面の気孔というトンネルのような部分を開きます。すると二酸化炭素が体内に入ってくると同時に、水や水蒸気で満たされた体内から外側へ水が流れ出てしまいます。これ自体も以下で見るように重要な機能があるのですが、二酸化炭素を吸収しつつ水は外に出さない、ようにすることは難しいため、ここでも水が消費されてしまいます。

②葉から水を蒸発させ、地中から水を吸い上げ、栄養を吸収する

光合成を行うためには二酸化炭素を吸収する必要があり、それと共に水は失われてしまう(蒸散といいます)。明け方、太陽が上につれ森から水蒸気が立ち上がる。これは、太陽の光を受けた植物が一斉に気孔を広げて、蒸散と光合成を開始しているために起こる現象です。この蒸散は、水を失う現象でもありますが、一方で植物にとってなくてはならないものでもあります。

蒸散が起こると葉の中の水が少なくなります(細胞の浸透圧が高くなる)。水は多いところから少ないところに流れる性質があるため、幹・根の中の水の管を通して地中から水が吸い上げられることになります。植物はなんと水を捨てることで水をしたから汲み上げているのです!!

なぜそんなことをするのか?これによって水だけでなく地中の中の窒素やリンなどの栄養分が体に吸い上げることができるのです。植物の体は水の柱です。そこを水が下から上へ流れることによって、体の中の養分濃度が保たれ生命活動が維持されている!動物と植物は、生態系内を旅する水が一時立ち寄る、茶屋のようなものです。

参考:植物では余計な老廃物などはどのように排出しているのでしょうか?実は植物の葉が排出器官として捉えることができます。吸収しすぎた塩などの物質を葉から地面に落とす種もいます。葉がはらりと落ちてきたら、それは植物がいらないものをポイと捨てたとみることもできる、というのは面白いですね。

まとめ

生物は水を必要とするだけでなく、水が体の中を流れて外に出ていくということが必要です。そしてそれは、生物体内の環境を一定に保つ(恒常性ともいいます)という生き物が生きていく上で欠かせない機能と関わっているのでした。そこには、生き物としての限界や弛まない努力を感じることができます。今度からいきものを見かけたら、「頑張ってるな!」と肩を叩くようにしたいと思います。

おまけ 写真

東南アジア、ボルネオ島に生息するニクヅク科の樹木。切り傷をつけると写真のような真っ赤な樹液が。ダラダラ、と現地では呼びます。日本語みたい。

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