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情報漏洩というより「契約情報の盗取と悪用」である。保険会社社員が出向先保険代理店の他社契約情報を出向元に送った件

 金融庁が発出した報告徴求命令に対応して昨日、損害保険会社4社はニュースリリースを行いました。

これは情報漏洩というより情報の盗取と悪用

 損保会社社員が出向先である保険代理店(以下、代理店)が扱う他保険会社の顧客情報を出向元の保険会社に送る行為は意図的かつ組織的なものであり、メールの誤送信や、個人の不適切行為とは次元が大きく異なります。情報漏洩というよりは、契約情報の盗取個人情報保護法で定める「利用目的」に反する不適切な利用というべきでしょう。目的は「取引シェアの確認のため」とする会社が複数ありますが、シェアの確認は保険料データのみで行えます。氏名や住所の情報は不要なはずです。

顧客情報の漏洩があったと公表された代理店数と契約件数

損害保険会社のニュースリリース

 ニュースリリースの内容は、下記リンク先をご参照ください。各社のトーンが大きく異なることが分かると思います。
東京海上日動損保ジャパン三井住友海上あいおいニッセイ同和

保険会社から代理店への出向の実態

 大手の乗合代理店(複数保険会社の保険を扱う代理店)には、A損保から5人、B損保から3人、C損保から2人、など複数の出向者がいます。保険会社から代理店への出向は、損害保険会社だけでなく生命保険会社からも行われています。金融機関の子会社代理店には保険会社からの出向者が何十人もいます。「競争原理の導入」と代理店はうそぶいて、出向者たちは横並びで競わされるので一生懸命働きます

 A社から出向しているBさんの働きが悪いと、A社の保険は後回しにされます保険料が保険会社で変わらない自賠責保険が、取扱保険料の調整によく使われます(ビッグモーターがそうでした)。Bさんの代理店での評価はA社に伝えられ、A社での人事考課が悪くなります人事考課を行うA社はBさんの普段の仕事ぶりを見ていないので、代理店によるBさんの評価を丸呑みすることになります。なので、出向元A社における自分の評価を高めるため他社契約情報を送れという出向元A社の指示に従ってしまったのでしょう。悪いことと知りながら。

 出向先の代理店にしてみれば、従順によく働く出向者が、出向元以外の保険会社の契約情報を持ち出すなど、思ってもいなかったでしょう。代理店にとって顧客の契約情報は何より大事なものです。大事なお客様のところで、お客様が一番大切にしている財産を盗んだのと同じです。仕事を任せていたので、データへのアクセスは容易で、コピーは簡単にできてしまいます。飼い犬に噛まれてしまった形です。

それならば代理店は保険会社社員の出向受入れをやめれば?

 長年かけて代理店が築いた顧客の契約情報を勝手に持ち出す、そんな悪さをする出向者なら受入れを断って、損害賠償すればいいのに、と思いますよね。保険会社社員の代理店への出向は、監督官庁の金融庁も問題視していますが、実はこれがなくなると代理店が困るのです。損害保険の業務は専門性が高いので、誰でもできるというわけではありませんが、即戦力である損保会社社員を出向者として受け入れて、仕事を丸投げすれば簡単です。出向者受入れに際しては人件費として「出向負担金」を代理店が保険会社に支払いますが、代理店と保険会社が折半する例が一般的です。保険会社で年収 1,000万円の仕事をする人を500万円で使えるということです。

これは損害保険業の構造的課題

 監督官庁である金融庁は有識者会議を開催し、今後、金融審議会での論議を経て保険業法の改正が予定されています。有識者会議の名称は「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」まさに構造的課題だということです。


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