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スピ系女子と地震とよもぎ蒸し

恋愛は人を成長させる、などと色々な本で記されている。
いい恋愛、悪い恋愛、どちらも得るべきものはあるが、どちらでもないアレな恋愛というのもあると個人的には思っている。
成長は特にしないが、同性同士の酒の席で絶対に盛り上がるやつ。
個人的にはそういう恋愛もストックとして、ひとつふたつあるのは悪いことじゃない。

俺にもいくつかあるのだけれど、なかなかコクがあったのは、スピリチュアル女子のM子だった。
彼女とはネットの恋愛アプリで知り合ったのだ。
普段はヨガ講師のようなものをしていて、
ライフスタイルにちょっとこだわりがあるらしい。
俺は過去にスポーツのインストラクターの人とちょっと長く付き合ったこともあり、その人との恋愛はいい思い出だったから、M子ともうまくいくのでは?と思ったのだ。

ただ、付き合ってから、ちょくちょく、「おや?」と思うことがあった。
当時流行っていた、「引き寄せの法則」とやらに傾倒していて、「全てのものは宇宙を通じて願った通りになるの」と自信を持って話していた。
なるほど、いわゆるスピ系女子か。
初めての遭遇である。
好奇心の奴隷なので、どんな考えか知りたくなる。

彼女はデートでは、引き寄せの法則以外にもいろんなスピ系の話をしてきた。
例えば、二人で沖縄料理を食べていた時、「私は本当にきつかった時に沖縄のユタに話を聞いてもらって今があるの」と話した。
当時、彼女には婚約者がいたらしいのだが、色々裏切られて身も心もボロボロになったらしい。
その時にテレビで有名なユタの番号を知ったのだという。
ユタと言うのは、沖縄版イタコのような存在だ。
そのユタは予約殺到で電話が繋がらないけれど、私は一発でかかったの、と得意げに言っていた。
「わかるんだわ。求めている魂の声を」と言ってどこか遠くを見た。

そうか。
倒置法で話す人、いるんだな、と思った。

まあ、害にならなきゃいいか、とその時は思っていたから、ふんふん聞いていたら、だんだん早口で語り出した。

「占いっていうのは統計学で胡散臭いものじゃないのよ。特にカバラ占星術はすごいの」と言った。
カバラは、生年月日の数字を足していくことで、その人独自の運命数を見つけることができるんだそうだ。
「私は運命数22のナンバーを持っているの」という。
「はあ、なにそれ」
「22は凄く強運で、世界のカリスマはこのナンバー保持者で、カリスマ性があるの。だから私は絶対に人を見捨てない。役割があるから。人を導くっていう」


世界のカリスマはカリスマ性があるといわれても
カリスマだからそりゃカリスマ性があるだろうな、と思った。
そんな風に油断すると、ちょいちょい面白い発言をする子だった。
なんでも、ナンバー22の人ばかりが集まる会が月に一度あるらしく、そこにいる人たちはみんな面白い人ばかりなのと言っていた。
その会の話も珍妙なのだが長くなるので省く。
ちなみに、俺のカバラのナンバーは4らしい。
コツコツと努力をすることで築き上げる大器晩成型だと彼女はいう。
「大丈夫、私があなたを導いて、いい方向に押し上げてあげる」と言った。
そりゃ、ありがたいと思った。
そのことは別にいいのだけれど、喧嘩のたびに、彼女は、「まあ、カバラのナンバー4の人はきっと22の行動の意味はわからないかもしれないね」と言った。
導くどころがディスっておる。
その時の俺は、彼女のことをそんなに好きじゃなかったが、「なんでもカバラに当てはめるなんて、面白すぎるだろ。どんだけカバラ好きなんだよ」という好奇心で付き合っていたように思う。

付き合って二ヶ月くらい経ってから、M子は土曜日にはなかなか会えなくなると宣言した。
多分会えないから別れようと言うのかと思っていたら、意外な答え。
「実はヨガ教室とデトックスに特化した教室を土日に開いたんだ。だから客として来てくれない? あなたは4だから、考えすぎちゃうの、あなたのためにも来た方がいい」という。
まあ、22のカリスマが言うならいくべきなんだろう。

ヨガを体験し、女豹のポーズやら何やらやった後、彼女は俺を見つめる。
「まだ心の疲れが取れていないみたいだから、よもぎ蒸しやってみない?」という。
八千円だけど、四千円でいいという。
カバラ22でカリスマ性持ってるけど、割とそこはしっかりしてるんだな、と思う。
まあ、仕方ないか、と思って払った。
多分別れ間際だから、彼氏から客に移動させたな。まあ、かまわない。
それに、よもぎ蒸しって何か知らんし、好奇心の奴隷としては、ね。

よもぎ蒸しってのが何かというと、尻付近に穴が空いた椅子に腰をかける。
椅子にはちょうど、穴が空いており、火でコトコト煮立ったよもぎ汁が椅子の下にある。
よもぎの蒸気がそこからスーッと出てきて、椅子の穴から出て、尻から吸い込まれ、内臓をデトックスするんだそう。
ただし、服を着たままではなく、素っ裸でポンチョを着て、といった。
めちゃくちゃ情けない状態であるが、俺は言われるがままに指示に従う。

腰を下ろすと、扉を閉められた。
小さな四畳くらいの部屋の中に蒸気が溜まり、ケツがモワモワする。
デトックス、されてんのか?
不思議な気分。
その時、体が揺れた。
デトックス効果か? すげーな、よもぎ蒸しと思ったら、近くにあった本が倒れた。
リアル地震だった。
揺れは結構激しい。外に逃げなきゃ、と思うが俺は素っ裸にポンチョである。
外に逃げたら完全な変態さんだ。
だが、揺れは続いて怖いのでドアの外に出る。
小部屋に閉じ込められるのだけは回避しなきゃ。
おや? 彼女の姿がない。

呆然としていると、やがて入口の扉が開いて、彼女が現れた。
「どこ行ったの?」
怪訝な顔をして尋ねると、
「地震だから、外に避難してたのよ」とカリスマは当たり前のようにいう。
普通、俺に大丈夫、とか声くらいはかけて逃げるべきじゃないか。
私は人を絶対に見捨てない、カリスマたるカバラ22なんだから、と言っていたのに。
ひどいや。それがカリスマのやることかい?

「どう? デトックスできた?」と笑顔で言った。

何も答えず佇む、素っ裸ポンチョの男がそこにいた。

その翌日、俺は別れを告げた。
「なんで?」と言われたが、「ちょっと合わないかもしれないから」という。
まあ、合わないことはだいぶ前からわかっていたのだけれど。
「やっぱり運命数4は22のことわからないか」とカリスマは言った。
確かに、そこだけは当たっていた。
わからなかった。なんも。

その後、そういえばあの人、何しているんだろうと思ってSNSを検索したら、見つけてしまった。
三十を超えているのに、女子高生の制服を着ている写真があった。
なんでも、セミナーで恥ずかしさを取っ払う訓練をしたらしい。
書いてある文章を読んだ。

いい年をして、制服を着る私を見て、変だなって思いました?
変だと思う人は心の壁に縛られています!
人は何をしてもいいし、自由になれる。
あり得ない恥ずかしいことをすることで、それが当たり前になり、心の壁が取り払われるんだよ!
富を引き寄せるには、心の壁を取り払うところから!
尊敬する◯△先生のセミナーを受けて本当に良かった!

カリスマ、すげーな、って思った。



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