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(10)サービスクオリティの改善を優先しないと新規営業活動がストップする(アーリー期)

スタートアップ「アーリー期」の6つ目の記事です。
※アーリー期:一般的には「事業立ち上げから、プロダクトマーケットフィットまでの軌道に載るまでの段階」を意味します。

今回の記事は、課題(10)「サービスクオリティの改善を優先しないと新規営業活動がストップする」です。

課題10サービスクオリティの改善を優先しないと

①受注が増え、納品トラブルも増える

2005年4月、株式会社エデュ・ファクトリー(アルーの創業時の社名)は、西新橋に移転をしました。

初のビル1フロアを丸ごと借りる契約でした。広さは約40坪。エレベーターで7階に上がり、狭い受付の先に10名ほどが入れるセミナールームがあり、その奥に10名ほどの執務室スペースと、応接間がありました。
(虎ノ門ヒルズの近く、壁面に絵画が書かれた茶色のビルです。当時は虎ノ門ヒルズはまだ存在せず、壁面アートもありませんでした)

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西新橋オフィスに移転後、営業メンバーを増員し、本格的に企業研修サービスの営業活動に取り組み始めました。しばらくは創業メンバーで営業責任者であった高橋浩一さんしか成果を上げることができませんでした。それでも顧客数・案件数は少しずつ増えていき、受注数の増加に応じて、研修サービスの納品数も増加していきました。

<企業向け研修サービスの「納品活動」について>
当社が提供している企業研修サービスは、大手企業の人事部・人材開発部門が顧客となります。人材開発部門の方々が抱える育成課題に対して、企画を支援し、最適な研修プログラムと講師を提案するのが営業の仕事です。

当社営業担当の企画・プログラム・講師が良いと判断され、めでたく受注・契約となれば、その後研修サービスの納品活動がスタートします。

研修というものは、一種の「イベント」ですので開催日が受注の数か月後(1~3ヶ月後であることが多い)に決まり、その日に向けて様々な準備をします。

一つは、研修実施当日に登壇する講師の確定です。アルーは、私のような社員が研修講師として登壇する場合と、社外のプロの研修講師(パートナー講師)が登壇する場合の両方のケースがあります。
案件の趣旨・内容に応じて、最適な講師を選定し、日程を確保し、実施までに案件の趣旨や研修プログラムの内容を共有する必要があります。

もう一つは、研修プログラムの準備です。アルーは自社開発をした研修プログラムパッケージを多数保有します。
「ロジカルシンキング100本ノック」に代表される100本ノックシリーズがアルーのパッケージ商品です。

パッケージ商品は多くの顧客ニーズに応えられるものであり、2021年現在では改善を重ねクオリティも高いものになっています。

このパッケージ商品がそのまま実施されることもあれば、顧客の状況・ご要望に応じてカスタマイズ開発をするケースも多くあります。

また、案件によっては、パッケージ商品が存在せず、ゼロベースで顧客のために開発するという場合も多くありました。ゼロベースでの開発は、当然難易度も負荷も大きくなります。スケジュール管理も大変です。そのため開発の追加ご料金をいただいて行わせていただいています。

さて、話は西新橋オフィス時代に戻ります。
アーリー期(2005~2006年頃)では、講師確保に関する業務プロセスも固まっておらず、都度対応をしておりました。またパッケージ商品の種類がまだまだ少ない状況であり、顧客の多様なニーズに応えられませんでした。また、その品質も高いものではありませんでした。

そのため受注が増えるほど、この研修納品準備プロセスで多くのトラブルを生じさせることになりました。


②トラブルの「100本ノック」

前述のとおり研修の納品作業は、一つ一つの案件でもかなりの工数が掛かります。
営業部門の体制を拡充しましたが、営業担当が受注後の納品を自分で全て行うとなると、受注活動に時間が取れなくなってきます。そこで納品活動を専門で担当する「デリバリー部」を設立することになりました。

デリバリー部では・・・・
●Sさん:デリバリー部責任者
エデュ・ファクトリー最初のメンバーとして2004年11月入社。その後講師開拓育成、ソリューション開発など多岐にわたりご活躍されました。2012年に退職。人材育成分野コンサルタントとしてご活躍されています。
●Hさん:デリバリー部メンバー
2005年1月頃入社。2006年末まで在籍。現在に至るまでアルーパートナー講師として長年のお付き合いをいただいております。

というお二人が中心となって活動をしていただきました。その後更にメンバーが増えていきます。

西新橋オフィスの思い出といえば、SさんとHさんのお二人が夜遅くまで業務をされている姿です。商品がない、業務プロセスが整っていない中で、数多くの案件の準備をされていたデリバリー部は本当に大変だったと思います。

当時は、トラブルが発生しない日は無いというくらい、日々何か問題が発生していました。

例えば・・・
当社の研修プログラムは、パワーポイントによって作られています。それを集合研修実施に向けてテキストの形に印刷をします。
パワーポイントは横長のスライドですので、縦長のテキストの形にするために、2in1(2枚のスライドを1枚の紙に印刷する)両面形式で印刷します。
また当社の売りは「ノック」という演習問題が多い事です。演習問題の指示書と回答例がそれぞれ元のパワーポイント資料にあります。
本来であれば演習指示書と回答例は、同時に見えないようにする必要があります。しかしパワーポイントからテキスト形式への変換ミスで、演習指示書と回答例が見開きで印刷されていた・・・ということが度々起こりました。

また、テキストを印刷して顧客の研修会場に発送をする必要があります。
配送先ミス、誤字脱字、テキストの乱丁落丁、部数不足、テキスト以外の追加ワークシートの不足などありとあらゆるトラブルが発生しました。
ギリギリのスケジュールで作業していますので、トラブルが発生して夜を徹してテキストの刷りなおし等も数知れず行いました。

こうしたトラブルは納品実務を担当するデリバリー部の方々のせいではなく、真の原因は「商品・サービスが納品プロセスを踏まえたレベルで標準化されていなかったこと」、そして「納品プロセス自体が整備されていなかったこと」にあります。


③クレームが発生すると、営業活動がストップする

トラブルには、ギリギリでも未然に防げた「ヒヤリハット」と、お客様にご迷惑をお掛けし「クレーム」になってしまうものの両方があります。

特にクレームになってしまうと、そのお客様の営業担当者に連絡があり、最優先で対応をする必要があります。そのためトラブルが解決するまで他の営業活動が後回しになってしまいます。


高橋浩一さんが受注をした大手電気機器メーカー様の管理職昇進前研修では、私達は大きなトラブルを起こしてしまいました。

当時のサービスの一つとして、集合研修だけでなく、事前事後課題として通信添削サービスを提供していました。

名称は「E100本ノック」。
仕組みはとても原始的なものです。集合研修で扱う100本ノック研修の演習問題を、週に2問ずつ受講者にメール配信を行い、受講者に回答をいただいた後、社内で内容の採点・添削を行い、受講者に返却をするものでした。
この通信添削の配信・管理・添削は、スクラッチで作り上げた業務システムを通じて行っていました。

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2021年現在アルーは「etudes」というクラウド型Eラーニングプラットフォームを提供させていただいておりますが、遠い祖先のようなサービスです。(「etudes」はM&Aによりアルーグループ入りしましたので、血のつながりは一切ありませんが・・・)

前述の大手電機メーカー様の研修では、この「E100本ノック」のロジカルシンキングを昇進試験の題材としてご導入いただいたのです。

しかしこのE100本ノックの添削において、採点ミス・誤字脱字・誤送信を多発させてしまいました。このエラーは大きなトラブルとなりました。
管理職の昇進に使う試験が信用ならないものだったら、それは多くの受講生の方がお怒りになられるのは当然でした。

最終的に、営業担当をしていた高橋さんが、集合研修の際に講師に同席し、受講生の方々の前で謝罪をするということに至りました。
もちろん研修を企画・導入をされた人材育成部門の担当者様にも、会社として謝罪をさせていただき、正しい採点結果の返却等できうることは全て対応させていただきました。
残念ながらこちらの会社様とのお取引はその後ありません。

トラブルが一度発生すれば、その解決にとても大きなエネルギーを要するものなのです。


④サービスクオリティ改善に優先的に取り組む

スタートアップ企業が創るプロダクトは、ほとんどのケースにおいて初期はサービスの質が低い状態であり、納品プロセスが標準化されておりません。

そのため、既に語ったようにエラー、トラブルが頻発します。
顧客クレームが発生すれば、営業は最優先に対応する必要があり、新規の営業活動に割く時間がなくなってしまいます。

またサービスクオリティが低ければ受注をしてもリピートにはつながらないということも起こります。

経営の立場としては、プロダクトの実績を作りたいですし、当然売上は欲しいです。そこで営業・マーケティング活動に投資を行いたいところですが、サービスクオリティ改善をまず優先して行うことが必要であると考えます。

そのためにはバックヤード(サービス開発、納品プロセス)担当の体制を拡充させる必要があります。

またサービスクオリティ改善・プロセス改善に取り組む際には、バックヤードを少し余裕のある組織体制にする必要があります。
理想としては、必要工数通りの体制であるべきですが、改善活動は現場組織に負荷が掛かります。既にある日常業務を回しながら、短期間でサービス改善を要求するのは非常に厳しいことかと考えます。

一定期間は余裕ある体制を取り、サービス改善業務を一気に推進し、その後リソースの適正水準化をはかる
というのが適切な進め方であると私は考えます。

エデュ・ファクトリーでは、その後デリバリー部にメンバーの増員をすると共に、側方支援として田中英範さん(2005年入社。後年、教育研修事業部ゼネラルマネジャー/ALUGO事業執行役員等歴任。2019年退任)が、業務改善活動を主導され、サービスクオリティが飛躍的に高まりました。

サービスクオリティへの投資を優先させることで、営業部門が安心して営業活動に集中できる環境を整え、受注した案件のリピート率を高めていくことが大切です。


本記事のまとめ

◆事業初期段階ではサービスの質が低い状態であり、納品プロセスが標準化されていないことが多い。そのためエラー、トラブルが頻発する
◆トラブルが発生すると、営業活動がストップする
◆営業活動よりもサービスクオリティ改善を優先して投資をする
◆営業部門が安心して営業活動に集中できるサービスクオリティ・業務プロセス・環境を整えることが大切


次の記事は・・・

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本記事を含む「アーリー期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
アーリー期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。

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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

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