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(15)ミッション・ビジョン・バリューを再定義し、道筋を明確にする(ミドル期)

スタートアップ「ミドル期」の3番目の記事です。
※ミドル期:一般的には「事業拡大に向けた投資を加速し、成長に差し掛かった段階」を意味します。

今回は、課題(15)「ミッション・ビジョン・バリューの再定義をし、道筋を明確にする」です。

課題15MVVの見直し


①案件増加に伴う混乱の極み

2009年初頃、アルー株式会社の中は混乱の極みにありました(少なくとも、私はそのように感じていました)。

2007年に営業組織拡大の投資をし、初年度は思うように業績が伸びず▲1億円という赤字を出したものの、翌2008年には飛躍的に業績が向上しました。

2007年に新規で加入した営業メンバーもそれぞれ成果を出せるようになってきました。また、過去お取引をすることが難しかった業界トップクラスのお客様からも、大きなお仕事を受注するケースが少しずつ増えてきました。
(例:自分から動くことで人を動かすリーダーシップ100本ノック

当然のことですが、仕事の受注が増えれば会社の中は忙しくなりました。当時は取り扱う研修プログラムの種類も少なかったため、お客様のご要望に応じて新規でゼロベース開発をする案件も多数ありました。

研修開発・ソリューションカスタマイズを担当するチームもありましたが、人手不足であること、ゼロベース開発の仕事を業務難易度が高いこともあり、多くは私が引き取って個人的に開発に取り組んでいました。

一時は、3つの研修プログラムの開発を短納期で私個人で抱えることになり、非常にストレスが高い状態でした。「タイム&プライオリティ100本ノック」「新入社員のやる気を引き出すメンター100本ノック」など、現在パッケージ商品になっている研修プログラムは、この頃に開発をしました。
(上述のプログラムについては、以下の記事で解説をしています)

また、研修案件が増加すれば、現場でファシリテーションをする講師の人数も増加させる必要があります。当時は、インストラクショナルデザイン部(ID部)というチームが、講師の採用育成を担当していました。2009年4月の新入社員研修の時期に、過去最大の講師人数が必要になることが予想されていましたので、私もそのチームのマネジャーを兼務し、前述のプログラム開発の傍ら、日々講師獲得・育成に奔走していました。


②「私達は何を目指して、何を優先するのか?」が見えづらくなる

このように業績の成長というポジティブな要素から業務は多忙を極めていました。しかし、会社を覆っていたのはむしろネガティブな雰囲気と、優先順位の混乱でした。組織内のいたるところ衝突意見対立疲弊感が蔓延していました。

会社のステージがミドル期に入った2007年以降、多くの方にご入社をいただきました。新卒入社の方々に加え、多くの中途入社の方もいらっしゃいました。研修業界の経験者は一部いらっしゃいましたが、ほとんどの中途の方は当業界は未経験でした。また、大手企業からの転職をされて来られる方が多くいらっしゃいました。

中途入社の方々の前職での経験は、未熟なスタートアップベンチャーを発展させるためにとても力になります。一方で、大手企業経験者から見れば、仕組みや組織があまりにも整っていないことに、入社をされてから気づき、ネガティブに反応される方もいらっしゃいました。

建設的な提案をいただくことも多くありましたが、会社全体がひっ迫している状況の中、当時の私達経営陣の未熟さもあり、そうした意見を上手く取り入れることができず、失望をされた方々もいらっしゃられたかと思います。

具体的な事例としては、2009年度の業績見通しが良かったことから社員旅行を計画していました。しかし社員旅行一つをとっても、当時の経営陣とマネジャーを含む幹部会議で異論反論が続出し、大きく揉めたことを記憶しています。

「こんなに疲弊している状況の中、社員旅行をやるべきではないのではないか?」「社員旅行企画チームの責任者は業務を優先した方がよいのでは?」等のご意見がありました。

今となっては、意見を述べていただいたことは大変ありがたかったと考えています。当時の私は器の小ささから、社員旅行一つでそんなに揉めないでほしい、と捉えてしまいました・・・・。

また、この頃からメンタルヘルスを原因で休職・離職をされるメンバーが増えてきました。当社や人材育成の仕事に、可能性と夢を持って御入社をいただいたのに、働くことが困難になってしまう状況になってしまわれたことに、大変申し訳なさを感じています。


案件増による業務の多忙さ、商品開発、講師採用、営業組織の仕組みの整備、新卒・中途採用の増加・・・など、当社内で取り組むプロジェクトの増大化・複雑化が進み、またメンタルヘルスで職場を離れられるメンバーの存在を見て、「私達は何を目指して、何を優先するのか?」ということが見えづらい状況となっていました


③ミッション・ビジョン・バリュー改定プロジェクト

株式会社エデュ・ファクトリー創業時のミッションは「パイオニア人材の育成を通じて社会の発展に貢献する」というものでした。

創業時理念

その後2005年3月に、当時7名のメンバーで箱根での合宿を行い「夢が人を育て、人が夢を作る。そんな社会を実現します」というものに更新をしました。

それから4年が経ち、メンバーは50名を超えました。
7名で作ったミッション・ビジョンは2009年時点での多くの当社メンバーにとって、関係のないものとなっていました。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)については、会社によって様々な定義がありますが、アルーとしては以下のように考えています。

●ミッション:会社の使命・存在目的。北極星のように到達はしないが目指し続ける方向性
●ビジョン:将来の実現したい姿。自社・社会の像
●バリュー:大切にする価値観・行動指針


業務多忙に起因する混乱状況と、組織問題から来る疲弊感を解決していくために、改めて会社の根本である、ミッション・ビジョン・バリューを見直することが必要なのでは?ということを経営会議の中で議論をし、見直しプロジェクトを実施することになりました。

MVVの見直しだけで全ての問題が解決すると考えていたわけではありません。しかし会社の打ち手が分散する中で、改めて優先度を検討するための土台をまず整えなければそれ以降の目標や戦略をいくら工夫しても変わらないと考えました。


MVV見直しプロジェクトには、経営陣だけではなく、社内からメンバーを公募しました。
新卒・中途の方を含め、10名強の方が手を上げてくださり、経営/マネジャーからの参加メンバーを加えて20名弱のプロジェクトが発足しました。

2009年4月に新卒入社をしたばかりだった、高橋直裕さん(現商品開発部グループマネジャー。以下「直さん」)にもプロジェクトにご参加をいただきました。直さんは学生の頃から演劇のワークショップに取り組まれ、インスピレーションを表現することにとても長けていらっしゃいました。ミッションを言葉にする過程で、大きく貢献をいただきました。


MVV見直しプロジェクトは以下のような段取りで進んでいきました。

(1)MVV見直しの必要性の共有・対話
プロジェクトメンバー全員で「なぜMVVを見直すのか」「見直すことで何を実現したいのか?」「進め方をどうするのか?」について対話を行いました。

(2)現在のMVVについてのヒアリング
メンバーで分担をし、既存社員へのインタビューを行いました。インタビューから聞こえてきた声は、目指すものが見えなくなっていることについて、ネガティブな声を多く聞くことができました。これらの声は期待や願いであると捉え、MVV見直しに役立てました。

(3)ミッションを言葉にするワークショップ
当時の渋谷オフィスの受付、会議室エリアを全て使い、プロジェクトメンバー全員で「ワールドカフェ」という対話ワークを実施し、ミッションを言葉にしました。

(4)ビジョンを経営陣で作り上げる
ビジョンについてもミッションを言葉にするワークショップにて検討をしました。しかし、会社の目指す像については、経営陣で決めてほしいというプロジェクトメンバーの総意となり別途時間を取って検討することとなりました。

(5)ミッション・ビジョン発表会&バリュー検討イベント
プロジェクトで見直しを行った新ミッション・新ビジョンを、全社総会にて発表をしました。新ミッション・ビジョンについての意味合いの共有を行ったうえで、社員全員で新バリューの候補を検討するワークを実施しました。

(6)バリュー選定ワークショップ
全社イベントにて複数の候補が挙げられたバリューの絞り込みを行うワークショップを実施しました。プロジェクトメンバーが中心となって執り行いました。


以上の流れを2009年6月~10月頃に掛けて実施をいたしました。

2009年に見直し、現在も続く当社のミッションとビジョンについては、以下のものとなります。

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※上記図におけるバリューについては、2012年頃に新たに当社代表の落合さんを中心に再設定をされたものを記載しています。
実は2009年に作られたバリューは定着しませんでした。その要因としては「2009年バリューは全員で作ったもの」であったがゆえに「全員の意見が少しずつ入り、一つ一つに強い思いを持つ方が誰もいなくなってしまった」ということが考えられました。


④創業メンバー高橋浩一さんの退任

アジア人材育成№1となる、事業創造と人づくりで継続成長するグローバル企業」というビジョンは、経営陣で議論をして作り上げました。
2009年9月頃の週末に渋谷オフィスに経営陣で集まりました。

アジア№1、グローバル企業というキーワードは、当社代表の落合さんが出したものです。

東京の文京区でスタートし、国内のお客様とのお付き合いが増えていきましたが、当社は極めてドメスティックな会社でした。私自身、語学力について苦手意識・コンプレックスがあったことから海外でのビジネス展開について、それまでの人生の中でまったく考えたことはありませんでした。

しかし「アジア№1、グローバル企業」という言葉を聞いたときに、ワクワク感を感じたことを覚えています。自分一人では想像もできない領域でしたが、アルーの仲間と一緒であればチャレンジができるのではないか。そう感じてビジョンの中に取り入れていくことに、積極的に賛成をしました。

その日の夜のことでした。
ビジョン議論も終わり、経営陣で飲みに行こうということになりました。

その飲み会の席の場で、創業メンバーの高橋浩一さん(当時の役職は取締役副社長)から退任をしたいという希望をお聞きしました。

現在「無敗営業」他、複数の営業マネジメント関係の書籍を大ヒットさせており、アルー創業初期から営業面を大きく牽引してきた方です。退任希望のお話を聞いた私達の衝撃は計り知れないものでした。

私自身、高橋さんにお誘いをいただき、アルーの創業に参加しました。友人としても心から尊敬する方です。

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私はその日の飲み会でも、後日にも、強く慰留をいたしました。

2002年末に起業を決意してから約7年。昼夜なく働く中、課題は多くあり、目指す姿に対しては道半ばでしたが、会社はひとまずの会社らしい姿になりました。

そうした中で、挑戦ややりがい、大切にしたいことは、時間が立てば人それぞれ変わるものかと思います。

私は、ある時、高橋さんを思いとどまらせるために、四ツ谷のバーにお誘いしたことを今でも覚えています。

高橋さん、色々あるだろうけど、アルーの次の挑戦は、グローバル、海外で、アジアだよ。まず中国進出を考えているし、そこでもう一緒にゼロから事業を立ち上げようよ。もう1回一緒に会社をゼロから創ろうよ。きっと大変だけど楽しいはずだからさ

ですが、高橋さんは私の話を穏やかにお聞きいただき、その上でご自身のビジョンについてお話をされました。


2009年末に、アルー株式会社創業メンバーで初代副社長、高橋浩一さんはご退任をされました。


⑤新たな一歩。中国進出に向けて

新たなMVVが設定されたことで、会社としてエネルギーを注ぐべきことが明確になりました。混乱していた施策の優先順位についても考える土台が整備されました。当社の中で仕事をする意味についても、多くの方にとって明確になりました。

私は、グローバル・アジア№1というビジョンに共感をしました。
同様に新ミッションやビジョンができたことで、働く意義を見直された方もいらっしゃったかと思います。

しかし、MVVは会社の根幹ですから、それが変わること、または新たな方向性が明確になることで「合わない」と感じる方もいらっしゃいます

それは、当社の事例のように創業初期からの幹部メンバーであることもあります。
人はそれぞれの思い(当社代表落合は「主体的真理」と呼んでいます)を持ち、人生を生きています。

働く会社のMVVと自己の主体的真理が重なることを選ぶべきでしょう。別れは悲しいことではありますが、それぞれの人生の主体的真理を追求することを応援したいと考えています。

※主体的真理とは何か?(当社代表落合さんのnote)

アルーは、その後、新ビジョンに基づき、グローバル事業展開を推進していきます。顧客向けのサービスとしての「グローバル人材育成」、そして、当社自身の「アジア複数か国展開」です。

海外展開の第一歩は、中国、上海市への現地法人設立と事業進出でした。

後に当社に参画され副社長としてレーター期のアルーの成長を牽引された、江田通充さん(当時は超大手人材会社の経営陣のお一人でした。アルーには2013年初より参画)のご紹介で、中国上海在住の陳さんとお会いすることになりました。

陳さんは、新卒で上記人材会社にご就職され、その後は上海に移り、事業を経営されていました。陳さんとの出会いがあったことで、アルー上海現地法人の設立につながっていきました。
その後、陳さんはアルー上海に初代総経理(社長)となられます。


本記事のまとめ

◆営業組織が成果を出せるようになると業務の繁忙を招く。仕組化や組織作りが不十分であると、組織の疲弊、メンタルヘルスによる離職等が相次ぐ
◆多様なメンバーがいる組織は対立が頻繁に生じる
◆ミッション・ビジョン・バリューを見直すことは、会社の優先順位、働く意義等を顧みる土台となる。MVVが風化している場合は見直しは有効
◆MVVを見直すことで、方向性の違いが明確化することは覚悟するべき


次回の記事は・・・・

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本記事を含む「ミドル期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
ミドル期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。

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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

<アルーのすごい研修開発バイブルを読まれる際はこちら↓>

すごい開発バイブル

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