(14)営業部隊の成果が出るまでの期間を「なんとか乗り越える」(ミドル期)
スタートアップ「ミドル期」の2番目の記事です。
※ミドル期:一般的には「事業拡大に向けた投資を加速し、成長に差し掛かった段階」を意味します。
今回は、課題(14)「営業部隊の成果が出るまでの期間を『なんとか乗り越える』」です。
①営業部の急拡大により発生した問題
幾つかの記事で書いてきましたが、アルー株式会社は2007年に一気に営業体制を拡充し、研修サービスの直販の立ち上げに取り組みましたが、その年は思うほど成果を出すことができませんでした。
創業メンバーで取締役の高橋浩一さん、マーケティング・プランディングのプロであるHさん、田中英範さん(後の執行役員・教育研修事業部長)、そして私の4名は当時毎週の営業責任者会議で暗い顔をしながら議論をしていたことを記憶しています。
議題としては、営業部で発生している問題をどのように解決するか?忙しい状況の中、営業部の仕組みをどう整備していくか?ということでした。
2007年から2008年当時の当社の営業部では、メンバーを一気に増やした際に起こる問題が全てと言っていいほど発生していました。
●新規メンバーがやりがいを感じづらい状況
年間4億円ほどの売上がある状況ではありましたが、その多くは営業責任者や、2005年頃に入社をした少数のベテラン営業メンバーが稼いでいました。
新規のメンバーの戦力化まではどうしても時間が掛かります。
新規メンバーの方々は、整っていないスタートアップの中で試行錯誤の営業活動を続けるものの、役員や営業責任者クラスが関わらないと受注ができません。
そのため責任者からの業務指示で動くことになってしまい、仕事のやりがいを感じづらい状態でしょうし、やらされ感を感じてしまいます。
●責任者クラスが営業活動に時間を取られ仕組化が進まない
新規営業メンバーの戦力化までの時間を短縮するためには、営業部として様々な仕組みを整えることが必要です。
・営業トレーニングや、日々のロールプレイングなどの育成の仕組み
・商材理解の勉強会、人材育成コンサルタントとしての専門知識拡充
・マーケティングの仕組みづくり。顧客情報管理
・提案書のひな型整備(提案分野別、商品別・・・等)
・目標管理・評価制度
・表彰・インセンティブの仕組み・・・等
しかしながら、当時はまず目の前の売上を上げるために、責任者クラスは営業活動でいっぱいいっぱいで、仕組み化に時間を取れていませんでした。
結果として、営業メンバーの仕事は非効率・複雑な状態のままとなり、成果を短期的に出しづらい状況が続いてしまいました。
●顧客開拓の難易度が高いまま
現在でも新規の顧客開拓は、難易度の高い業務です。しかし当時のアルー株式会社は現在と比べ知名度も低く実績も少ないため圧倒的に現在よりも顧客開拓難易度は高い状態でした。
特に業界トップの企業とは特に会いづらい状態でした。企業研修サービスは古くからある業界ですので、当社より先行する競合企業は多く存在します。
業界トップ企業は、トップクラスの研修サービス会社との取引をしており、当時の当社ではその敷居をまたぐことすら難しい状況でした。
●商品の不足
2006年~2007年にかけて新入社員研修向けの商品を数多く開発し実績を積みました。そのことにより新入社員研修分野では強みを持つことができたのですが、いざ訪問をしてみると「新入社員を育てるOJTトレーナーや管理職を育成したい」という相談を受け、育成側の研修商品が必要になったりしました。その時点では育成側向けの研修商品は持っていなかったため、毎回カスタマイズの提案となりました。
お客様に合わせてカスタマイズ提案をするのは、当時から現在に至るまでのアルーの営業のスタイルではありますが、個社に向けた企画要素が強くなりますので提案難易度は高まります。カスタマイズ案件においては、営業責任者クラスが支援(もしくは企画を引き取る)することが殆どでした。
これらの要因が重なり、新規営業メンバーが一人立ちまでつらい状況が続きました。採用をした側としては大変心苦しいのですが、途中で退職をする方も数多くいらっしゃいました。
②大手通信会社様での決戦コンペ
2008年4月、新卒第2期生を迎えた頃、一つの大きなコンペティションの機会をいただきました。
前年に取引を開始することができた大手通信会社様より3年目研修の見直しに関する提案を機会をいただきました。
2007年に新卒入社をし、営業部に配属された須藤賢太郎さん(現在は商品開発部グループマネジャー)が粘り強くお客様に通い、親密な関係を構築したことでお話をいただくことができました。
そちらのお客様では、前年に3年目研修の内容を更新したそうですが、その研修を開発したベンダーの企画が上手くいかなかったとお聞きしました。
「全社最適の重要性を学ぶ」というテーマで、ビジネスゲームを通じて全社最適を学ぶ内容を行ったそうです。ビジネスゲーム上のルールで個別部署の要求を満たすよりも、全社最適を追求すると得点が高くなる、という内容だったそうですが、受講者の方々にすぐにそのルールの仕組みが見破られ、表面上協力し合うということに留まってしまった・・・ということでした。
3年目社員の方に改めて自らを顧みて行動を変える機会になるような研修を今年こそは行いたい、というものでした。
お客様が求めているものについては、ボンヤリと理解はできたものの、当時のアルーでは3年目社員を対象とした適切な研修プログラムは持っておりませんでした。要件に近いプログラムとして「ネゴシエーション100本ノック」という交渉スキル研修はありましたが、そのままではお客様のご要望を満たすことは難しく、かなりの割合を作り変えるカスタマイズの提案となることが想定されました。
案件の規模としてもとても大きなものであり、須藤さんに加え、高橋浩一さんや中村俊介さん(現アルーエグゼクティブコンサルタント)が営業チームに加わりました。
またカスタマイズの企画のために、私や村田直人さん(2005年入社。現HRソリューション部長)他数名のソリューション側のメンバーも参加し、本格的に提案の企画をスタートしました。
お客様は5社以上の研修会社に本件の提案依頼をされていましたが、提案活動を進める中で、最終的にアルーともう1社の研修会社様に絞られました。
もう1社の研修会社様は、大手であり例年こちらのお客様の新入社員研修を担当されているという点で実績面においても当社より優位にありました。
2社に絞られた6月から1‐2ヶ月、両社とも複数回に渡る提案を行う決戦が繰り広げられました。
ライバルの研修会社様は「殻を破る」をコンセプトに、ゼロベースでの研修カスタマイズ開発を提案されていたそうです。
そうした中、お客様の与件であった5つの力(①課題発見力、②ゴールを掴む力、③周囲を巻き込む力、④他部署との折衝力、⑤後輩指導力)を私達は昇華させたコンセプトとして「自分から動くことで人を動かすリーダーシップを発揮する」を提案し、最終的にコンペティションに勝利をすることができました。
当時の苦しい営業活動の中で、この案件の勝利は大きな意味合いを持つものでした。高橋さんのようなスーパー営業が関与はしたものの、当時新卒入社2年目だった須藤さんが主役として大きな成果を上げられたことはとても素晴らしい事でした。またアルーの営業の勝ちパターンとして、既存パッケージ商品をベースにしたカスタマイズで顧客要件を叶え切るという形が確立した案件でもありました。
※本件については「すごい開発バイブル」の中で、詳しく解説させていただいております。
「自分から動くことで人を動かすリーダーシップ100本ノック(前編)」
「自分から動くことで人を動かすリーダーシップ100本ノック(後編)」
③活躍するメンバーのノウハウを継承することが大切
大手通信会社様3年目研修の案件ような、大成果と呼べるような案件は他にもありました。その多くを受注されていたのは、新橋時代に入社をされたベテラン(とはいっても2年程)の営業メンバーの方々でした。
特に2005年8月に御入社をされたJさんは、当社に入社をした時点では営業未経験でした。新橋時代・渋谷初期の経験を経て、2008年頃には当社の営業部の中でトップセールスとしてご活躍をされていました。
高橋浩一さんの一番弟子?とも言える、コンペでの動き方、お客様との関係構築力、クロージング力を身につけられていました。
当時Jさんと言えば、お客様の与件が何であろうと「最終的にはロジカルシンキング100本ノックを受注する」という、アルーの100本ノック営業の凄腕でした。
そうして大活躍をされてきたJさんは、2008年後半に当社をご退職されることになりました。その後もご活躍をされていると伺っております。当社卒業生がご活躍されるのはとても嬉しいですね。
一方で、当時の私達営業責任者からすれば、Jさんのような「柱」(「鬼滅の刃」のようですが・・・)を失うことはとてもショックでした。Jさんのキャリアの発展を願うと共に、営業部としてその活躍を穴埋めしていかなければなりません。
お客様や案件を後任の営業担当者が引き継ぐことはできても、活躍された営業メンバーの方のノウハウをそのまま引き継ぐことは容易ではありません。そのためノウハウは組織の知恵として吸収、継承をしていくことに取り組むことが大切です。
私達は「柱」の方の知恵を形式化し、それを組織的な育成ノウハウに展開していくことに力を注いでいくことになります。
その後も多くの方に当社に御入社いただき、それぞれの形でご退職されていく方は多くいらっしゃいました。
退職自体は残念なことではありますが、退職をされてもアルーの仲間であると考えておりまして、現在は「アルーアラムナイグループ」という卒業生コミュニティを運営させていただいております。卒業後様々な分野で活躍されている元社員の方々と近況報告・情報交換をし、時にはお互いの仕事の協力をするネットワークとなっています。
また大変嬉しいことに、長く当社に勤続いただく方もいらっしゃいます。
2015年頃より当社では、四半期のスタート日のクオーターキックオフミーティングにて「永年勤続表彰」という表彰制度を行っております。
勤続10年間の方を表彰すると共に、副賞として10日間の特別休暇、特別賞与の支給、記念品(カタログから選ぶ形式)の贈呈をさせていただております。
最初の一人は、2005年7月に御入社された斎藤俊輔さん。新橋オフィスの「絶対受注リスト」の時代から苦しい時代を乗り越え、当社人事責任者を担当された後、現在はアルーの営業部長のお一人として様々な企業様の人材育成の支援をされると共に、営業部門の運営・メンバー育成に取り組まれています。
当社の事業である、企業研修サービスにおいては顧客に高い付加価値を提供するためには、最終的には人材育成コンサルタントとしての熟達が必要となってきます。
顧客の人材育成課題は多種多様です。
会社全体の取り組みとしてプロダクトを磨いたり、ハイレベルの講師を揃えたとしても、最後は顧客に寄り添い、課題の個別性を踏まえながら最適な提案ができる人材育成コンサルタントの力が受注・課題解決の鍵になります。
本分野の熟達者として、当社に長く働きぜひ経験を積み重ねていただく仲間が増えていくことを心から願っております。
④営業組織の立ち上がり期間を「何とか乗り越える」
本記事で取り上げた2007年後半から、その後の2012年頃まで、営業組織が安定的に成果を上げられるまで苦しい期間が続きました。
経営陣がやるべきことは明確でした。それは人材育成を含めた営業の仕組化を進めることであり、同時にプロダクトの開発・改善をし続けることでした。
しかし、常に「短期業績の追求」とのトレードオフが存在していました。短期的に業績を上げようとすれば、経営陣自身が現場に入り込み、営業・顧客対応をする必要がありました。
俯瞰して見れば、短期業績のために中長期成長のための仕組化・プロダクト投資を劣後させるのは誤った打ち手だと簡単に言うことができます。
一方で日々の稼ぎを得なければ、会社存続はできません。
この短期・中長期の打ち手をいかにバランスさせていくかが、この時期の大きなポイントとなっていくと考えています。
アルーは結局のところ、目の前の一つ一つの商談に全力を注ぎつつ、時間をかけて少しずつ仕組化を進めていきました。こうした方法を取ったがゆえに、ミドル期を抜けるまでに6年間という時間を要しました。私たちの取り組みが正しかったかはわかりません。時間が解決するまで「なんとか乗り越える」という覚悟が重要なのかもしれません。
本記事のまとめ
◆新規メンバーの方々は責任者からの業務指示で動くことになってしまい、やらされ感を感じやすい
◆責任者クラスが営業活動に時間を取られ仕組化が進まないと、営業メンバーの仕事は非効率・複雑な状態のままとなり、成果を短期的に出しづらい状況が続く
◆新規営業メンバーが一人立ちまでつらい状況が続くと退職につながるケースも多くなる
◆活躍する営業メンバーの方のノウハウを組織の知恵として共有、継承することが大切
◆時間が解決するまで「なんとか乗り越える」という覚悟が重要
次回の記事は・・・・
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本記事を含む「ミドル期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
ミドル期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。
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<「スタートアップ営業組織作りの教科書」をまとめて読むには↓>
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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。
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