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ヨーグルトのスープ〜モスクに行った話〜

先日、東京ジャーミィという代々木上原にあるモスクに行った。

東京ジャーミイとは日本最大のモスク(イスラム教寺院)らしい。

礼拝の様子が見学できるガイドツアーに参加し、イスラム教文化のあれこれについてガイドさんからお話を伺った。

その中でも気になったのが、「ヨーグルトのスープ」。

何でも、あちらではヨーグルトを食材の一つとして考え、はちみつやジャムをかけて甘くして食べるような日本式の食べ方はしないらしい。

ヨーグルトのスープのざっくりとしたレシピは、「ヨーグルトに刻んだキュウリとニンニクをいれてスープにする」とのこと。

日本で言う「冷や汁」みたいなもの?同じ発酵食品だし、と思いながら異国の地のスープの味を想像してみる。

続いて礼拝の見学へモスクの中に入る。この日は梅雨の前の暑い日だった。外の湿っぽい空気とは違って、モスクの中はひんやりとした凛とした空気に包まれている。

高い天井には幾何学模様の装飾が施されている。日が差し込む窓辺には、日本在住のイスラム教徒の方だろうか、4人ほどが円になって異国の言葉でおしゃべりをしていた。礼拝が始まるまでの時間をおしゃべりして過ごしているようだ。

いよいよ礼拝が始まるころ、さっきまでおしゃべりをしていた人たちがおもむろに見学者の間を縫って移動を始めた。邪魔にならないよう道を開けようとする私たちに、

「(そんなに道をあけようとしなくても)だいじょうぶ、だいじょうぶよ」

と声をかけながら、メッカの方向を指す前の方へ移動していく。

さっきまでおしゃべりして、私たちに気遣いの言葉をかけてくれた人が、今は粛々と礼拝をしている。その光景に、私はなんだか不思議な気持ちになった。

実は、イスラム教のことをちょっと怖い宗教だと思っていた。連日報道されるテロのニュースや、1日に何回も礼拝をしなければいけないこと、断食や豚肉を食べてはいけないなど、規律が多くて、厳格なイメージがあったからだ。宗教によって生活が制限され、イスラム教徒の人たちはさぞかし窮屈だろうと思い込んでいた。

でも彼らの礼拝している姿からはそんなものは感じられなかった。

礼拝という言葉から想像するような仰々しさはなく、自然と体に染みついた毎日の習慣として、礼拝をしているように見えた。

イスラム教徒の人たちは、神の前ではみな平等という考えのもと、一列になって礼拝をするそうだ。一列になり祈るその姿に、人と人との見えない繋がりを感じた。

なんだかちょっと、うらやましく思った。

私はいち見学者で、特にこれといって信じている宗教もない。だから、どんなに優しく「だいじょうぶ」と気遣われても、あの人たちと同じ景色を見ることはできない。そう思ったからだ。

彼らの遠い背中を見ながら、少しでも彼ら見ている景色を理解したい、そう思った。

異文化に触れた帰り道。ガイドさんの話を思い出した。そうだ、あのヨーグルトのスープを作ってみよう。彼らと同じものを食べてみよう。

材料を買い、帰って早速調理にとりかかる。

ボウルに刻んだきゅうり、ニンニクチューブ、ヨーグルトを入れ、さらに水を入れて良くかき混ぜる。そこに適当なスパイスと塩を入れて、冷蔵庫でよく冷やす。これで「ヨーグルトのスープ」の出来あがり。

おそるおそる口に運ぶ。いつも食べているヨーグルトからは想像がつかない味だ。サワークリームのような、さわやかで濃厚な酸味が広がる。暑い夏の日にはぴったりかも。

私はイスラム教徒ではないけれど、このヨーグルトのスープは美味しい。彼らも暑い夏の日には、これと同じものを食べているのだろうか。

世界で活躍するヨーグルトが、私にちょっと違う景色を見せてくれた。

#ヨーグルトのある食卓 #エッセイ





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