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【帰国】鮨いと儚き

ラジオでは生放送を主に担当していました。

言葉は放ったれた途端、瞬く間に消えてゆく…

発する者の想いや意志によって強い印象を残すこともあれば、

受け取る側の状態によっては馬の耳に念仏にもなる。

関心をもたせたり緩めたり駆け引きに手腕が問われます。



鮨の世界にも


先日、の世にも存在することを体感しました。

高松の繁華街ある鮨屋の若が5年前に独立。

開店して以来、初めての訪問です。


彼との出会いは、当時のラジオパーソナリティが、

呼びたい人がいると番組に連れてきました。

人柄の良さに、レギュラーゲストとして出演してもらうことに。

鮨の話ではなく、内容はなんと音楽談義。

DJをしていたので、古い曲を中心にかけていました。 


お店は、小ぢんまりとしていて、

10席ほどのカウンターと一室の座敷のみ。
  
斜めに構えた付け台の向こうには、

まな板やコンロ、蒸し器、焼き台、洗い場も

収まっています。

まだ5年しか経っていないからか、

木の香りが、浮ついた気持ちを落ち着かせました。

飲み物を頼んで、さぁ注文。

今回は単品をお願いしました。

まずは、出汁の効いたもずく酢、地だこのぶつ切り、

そして、帰国してどうしても食べたかったものを注文。

イタリアでは食することのできないもの。

白子」です。

焼きで頼みました。

トロットロになった白子を箸で一口大に切り、

いざ実食…


口の中にぬわっと広がり、舌で潰すように味わう。

一瞬で消えてしまう。

もう一口、すかさず放り込む…

やっぱりまた、なくなる…

まるで雲を食べているよう。


でも、お皿には薬味だけが残っている…

余韻に浸りながら、味を回想。

味を言葉にはできず、衝撃だけが残っている。






冷蔵庫から、抱きかかえるようにして白い物体が出てきました。

袋を外し、紙につつまれたものを剥ぐと現れたのは…

マグロの塊!!

右の赤身からトロ、中トロ、大トロ、砂ずりまで。

「今日は特別に…」と出してくれました。

見るだけで圧巻!

鮮やかで美しい色と脂身のバランスにうっとり。

ここから、大トロの部分を切ってくれました。



写真を撮っている間に、どんどん溶け出しているように見えます。

ずっと眺めていたいけれど、もう食べてしまわないと

美味しい時を逃しそう。

一口で食べるだなんてもったいない!

でも、ちょびちょび食べるのでは品がない。

勢いよく、いざ口へ!

Mmmmmmmmmmm…

!!!!!、!!!、!!

!!もう!ほら!めちゃくちゃ、じゅわ〜って…

ずっと、目を閉じたままあの世と交信しました。



なんと言う旨さ!

口の中へ入れた途端、温かさでどんどん溶けてゆく

味わおうとじっくり考えるも、食感も味も

適した言葉が浮かばない。


そして、もう一切れ。

やっぱり、消えてなくなりました。

味わおうとしたのに… 

まさに言葉のようでした。

食べた後には、消えてしまう。

そして次から次へとやってくるので、

実際に食べたのに、瞬く間に過ぎ去ってゆく…

夢だったのかと思うほど儚い。




さぁ、最後は握りで締めます。


小鯛
海老
秋刀魚
穴子


シャリは小ぶりで、ネタはしっかり。

出てくる順番もお見事。

鰆は、最初に切って醤油に漬けていました。

いつ出てくるのかと気になっていたほど。

すると最後に出てくるんです。ニクイ!



この後、おまけのように出してくれたのが、

大将の向こう側の棚で、巻きすに包まれたもの。

ちょっと味わってみたいなぁと思っていました。

出してくれた時には、うわぁ!と声が出ました。

ドンッ!!

甘くて、好きな味!

もう、夢いっぱい胸がいっぱい。

充分にお鮨を味わうことができました。

大将の変わらない優しさと小粋さ、

家に着いた頃送ってくれたメッセージも

さすが!と言わせるような嬉しい言葉をくれました。

できる男はどこまで行っても眩みます。

和を味わい、この後、お寺の落語会へ。

心身共に満たされた一日となりました。

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