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スタバを知らなかったイタリア人
エスプレッソコーヒーの国イタリアで、世界を魅了するコーヒーチェーン店は必要なかった。それほど、街に「Bar : バール」と呼ばれるカフェがそこかしこにあるからだ。
朝食に休憩に夕食前にと利用するバールで多くの人が注文するものはエスプレッソコーヒー。小さなカップに濃縮されてできたのは、わずか25mlしかない。砂糖を入れてかき回し、数回に分けてクッと飲み、最後にカップの底に残った砂糖をスプーンで食べるという喜び。これが彼らの至福のひとときだ。
またバリスタは、お客さんの注文を受けてから作る。コーヒーとは言え、一人一人好みの味や気分によって一杯は変わってくる。それを瞬時に記憶して順に作っていく。
たかが一杯、されど一杯
イタリアでは、エスプレッソコーヒーのことを誰も「エスプレッソ」とは言わない。外国人であることがバレるだろう。イタリアでは、「カッフェ」と呼ぶ。
では、カッフェにどのような種類があるかというと、
長く抽出した「ルンゴ」
半分の量なら「バッソ/コルト」
二倍の量なら「ドッピオ」
少し泡立てたラテを入れて「カッフェ マッキアート」
冷たいラテを入れると「マッキアート フレッド」
マッキアートの大きいものを「マッキアトーネ」
マッキアトーネにカカオやチョコソースをのせて「マロッキーノ」
泡立てたラテの中にカフェを入れて「ラッテ マッキアート」
カフェと泡立てたラテをカップに注ぐと「カップチーノ」
カフェインなしのカッフェ「デカフェイナート」
カッフェにお酒を足して「カッフェコッレット」
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これらの注文に加えて、「カップをガラスにして!」「シナモンをかけて!」「生クリームをのせて!」と、さらにこだわりを追加するから、混雑した時のカウンターはバタバタしている。
だが、一人一人カスタマイズした一杯は、愛着あり至福度を高めてくれる。ここに着目したのがスターバックスコーヒーだ。
イタリアの独特なコーヒー文化に目をつけ、実際に体感し、美味しいコーヒーを飲んだだけでなく、社会的・文化的な空間であることに気づいた。
そんな、こだわりの一杯を、居心地の良い空間で味わえる場所をつくろうと、最初に描かれた信念は、30年ブレることなく今も受け継がれているどころか、進化している。
イタリアの Bar をもとに作られたスタバは、世界中に侵食するように、瞬く間に店舗を構えていった。だが、彼らが手本としたイタリアには長年足を踏み入れなかった。
それは、イタリア人には受け入れられないと思われていたのだ。そもそもイタリアでは、カフェはその場で消費するもの。それが一番美味しいから。カップに入れて持ち歩くなんてことは、彼らにとってあり得ない行為。食事はゆっくり時間をかけて楽しむもの。歩きながらの飲み食いは、そこまでしないと時間がないのかと、哀れに見られてしまう。だからイタリア人の食事風景が優雅に見えるのかもしれない。
イタリア以外の国では、人々はエンブレムの入ったカップを持ち歩き、街を闊歩している。それがお洒落の代名詞であることも、イタリア人にとってはどこ吹く風だった。
sns の普及によって、世界の動向を瞬時に掴めるようになった。特に若い世代で、世界の大流行はイタリアでも憧れの的となっていった。「私もあのカップを持ちたい」「飲んでみたい」と思った人たちは少なくなかった。また、イタリアに住むスタバ経験者は、「あの空間でゆっくりしたい」「お気に入りの一杯を味わいたい」と思っていた。
そんな願いが高まりつつあった2016年に一報は入った。「ついに我々のもとにもスターバックスコーヒーがやって来る!」と記事になった。それから、しばらく音沙汰ない期間が続き、白紙になったのかと思いきや待つこと2年。ようやく現実になった。
2018年9月 ミラノに Starbucks Reserve Roastery 誕生
普通の店舗じゃないところがまた憎い。焙煎に力を入れたハイエンドのコーヒーを味わえる高級路線で勝負した。これなら、普通のスタバを知っている人も立ち寄りたくなる。さらには、外国から来た観光客は、真新しい店舗を体感したいと続々やってくることを狙ったそうだ。
ちなみに、目黒区青葉台にも同じ店舗があり、コーヒーの焙煎作業や木々の緑がふんだんに入る景観やパノラマなど落ち着ける空間となっている。
各国の店舗
シアトルから始まり、
2021年11月の時点で、世界80ヶ国に33,833店構えている。一番多いのはもちろんアメリカ、中国、カナダ、そして日本、韓国、イギリス、トルコ、台湾、インドネシア… とアメリカと特にアジアで支持を得ている。
ヨーロッパは、
イギリスの1,102店を筆頭に、
ドイツは約160店
フランスは約120店…
スペイン
ポーランド
オランダ
アイルランド
スイス 約60店と並ぶ。
2018年に華々しくミラノに一号店を構えたスターバックスは、その後、15もの店舗をオープンさせた。私の住む中部のトスカーナ地方には、フィレンツェの郊外にあるショッピングモール内にできた。日本人たちの間で、行きたいと話題になるくらいだから、スタバを知ってる外国人たちはこぞって出かけたことだろう。
しかし、15店舗のうち、なんと10店舗はミラノに一極集中している。イタリア経済を牽引する街だから、カプチーノがいつもの倍しようが、ドルチェが高かろうが、柄の入ったカップを持つことをステイタスと考えられる文化がある。
これが他の街、特に南下すると経済の不振とともに、手が出せない人が続出することは容易に想像できる。また流通の面から見ても、北部での発展は納得だ。
ニュースによると、さらに10店舗以上増えるとか。
もし近くにスタバができたなら、周りの人は行くのだろうか。イタリアではカップチーノ一杯が約150円のところ、約600円を出して、わざわざ飲むだろうか。継続して飲む人はどれくらいいるだろうか。もしくはインスタのために見栄を張るのだろうか。
えっ、私?もちろん行く。一回は…。なんてことはなく、パソコンを広げて仕事をしてみたい。だってbar ではそんなことできないから。飲み終わるとすぐに立ち去るのが常識。うどん屋でパソコンを開く人なんていないのと同じ。
アメリカから逆輸入されたコーヒー店は、イタリアでどのような進化を遂げるのか、目が離せない。
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