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愛媛県のコロナ感染対策から見る、規制強化の方向性

自分は愛媛県松山市に住んでいますが、そこに住んでいる人から見た、愛媛県の状況を書きます。

愛媛県の基本データ

愛媛県が全国でどれくらいの規模なのかを書いてみます。

・人口: 28位(約130万人)
・人口密度: 26位(233人/km^2)

愛媛県は全国的には中の中〜中の下くらいの規模です。また、行政的には松山市(約50万人)が中核市として、ある程度独立した権限が与えられています。

愛媛県の感染状況

そんな愛媛県の感染状況ですが、次のような順位になっています(人数の単位は「10万人あたりの感染者数」)

・一週間(8/27〜9/2): 45位(22.11人)
・一ヶ月(8/3〜9/2): 37位(130.25人)
・合計: 40位(347.78人)

・蔓延防止等重点措置: 2回
 
1回目は2021/04/25〜2021/05/11で出され、5/31まで延長しましたが、延長後5/22で前倒し解除されています。

2回目は2021/08/20〜2021/09/12で出され、現在進行中です。

愛媛県は海に囲まれていて、大都市圏との距離は大きいという、有利な点があります。とは言え、全体的には頑張っている方だと思います

これにはもちろん県民一人一人の努力もありますが、県知事のリーダーシップが功を奏しているのは間違いありません(断っておくと、県知事にはコロナ以前はあまりいい印象を持ってませんでした)。医師による評価も高く、全国で4位だそうです。

逆に言えば、県知事や県民がここまでやっても限界があります。それを明らかにして、効果的な規制の方向性について書くのがこの記事の趣旨です。

1. 情報公開と個人情報の保護の両立

県知事は9/3現在32日連続で記者会見を行っており、YouTubeでライブ配信されています。これを含め、次のタイミングで定期的な情報公開が行われています。

・8:30 速報値の公開(陽性者数、Twitter)
・14:50 ライブ配信の案内と、詳細の公表(LINE、Twitter)
    ・陽性者数
    ・新規事例数(※現在は人数のみ)
    ・陽性者の属性(年代、性別、居住地、職業)
    ・症状の有無
    ・感染経路
    ・クラスターの状況(属性、地域、新規陽性者数)
    ・事例ごとの状況(封じ込め、囲い込み、調査中)
    ・封じ込め: 囲い込み + 経過観察終了(新規陽性の可能性ゼロ)
      ・囲い込み: 関係者の把握とPCR検査まで完了(蔓延の可能性ゼロ)
        ・調査中: 関係者の把握中 & PCR検査中
    ・PCR検査、抗原検査数
        ・保健所は毎日更新
        ・抗原検査と民間のPCR検査は毎週金曜更新
    ・変異株検査結果(現在はデルタ株)
・15:00 知事の記者会見(YouTubeライブ配信)
    ・詳細の解説
    ・ほぼ毎日、様々なデータや事例の紹介(以下は例)
        ・陽性者の属性の統計分析
        ・蔓延防止後の人流の減少幅
        ・市町別のワクチン進捗
        ・クラスターの発生傾向
        ・近隣県の状況を踏まえた注意喚起
        ・事業所における注意事項
・その日中(15:50〜17時台頃): 記者会見の概要の公開(LINE、Twitter)
・2〜3日後: 記者会見の文字起こしの掲載

これを見ることで、現在の状況を把握することができます。例えば現在は次のような感じです。

・陽性者数は減少傾向
・しかし新規陽性者数は2桁が続いていて油断は禁物
・特に松山市がまだまだ多いので注意が必要
・児童・生徒が目立つので新学期の影響が心配

一方で、個人情報保護にはかなり気を遣っています。まず、個人の属性は公開せず、集計した結果のみ公開しています。

また、事例ごとの公表はしつつも、クラスター以外は内容を公開せず、クラスターについても業種(「ライブハウス」「ホストクラブ」など)と対策状況のみの公開にしています(例外的に、県立高校は県の管轄なので、公開しています)。

また、「この施設は一般の利用者が使うものではない」「参加者を全員把握しており、保健所の調査にも協力的」などと強調しています。これはライブハウスでも、ホストクラブでも同様で、結果的に感染対策が疎かでも協力的である点を強調しています。

これは別の言い方をすると、「関係者を把握していて必要な人には連絡をするので、詮索はするな」という意味です。最近は少なくなりましたが、一時期は「SNSなどでの詮索はやめてくれ」と言ってました。

一方で、その施設で複数人の陽性者が出て、業種的に参加者を把握できないものについては、施設が自主的に公開、あるいは施設の協力を得て「念のための注意喚起」として、県知事から公開しています。この場合も、施設からの協力が得られていることを強調しています。

まとめるとこんな感じです。

・個人の属性は公開せず、集計して公開
・クラスター以外は内容を公開しない
・クラスターでも囲い込みできる場合は施設名を公開しない(業種のみ)
・クラスター以外でも囲み込みできない業種の場合は自主的、あるいは協力を得て公開

県知事の考え方としては、次のように推測されます。

・蔓延状況を把握するための情報は広く公開
・感染対策の「プロセス」を評価する
・少なくとも保健所の調査に協力的であれば評価
・店舗は安心して協力でき、囲い込みを実現

2. 常に危機感を持って早めの対策

愛媛県は2度蔓延防止になっていますが、全体的には抑えられている方です。その理由は、早めに動いているからです。

2回目の蔓延防止の場合、後で述べる悪質なライブハウスの事例が報告されたのが8/7で、8/13に県独自の対策を開始し、一週間で10万人あたりの陽性者数が30人(※これを越えないと難しいとの言及あり)を超えたのが8/15で、8/16に協議を開始し、8/20に適用しています。

9/4現在で33都道府県が緊急事態宣言、あるいは蔓延防止になっていますが、まだ適用していない県があることも考えると、愛媛県は早く適用したと思います。

その結果、愛媛県は蔓延防止適用後は減少傾向が見られ、9/3時点での陽性者増加比は0.63と、全国5位の減少幅になってます。

そして、8/6にはコロナ専用外来の拡充を行っています。なぜ「拡充」なのかというと、2020年11月にはすでに設置していたからです。

他にも色々ありますが、愛媛県は先を見越した色々な取り組みを行っています。

3. PCR検査は闇雲に行わず、ターゲットを絞る

まず、愛媛県は感染者(陽性者)の行動履歴の追跡を積極的に行っていて、濃厚接触者に限らず、ある程度接触があった人は無症状でも広くPCR検査を行っています。

その一方で、一斉検査は次のような限られた場合に絞っています。

・高齢者施設の定期検査(今は中止)
・蔓延が懸念される状況での臨時PCR検査

逆に言えば、蔓延していない状況で、広く一般市民を対象としたPCR検査は行っていません。闇雲にPCR検査を行わず、基本的なクラスター対策をきっちりと行っている、そのような印象です。

4. 役割分担による負荷軽減

ここは他県の状況は分からないのですが、県知事からは「入院調整は県で行っている」とよく聞きます。逆に言えば、保健所はPCR検査と追跡調査に集中できる環境が整っています。

5. 悪質な事例に対する繰り返しの批判

感染対策が甘い場合の指摘は行っていますが、個別事例については感染対策が疎かになっていても、「保健所の協力が得られている」といった、関係者を擁護する発言が目立ちます。

その一方で、悪質な事例についてはことあるたびに言及しています。現在進行中の第五波(デルタ株)では後で述べますが、非常に悪質なライブハウスの事例をしつこいくらい繰り返し取り上げていて、8/7から9/12の間にこの事例について12回言及しています。

もちろん協力が得られればこの事例もここまで批判されることはなかったと思います。

対策の限界

愛媛県ではクラスター対策が機能し、感染は比較的抑えられています。ただしこれでも限界があります。これを元に、規制強化の方向性を考えていきます。

A. 二重行政の解消

一番の問題は、松山市との二重行政による限界です。

松山市は中核市として独立した保健所を持ち、松山市長が対策の権限を持っています。しかしこの市長がボンクラで、感染対策については落第点です(ワクチン接種については及第点ですが)。

それを象徴するのが、7月下旬に起きた1つの事例です。詳細は別の記事にまとめています。

この7月末の事例ですが、次のような状況です。

・「これだけはやめてほしい」と言った周年イベント
・感染対策が疎か
・不特定多数が参加(関係者が把握できず)
保健所への協力も得られず
・臨時PCR検査への参加も一部のみ

分かりやすく言うと、規模は違えど波物語レベルの悪質な、DJが出演する音楽イベントです。

しかしこの事例については複数の陽性者が出ており、関係者の把握もできていないにも関わらず、自主的な公表も行わず、松山市長も公開していません。

もちろん県知事なら公開しているでしょう。実際、県知事はクラスター隠蔽の可能性を示唆しています。県知事が憶測に基づいて発言をしたことはほとんどないため、ほぼ100%クロだと思いますが。

(愛媛新聞)
協力が得られないというのは、どういった協力が得られないというのを聞かれていますでしょうか。

(知事)
これはわれわれが直接ではないんで、(松山市)保健所の方にお聞き、うちの直接の管轄ではないので、そこまでのつまびらかな状況は入ってきていませんが、例えば行動歴を話してくれないとか、そういうケースもあろうかと思いますし、前にあったのはですね、どうやらいろいろと打ち合わせをして何も言わないように、というケースもあるやに聞いております。前のケースですね。そういうことも考えられるのかなと思いますけどね。

これが逆で、松山市長が厳しく、愛媛県知事が甘いならさほど問題になりませんでした。なぜなら、愛媛県下への広がりは常に松山市から発生しているからで、松山市が抑えられていれば県下全体への広がりは避けられるからです。

現状では松山市だけ治外法権になってしまっています。例えば県知事との協力義務など、何らかの対策が必要でしょう。

B. 店舗の協力義務

愛媛県の状況を見ると、保健所への協力こそが最後の砦だと感じます。もちろん感染対策を行っていてもクラスターになる事例もありますし、業種的にそれも難しいものもあります。

しかし、もし陽性者が複数人出たら、一刻も早く関係者を見つけ出し、PCR検査を行い、囲い込みが必要です。もしそれが難しいなら広く公開して、当人が医師の診察を受ける、あるいは注意して行動するきっかけが必要です。

愛媛県では1事例を除き、囲い込みや、必要な場合は広く呼び掛けられていました。しかしたった1事例の協力が得られないことで、蔓延を許す結果になってしまいました

また、現在は時短要請が行われていますが、協力しない店舗もあるようです。最終的には店名公開&過料が行われますが、それまでの道筋が長く、ギリギリまで粘ることも想像つきます。

例えば店舗には感染対策や、参加者の把握、そして蔓延防止のための協力義務を持ち、対策が講じられないときは速やかに店名の公表、対策をしていない期間に応じた罰金、悪質な店舗については営業許可の取消など強い措置が必要かと思います。

もちろん、強い措置は一部の悪質な店舗だけが対象で、協力的なほとんどの店舗は既に自主的に行っていることです。

終わりに

ライブハウスの件は論外ですが、それ以外にも症状があるにも関わらず不用意な行動を取った結果クラスターになった、呆れるような事例もいくつかあります。

もし強い行動規制(ロックダウン)を行えば早く終息するかも知れません。しかし日本ではそれは難しい以上に、そこまでの強い規制がなくても十分に抑えられます

そのためには、効果的な対策が行えている都道府県のやり方を全国に広める必要があります。その一例として、愛媛県の取り組みは参考になると思いますがどうでしょうか。

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