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離れていても温めますか #クリスマス金曜トワイライト

望むならどこだってついて行くのに。気持ちが折れてしまいそうです。何もかもわからない。暗闇のなかを走っています。確かなものなど何もないのだから。

信じるチカラをください。きっと幸せになれるから。

相変わらずエモい文章は書けません。だけどコトバにならない気持ちを一生懸命書いてます。平日と週末の境い目。あなたのトワイライトはどんな空でしょうか。「今週も良く頑張りました」と言いたくなります。だって空はどこまでも繋がってますから。

一年を振返った時にスキな人に「ありがとう」と言いたくなる。そんな沁みる曲です。和訳テロップの歌詞と一緒にどうぞ。

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ア・グレイト・ビッグ・ワールド>とは、イアン・アクセルとチャド・ヴァッカリノのグラミー受賞ピアノポップ・デュオ。2013年9月に発表したシングル「セイ・サムシング」を聴いていたクリスティーナ・アギレラが共演を熱望。審査員を務めるアメリカの人気オーディション番組『ザ・ヴォイス』で「セイ・サムシング」を披露した。この共演が大反響で、11月にはクリスティーナ・アギレラとのデュエット・バージョンで全米ビルボード・デジタルシングルチャート1位を獲得。世界各国で大ヒットを記録。優しい声に全世界が震えた。(震えないかw)


#クリスマス金曜トワイライト

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警備員室の横から外に出ると冬の空はうっすらと明るかった。徹夜明けに冷たい空気が気持ちいい。競合プレゼンの準備はなんとか間に合ってホッとしていました。

コートの襟を立ててビルに沿って歩き始めると、大きなバイクが派手な音をたてて通り過ぎて止まりました。ヘルメットを脱ぐとショートカットの女性でした。小柄のせいか緑色の車体が大きく見えます。

目が合いました。軽く会釈すると彼女もニコッと笑ってくれた。ビルの一階にあるカフェのバリスタってのは知っていました。ちょっと可愛い子が入ったと社内でも話題になっていたからです。

僕は密かに『バリスタのカワサキさん』と名付けてました。バイクにはカワサキなのと、1000ccだとわかるエンブレムが付いてたからです。大型バイクにベビーフェイスが妙に印象的でした。彼女がバイクに乗っている事は誰も知らない様子でした。話題に出たことはなかった。カワサキさんはいつも早番らしく、夕方にカフェへ立ち寄っても姿を見る事はありませんでした。


『ベーグル、温めますか?』
『あ。。どうも。。』


彼女は白いシャツに黒いエプロンを着ています。とても似合っていました。誰にも話したことはありません。何と声をかけていいのでしょう。23階のオフィスから1階のカフェまでの現実はなかなか縮まりませんでした。

日常は遠く非日常は近い。会社の人たちはやがて別の話題に移っていきました。地下のスーパーに超美人の女性店長が異動してきたからです。移り気な人たちの興味の変化は早かった。僕は少しホッとしました。誰かと付き合ってるという噂を聞かなかったからかもしれません。変ですね。だって彼氏がいるのさえもわからないというのに。ストーカーみたいにならずに済んだのは、仕事が忙しくてそれどころじゃなかったからかもしれません。そんな日常にも、やがて風が吹くときが来ました。

・・・・・

会社から少し離れた、国道沿いのビルの谷間に神社があります。通称・田町八幡。正式には御田八幡といいます。階段を登ると小高い丘に小さな社がありました。木造拝殿の後ろは深い森です。たまに息抜きに行くのですが人はほとんどいません。

仕事の尻拭いとでも言いましょうか。現場が撮影の道路使用許可を取ってなくて、しつこく追求する警察に謝る羽目になった日でした。普段はそんなことは起こらないのに厄日でした。

さらに撮影からオフィスに戻ったら上司からねちっこく経費の伝票処理を問いただされて『そんなの覚えてねぇよ』と危うく喉から出るほどでした。厄祓いに神社でも行ってしばらくぼーっとしてようと思ったのです。

境内に国道が見下ろせる眺めのいい椅子に「バリスタのカワサキさん」が居ました。僕の中では略してカワサキさんです。目の隅で追いかけながら、お参りをして柏手をうってからおみくじを引いたら『大吉』でした。

『恋人・あわてず心をつかめ』

カワサキさんはまだ長椅子に座っていました。僕はゆっくりと、大きく円を描くように回り込んで近づいて行きます。ゆっくりと覗き込む仕草をして会釈をしました。

ニコッと笑ってカワサキさんは、肩にかけているショルダーバッグにメモ帳をしまうと、何か言いかけて僕の目をじっと見つめてました。眼の色が少し青みがかった澄んだ目。光彩の輪郭が淡い風合いで素敵な色でした。

『あの。。ワタシのおみくじに、待ち人は遅れて来たる。って書いてあったんです。あ。。おみくじ引きました?』

彼女は夜学でデザイン学校の勉強をしてました。日常の中の非日常は、近くの意外な場所から始まったのです。始まったと言っても名刺を渡して少しお話ししただけなんですけど。僕の中のバリスタのカワサキさんがリアルな存在になったのは何かの縁だったのでしょうか。それとも神様のいたずらでしょうか。

厄日の大吉。天にも登るような出来事。しかし風はそれ以上吹くことはありませんでした。カワサキさんは、暫く見かけなくなりました。僕は毎朝、一階のカフェを覗く日が続いたのです。


・・・・・


その日は、ロケ撮影を何箇所も短時間で撮って廻るスケジュールでした。撮影スケジュール表を香盤表と呼ぶのですが、香盤表には朝早くから細かく時間が書かれていました。ロケ現場は沢山のお弁当の手配や、タレントさんの人よけをしたり大変でしたが、スタジオを借りるよりも経費もかからないのでロケは増えていくばかりでした。

トイレ休憩で第三京浜の三沢サービスエリアに寄った時です。何台も並ぶバイクに緑色のカワサキが見えたのです。僕は周りを見回してカワサキさんの姿を探しました。たむろっているライダー達の中に彼女の姿は見えません。同じ型で違うのかなぁ。少しガッカリしてトイレを済まして、ロケバスに戻ろうとした時にカワサキさんと目が合いました。

びっくりして手を拭いてたハンドタオルを落としてしまいました。風に吹かれてカワサキさんの足元に飛ばされていきます。僕たちはしばらくお互いの目を見て動きませんでした。

『おみくじ。またこの前引いたんです。。覚えてます?』

彼女はニコッと笑って頷くと、拾ったハンドタオルを手渡してくれました。

『ええ。もちろん。で。。大吉でしたか?』

青いデニムに革のジャケットが似合ってました。僕はコレからロケで大変なんだと話すと、カワサキさんは事故って少し入院してたと話してくれました。カワサキさんはペロッと小さく舌を出すと首をすくめて顔をくしゃくしゃにします。冬なのに僕は溶けそうになりました。バカです。大バカ者です。僕は上空1000mにいました。死んでしまいたい。いや死ねる。死なないけど。

『あー先輩!こんなとこにいたんだぁ。もう出ますよ!』
後輩の声を無視して、彼女に話そうとしても次の声が出ません。

『あの。。また会えますか。。』

『来週からいますよ。今日はリハビリrideなんです。ロケ頑張ってくださいね』

ロケバスでハンドタオルを握りしめてニヤニヤしている僕を気にする人は誰もいませんでした。また風が吹いてきた予感がしました。その日の仕事はあっという間に終わりました。CM制作の見積もりに書かなきゃいけない事がたくさんあるのに何も覚えてません。僕の記憶は三沢パーキングエリアで止まっていました。


・・・・・

そのあとも、僕たちは色んな場所で巡り逢いました。コンサート、居酒屋、大江戸温泉。だけど恋はその先には進まなかった。僕が友達の女性といたり、カワサキさんが男性と一緒の時もあったからでしょう。それとも縁がなかったのでしょうか。23階のオフィスから1階のカフェまでの恋は近寄ることはありませんでした。永遠に22階分の距離がある。現実とはそういうものです。

カフェでカップを受け取る時にランチにでも誘えばよかったのかもしれない。だけどそんな風は吹くことがなかったのです。シゴトにますます忙殺されるようになりました。一年が経ちまた次の冬が来る頃、カフェで朝のコーヒーを受け取った時でした。

『ちょっと待っててくださいね。これオマケです』

透明の袋に入った。小さな焼き菓子でした。

『うわ。嬉しいです。このあとのミーティングで食べます。もう疲れて死にそうだから。ありがとう』

『きっと効きますよ。特製ですから』

彼女の笑顔はどんなクスリよりも効きそうでした。いつも通りニコッと笑うと、次のオーダーへと吸い込まれていきました。


・・・・・

なかなか結論が出ないことに疲れてました。最後のミーティングは長引いて、外の景色は夕闇に包まれます。23階の景色は富士山が手に取るようでした。日頃から見慣れてなんの感動もないのですが、その日の夕陽は少し色が違うように感じました。

貰った焼き菓子をポケットから出すと、裏側に小さなシールが貼ってあるのに気がついたのです。そのシールは小さな手紙のようになっていて、封をはがすと中にはメッセージが小さな字で丁寧に書かれていました。

「しばらくバイク旅に出ます。つづきは、おみくじを引いてください」

日々是好日。あるがままを良しとして受け入れるのだ。と呟くと、もう窓の外は真っ暗になってました。さっきまで見えていた富士山はどこにいったのでしょうか。遠くに品川駅の灯りがキラキラと揺らめいていました。


・・・・・

ミーティングが終わって田町八幡へ向かう頃には日が暮れてました。境内の灯りは寂しさを募らせます。

「大吉」
大吉って大凶でもあるから、今日は大凶かもなと思いました。おみくじを結く場所に向かうと、おみくじが大渋滞してます。すき間を作ろうと絵馬を端っこに寄せようとしたら、バイクの絵が描いてある一枚が目に入ったのです。

『理由があってバイク旅をしてきます。もし私のことを覚えていてくれたら、来年の大晦日にココで会いたいです。そして除夜の鐘を一緒に鳴らしましょう』

Emailが無くても生きていける。僕たちは繋がってたんだなと思いました。変な2人かもしれない。信心深い方でもないし神様なんて信じてないけど、簡単に繋がらないのに繋がっているのは、おみくじのおかげでしょうか。

「ベーグル、温めますか?」
彼女の声が聞こえた気がしました。

「遠く離れていても温めます」
僕は空を見上げて呟きました。都会で見えるはずなんてないのに、すーっと星が流れたように感じたのです。

ちくしょう。涙が流れてきました。本当は仕事なんてやめてどこだってついて行くのに。ふとしたきっかけで、気持ちが折れてしまうかもしれません。僕はポケットからボールペンを出して絵馬に書き足しました。

信じるチカラをください。

来月のいまごろ彼女はどの辺にいるのでしょうか。ひょっとして本当はキツネが人間に化けているだけで、僕は騙されているのでしょうか。僕はいまでも暗闇のなかを走っています。不安定な時代に確かなものなど何もないのですから。

深い森の匂いと冷たい空気が気持ち良かった。冬の空は澄んでいます。空はどこまでも繋がっているように感じました。何時でも、いつまでも繋がっているのだと。そして信じていれば、きっと幸せになれるのだと。


第2話・おわり
来週金曜日・第3話をお楽しみに
まだわからないけど4話目を書くかもしれません。
#クリスマス金曜トワイライト
編集 : 仲高宏 嶋津亮太

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一年を振返った時にスキな人に「ありがとう」と言いたくなる。そんな週末を過ごしたくなりました。素敵な週末をお過ごしください。


◆「クリスマス金曜トワイライト・イベント」とは
「恋愛小説をリライトした作品」をクリスマスシーズンに行う表彰式イベントです。
◆恋愛小説・金曜トワイライトとは・・・
池松潤が書き下ろしたオトナの恋愛小説。7月~9月の毎週金曜日に配信されました。その作品をもとに自由にリライトしてもらうという企画です。初回10月の開催では1週間で48件の応募がありました。各参加者のフォロワーによりSNSでシェア&拡散されて、さらにnote公式編集部にピックアップされる等ヒット企画になりました。まったく新しいタイプのイベントです。

※応募エントリ―開始は12/4(金)トワイライトからです。
※※応募期間を、〜12/11(金)23:59までを12/14(月)午前6時までに延ばします❗️

◆特徴について
初回10月はオンラインのみの開催でしたが、2000字超の恋愛小説を、各応募者が相当な時間を割いて書いたことや、1週間で48件の応募があり、新しいタイプのコンテンツ創作イベントとなりました。今回はイベントをパワーアップして、受賞作品を映像化します。

◆前回についてはこちらをどうぞ。
1週間で48件ものエントリーがあった「前回参加者作品一覧と池松コメント」をどうぞ▼

オトナは恋かシゴトでしか変われない
#クリスマス金曜トワイライト  
12/18 ON&OFF イベント 近日詳細をUPします

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