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逃げていた。だけど幸せだった。 #クリスマス金曜トワイライト

あなたと一緒に誓った海。昔日の恋心。忘れ難き記憶よ。あの日から僕はずっと「何か」から逃げていたのかもしれない。

逃げていた。だけど幸せだった。

あれは一週間にも満たない「逃亡の旅」だった。小学生だった2人が描いた生きるための希望だったのかもしれない。忘れられない「淡い恋ごころ」がある。

「歌詞」と一緒にどうぞ。

King Gnu(キングヌー):東京藝術大学出身で独自の活動を展開するクリエイター常田大希が2015年にSrv.Vinciという名前で活動を開始。その後、メンバーチェンジを経て、常田大希(Gt.Vo.)、勢喜遊(Drs.Sampler)、新井和輝(Ba.)、井口理(Vo.Key.)の4名体制へ。SXSW2017、Japan Nite US Tour 2017出演。2017年4月26日、バンド名をKing Gnuに改名し新たなスタートをきった。動物の“ Gnu =ヌー ”が、春から少しずつ合流してやがて巨大な群れになる習性を持っており、自分たちも老若男女を巻き込み大きな群れになりたいという思いから名づけられた。両A面シングル 「三文小説 / 千両役者」が12月2日にリリースされる。 ※三文小説は、日本テレビ系 土曜ドラマ「35歳の少女主題歌


#クリスマス金曜トワイライト

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冬の太平洋の風は強い。潮が舞い上がって砂浜は白く霞んでいる。あの頃の漁師小屋は津波対策のコンクリート消波ブロックで無くなってしまった。海岸線そのものが変わってしまったんだ。すべてが変わってしまった。今でもこの海に来れば会える気がする。どうしようもない不安や良心との葛藤を抱えて走っていたあの頃の僕たちに。

僕は本当に無力な子供だった。出来ることと言えば、あなたを乗せて一生懸命に自転車を漕ぐことしか出来なかった。それだけだった。それでも幸せだった瞬間が沢山あった。だから許してほしい。あなたを守れなかったことを。残酷なほど晴れて澄んだ空を見上げている。あなたは横にいないのだけど。


・・・・・

ガチャーン!
窓が割れた音がマンションの廊下に鳴り響いた。自転車で公園に行こうとしていた僕の目の前に、裸足のあなたが飛び出てきた。手には青い豚の貯金箱を抱えている。目は怯えていて全身がガタガタと震えているように見えた。

視界の隅に凄まじい形相の女性が入ってくる。微かに光る何かが手にあるのが見えた気がした。いや。僕の目は確実に捉えた。黒くドロっとした憎悪が見えた。

「乗って!」

必死に自転車を漕いだ。後ろは振り返らなかった。見たら怖くて立ちすくんでしまいそうだった。手に血だらけの包丁が見えた気がした。気がしたと言うのは、そんな光景を口に出すのも恐ろしかったから。

「ごめんね。いつもは優しいんだけど。。」

あなたが少し笑って言うのが聞こえた。僕は何も言えなかった。毒親を抱えているのは同じ身の上だったからだ。包丁が目の前を飛んでいく景色を思い出した。必死にこぎつづけた。どのくらい時間が経ったかわからなかった。空に星が見えて寒くなった。僕たちは公園のゴミ箱にあった新聞紙を身体に巻きつけてコンクリート管の中で寄り添った。ガタガタ震えていたのは寒さではない。先の見えない不安や新しく生まれた絶望に震えていたんだ。

「逃げよう。一緒に。。」

貯金箱を壊してホームセンターで運動靴を買った。僕たちは南へ走ることにした。1秒でも遠くへ逃げるために。チカラいっぱい漕いだ。変だと思うかもしれなけど、肩を掴む手はどこまでも青くて苦い味がしたように感じた。


・・・・・

いくつも街を通り過ぎた。夜は誰も住んでいない廃屋や漁師小屋を見つけて新聞紙にくるまって寒さをしのいだ。天気のいい日は海の見える公園の芝生で寝た。

「ねぇ。絵を描きたいな。。。」

砂浜に木の棒で大きな家を書いた。それは見取り図みたいなもので、大きな台所とお風呂があった。どんな幸せな家族が住んでいるのだろう。どうすればこんな家が持てるのかわからなかった。

「お腹減ったなぁ。。。」

あなたは砂浜に描かれた台所の横にカレーライスを書くと、お皿を手にとったふりをして丁寧に運んでくれた。「ムシャ、ムシャ」と一緒に声を出して食べたのを忘れない。カレーがこぼれて汚れないように、膝の上にハンカチをひいてくれた。僕はリカちゃん人形になった気がした。恥ずかしかった。だから今でもリカちゃん人形は嫌いだ。

横に並んだちいさな2人の影は砂浜に伸びてゆく。二の腕あたりがそっと触れたときドキドキした。お互いに何も言わなかった。あなたに言えなかったけれども、このままずっと一緒にいれるといいなと思った。

「ねぇ。あとどのくらいかなぁ?」

あなたは聞いたけど、僕は何も言わなかった。この前思いついた婆ちゃんの家まではあと何日かかるかわからなかったし、本屋で地図を見ても今どこにいるのか分らない時もあった。でもあなたは一緒にいれる時間を気にしてくれていたのだと感じるから何も言えなかった。いずれ別れの日はやってくるかもしれない。

どのみち長くは続くわけが無いとわかっていた。わかっていたけど、どうすることもできなかった。その日は予想外に早く来た。人生とは自分ではどうにもならない事が続くこと。無力感が溢れて絶望が続くのが人生なのだと思っていた。そしてまた新しい絶望がやって来た。


・・・・・

トイレからフードコートに戻ると警察官が見えた。あわてて柱の陰に隠れる。あなたは捕まっていた。完全に油断していた。すこしずつ近づいてみる。警察官の声が聞こえた。

「キミどこの小学校?黙ってちゃわからないだろ」

無線からは何かが伝えられていた。しばらくするともう一名、警察官が来た。大ごとになっている。どうやったら助けられるかわからなかった。しばらくすると警察官がまた増えてしまった。どうすることもできない。大きなショッピングセンターなら人混みに隠れて目立たないと思っていた。僕は知らない家族の子供の横に座って遠くから眺めるしかなかった。

あなたを助けられなかった。

かくれんぼなら得意だって言ってたのに。なんで捕まったんだよ。あの日からあなたの後ろに見えたピザ屋の看板がアタマから離れない。あの日もお腹がすいていた。いつも空腹だった。弱く、情けなく、たより無かった。そして意気地もなかった。


・・・・・

あれから数日後、家電量販店の大きなテレビ画面をみていた。あなたは「行方不明の女子小学生みつかる」とニュースに出ていた。僕の名前は無かった。一瞬で終わってしまったから、家出人なのか誘拐なのかわからなかった。毒親が届出を警察に出したのかもしれない。僕は探されてない事にホッとした。周囲を見渡す。誰も僕の事など気にしている様子はなかった。僕はテレビの売場をあとにしてまた自転車で走った。走って、走って、どこまでも走った。肩を掴む手はなかった。

守ってあげられなかった。

あれから何週間かして婆ちゃんの家に辿り着いた。色々あってなんとか大人になった。売れない三文小説を書いている。成人したら何か変わるかと言えば、相変わらず弱く、情けなく、たより無かった。そして意気地もなかった。


・・・・・

いまでも思い出すんだよ。ゆるく長い登り坂の石垣にみかんが見えた時のことを。自転車を一生懸命こいでいる僕の背中にあなたが顔を押しつけるのがわかった。鼻をすする音がした。

「なんで、やさしくしてくれるの。。あたしなんて。。かわいくないのに」

なにも言えなかった。だから聞こえないふりをした。

どこで、どうしているかもわからないけど、いつか会えたら「24色の色鉛筆」を渡したい。あの日食べたカレーを画用紙に書いてほしいんだ。僕はいつもお腹が減っているから。そして一緒に自転車にのって海を見ようよ。あの日のように一緒に笑ったら、恋のかけらを取り戻せるかもしれないから。

だけど胸の奥にずーっと小さい棘のように刺さっている。警察官に連れて行かれたとき、あなたが振り返って僕を探していた姿が。いくつ恋を重ねても棘は抜けることは無い。あの日で「恋する免許」は終わってしまったのかもしれない。免許取り消しみたいに。

逃げていた。だけど幸せだった。

潮が舞い上がって砂浜は白く霞んでいる。冬の太平洋の風は強い。残酷なほど晴れて澄んだ空を見上げている。あなたはいない。太陽を掴もうと手を伸ばすと、青くて苦い味が滲んだ。相変わらず僕は無力だった。


第3話・おわり
来週金曜日の朝UP予定・第4話を書きます!
※4本目も読んでからリライト応募してくださいね。
#クリスマス金曜トワイライト
編集 : 仲高宏 嶋津亮太

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1本目「真冬のレモンは小さくて甘く切ない」、2本目「離れていても温めますか」とは違う恋を描きたくて、何度も書き直してやっと書きました。これは恋ではなくて、恋にも満たない「恋ごころ」かもしれません。みなさんに「何か」を伝えたい。そんな気持ちが一杯で書きました。4本目は違った風合いの恋を書きます。もう一本、一生懸命頑張りますので、お付合いのほどよろしくお願いします。素敵な週末をお過ごしください。


「クリスマス金曜トワイライト・文学賞」
ーあなたによって生まれ変わった原作を読みたいー

クリスマス金曜トワイライトへの応募のリライトとは広義のリライトです。業務のリライトではありません。あなたによって生まれ変わった新しい恋愛小説の原作だとおもっています。応募作品数の数だけ恋がある。初回からずーっとそう感じていました。この新しい文学賞への想いを綴らせて頂ければ嬉しいです。少々お付き合いください。

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書く事に夢中になれれば飛躍のチャンスやきっかけを見つけることが出来る。そんな時間と「場」を作りたいと、オンライン公開フィードバック番組・ブリリアントブルーをやっている時から、今回編集を引き受けてくれた仲さん嶋津さんとずーっと話していました。もっとSNS時代にあった文学賞って無いのでしょうかと。

SNSには「書き手」と「読み手」の際はありません。紙の時代の「著者と読者」の関係ではなくて、SNS時代の「書き手」がステップアップできる、きっかけや「場」はないのだろうかと。

「良い文章とは何か?」読み手の数だけあるとすれば、答えや正解もありませんが、そこに挑戦している姿に正解があるのだと思うようになりました。「クリスマス金曜トワイライト・文学賞」は、その存在そのものが新しい挑戦ではないかと考えています。

未来は若い世代のためにあります。そのバトンをわたすためにも「まず隗よりはじめよ」でこの文学賞+受賞イベントを実施します。文章愛あふれる人たちによる「文章愛をわかちあえる」時間と「場」になれば嬉しいです。


※各賞と授賞選考ポイントについて

1:「選考委員賞」:あなたによって生まれ変わった恋の新しい原作を書いてくれた方へ選考委員会から贈る賞です。
2:「読み手・賞」:スキ・引用RT・引用noteを集計して一番多い方へ贈る賞です。
3:「書き手・賞」:リライトした書き手による投票数で選ぶ賞です。
4:「妄想賞」:妄想の激しさを基準に選考委員会が贈る賞です。
5:「イケマツ賞」:池松潤の独断と偏見で贈る賞です。正直わたしの好みです。すいません。
6:「覆面座談会・大手出版編集者・賞」:覆面座談会形式で大手出版社の編集者によるプロが贈る賞です。

⇒◆この「6つの賞」から「総合大賞」を選考委員会から贈ります。総合大賞の方の作品はアニメ映像化をしてyoutubeへUPします。

初回とおなじく、全応募作品を池松潤が読んでコメントをnoteでフィードバックさせて頂きます。
★「クリスマス金曜トワイライト・文学賞」総合大賞には、池松潤は僅かながらですが1万円をご用意したいと思います。


◆前回についてはこちらをどうぞ。

1週間で48件ものエントリーがあった「前回参加者作品一覧と池松コメント」をどうぞ▼


◆「クリスマス金曜トワイライト・イベント」とは

「恋愛小説をリライトした作品」をクリスマスシーズンに行う表彰式イベントです。
◆恋愛小説・金曜トワイライトとは・・・
池松潤が書き下ろしたオトナの恋愛小説。7月~9月の毎週金曜日に配信されました。その作品をもとに自由にリライトしてもらうという企画です。初回10月の開催では1週間で48件の応募がありました。各参加者のフォロワーによりSNSでシェア&拡散されて、さらにnote公式編集部にピックアップされる等ヒット企画になりました。まったく新しいタイプのイベントです。

※応募エントリ―開始は12/4(金)トワイライト(日没あたり)からです。
※※応募期間を、〜12/11(金)23:59までを12/14(月)午前6時までに延ばします❗️

◆そもそも「リライト」ってなに?
「執筆者以外の人が、文章に手を入れて書き直すこと」です。または、ある文章を目的に合わせて書きなおすこと。 例)「記事を放送用にリライトする」など。クリスマス金曜トワイライトは、広義のリライトなので、恋愛文章愛があればOKです。

◆作品エントリーする効能とは?
1:「他人の書いたのはよ~く見える」から「自分のも見えるようになる」
2:人のダメな所とかココを直せば良くなるツボが見えてきます。
3:noteを一緒に育てるような気分になれます。色んなnoteをレーダーチャート診断で1万本ほど読ませて頂いて気が付いたのは「他人の書いたのは、よ~く見える」ことです。他人のをリライトすると楽しく執筆スキルがあがると思います。やはり恋バナは楽しいですね。

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オトナは恋かシゴトでしか変われない
#クリスマス金曜トワイライト  

12/18 ON&OFF イベント 詳細と、スタートアップ・メンバー、について近日別noteに書きます。よろしくおねがいしまーす!

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一緒に受賞作品を映像化していただける「動画編集者」募集してます。

受賞作のひとつを映像化してYoutube配信します。映画のCMみたいな30秒をイメージしています。実写化する場合は、「脚本+撮影+出演者+編集+MA」と、めちゃお金が必要ですから、アニメ化という手法を考えています。noteお題企画でこんなこと事例は今までなかったと思うので、どうすればいいか一生懸命考えてます。一緒に「小説と映像」の新しいエンタメ空間を生みだしましょう。

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※ご連絡はTwitterへDMよろしくおねがいしまーす。詳細はDMでお話しします。過去作品のURLなどポートフォリオを教えてください。よろしくおねがいしまーす。


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