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【女性モノローグ】プリン


(女、暗転時に台詞)
お母さん、冷蔵庫のプリン食べちゃっていいよね。
(プリンを持って、明転)

(女、キッチンの椅子に座っている親戚の女の子と話す)
あ、えーと‥‥‥ああ、そうだそうだ早苗ちゃんだ。久しぶり、何年ぶり?三年はたってるよね。どうしたの今日は。
東京の企業に就職するんだ?えっと、早苗ちゃん、今年就活だっけ。
あ、もう成人式終わったんだっけか。そっか、うん、え、どこ受けるの?
うわっ!大手じゃん。二次面接なんだ。すごいね。うん、頑張って。応援してる。まぁ、具体的に何かをするわけじゃないけれど、アドバイス?無理だよ。私にアドバイスできることなんてないよ。だって私、高卒のフリーランスだよ。

かっこよくないよ。全くかっこよくないから。
高卒のフリーランスに安定した大企業の二次面接のためのアドバイスなんてできるわけないから。私にできるのなんてせいぜい可愛くみえるイラストの描き方を教えるくらいだよ。
恋愛相談?よけい無理だよ。彼氏が地元で就職するの?地元ってどこだっけ?愛媛?
愛媛かー、無理でしょ。別れたほうがいいよ。
愛媛と東京じゃあ、もたないでしょ。あのね、遠距離恋愛なんてもたないからね。会えない時間が愛を育てるとかいうけれど、それはね、好きな相手に会えない時間に他の魅力的な相手に誰にも会えない人の話だからね。
田舎と田舎だったらいけると思うけどさ、東京はいろんな出会いがあるからね。無理だよ。絶対に目移りするもん。遠くの親戚より近くの他人だもの。
遠距離はやめたほうがいいよ。おばさん、それで貴重な20代の5年間を無駄にしたから。
まぁ、早苗ちゃんがどうなのかはわからないけれどさ。

まぁ、もうアラフォーだからね。早苗ちゃんの倍くらい生きてるから。色々知ってはいるけれどさ、でも私は憧れられるような人間じゃないよ。
早苗ちゃん、歳をとったからってね、別に偉くなるわけでもないからね。
若くてもすごい人はいるし、歳とっててもダメ人間っているから。それに歳とったからって別に楽しいことが増えるってわけじゃないのよね。
おばさん、別に楽しくないからね、生きてて。まぁつまらなくもないけど。ただ生きてる感じ。子供でもいたら違ったのかもしれないけれどさ。

歳とったら楽しくなるって言い切れたらいいんだけれどね、それが言えないんだなぁ。
ごめんね。
でもそうだなぁ、歳とったらたいていのことは「うるせぇバカ」と「どうでもいい」と「知らねぇよ」で流せるようになっていくから、生きるのはかなり楽になるとは思うよ。

怒るって体力使うでしょ。そこに使う体力がなくなっていくんだよね。
理不尽なこと言われてもだいたいこの「うるせぇバカ」と「どうでもいい」と「知らねぇよ」の三つでカバーできるようになるから。
うん、アラフォーになったらだいたいのことはどうでもよくなるからね。

どうしたの?早苗ちゃん、何かあったの?すごくつらそうな顔してる。
イラストで表現したら目がバツ印みたいになってるよ。
まぁ、若いとさ、あれもしたいし、これもしたいし、全部したいし、全部守っていきたいし、未来は白紙だし、なんでもできて、すごく幸せになりたいって思ってるじゃない。幸せのハードルがすごい高いじゃない。それってしんどいよね。
でもね、歳とればとるほど幸せのハードルどんどん低くなるから。
白紙の未来が少しずつ埋まってくると自分の限界ってのがわかってくるんだ。
もう寝るところがあって、美味しいごはん食べれて、たまに友達と旅行いけるだけで十分。冷蔵庫にプリンも入ってるしね、食べるプリン?

早苗ちゃんが何に悩んでるかわからないけれどさ、プリン食べて美味しいなって思えるようだったら大丈夫だから。プリンの美味しさに負けるような辛さじゃ人は死なないから。
もしプリンの美味しさが感じられなかったら病院行ったほうがいいよ。
ほら、三連プリンだからさ、一個ずつ食べよう。

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