【男性モノローグ】ラストライブ

（ギターを持った男、客席に話しかける）
今日はみんな俺の為にK2ラストライブに来てくれて本当にありがとう。
えっと、今日で俺は普通の男の子に戻ります。
まぁ、男の子っていう年齢じゃないんだけれどさ、言ってみたかったんだよね。普通の男の子に戻りますって。
AKB？違う違う、キャンディーズ。知らないキャンディーズ？
そっか、知らないかー、ジェネレーションギャップだなぁ。
山ちゃん、静ちゃんじゃないよ。それは南海のほう。元祖元祖。ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃんのキャンディーズ。ランちゃんが泣きながら言ったんだよ。「普通の女の子に戻りたい」って。有名な曲たくさんあるんだよ。春一番とか。
なんだこのやろーって違うよ。彼はそういえば片岡鶴太郎さんに弟子入りして芸能界に入ったんだよね。肝硬変で亡くなった時は悲しかったなぁ。奥さんに「ごめんね、ありがとう」って繰り返しながら死んでいったんだよね。47歳だよ。享年47歳。若いよねぇ。
みなさーん、元気ですかー？

雪が溶けて川になって流れていきます。つくしの子が恥ずかし気に顔を出します。もうすぐ春ですねー、ちょっと気取ってみませんかー♪

知ってる？
良かった、やっと伝わった。へー、ゆずがカバーしてるんだ。
えっと、そんなこんなで俺のステージはこれで最後になります。
この後？呑みに行くよ。一休か鳥貴族いこうと思ってるけれど、来る？
あ、辞めたあと？普通の男の子に戻って何するんだって話？

就職かな。田舎も何も知ってる人は知ってると思うけど俺、実家だからさ。
田舎とかないんだよね。だから普通に就職するよ。就職して普通のおじさんになります。
もうこんな歳だからさ。いや、それはそうだよ。俺もさ、ずっとやっていきたいって思ってたよ。でも‥‥‥あー、こんな湿っぽい話したくないんだよなぁ。今日はラストライブだからさ。もっと盛り上がっていきたいって思ってるんだよ。
まぁ、気になるよね。そりゃ気になるよな。
‥‥‥親父が定年なんだよ。
あー、うん、ありがとう。でも拍手じゃないんだなこれが。
で、お袋がさ、先日、入院したんだよ。いや、うん、大丈夫なんだよ。別にね、命に別状はなかったし、医者も疲労だって言ってたし、大丈夫。今は元気だから。
先月、喜寿の誕生日も祝ったし。あ、拍手ありがとう。これはうん、おめでたいよね。
でさ、誕生日の席でさ、俺、歌ったんだよ。ハッピーバースデー。
ハッピーバースデートゥユー。ハッピーバースデートゥユー。ハッピーバースデーディア美恵子って。そう、うちのお袋、美恵子って言うんだよ。
（笑って）その、美恵子コールおかしくないか？
お袋喜んでくれてさ、「浩二は本当に歌が上手だね」ってちょっと涙ぐんでてさ、「絶対に売れるよ」って。「もうすぐだよ」って言ってくれるんだよ。
あ、俺ね、浩二。浩二だからK2。あーって、まぁ、うん、ありがとう。兄貴いるよ。浩一。兄貴は東京で公務員やっててすごいしっかりしてんだ。仕送りとかもしてるし。まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。
浩一コールはいらないよ。いらないいらない。（笑いながら）やめろって！

えっとどこまで話したっけ。そうそう、お袋の誕生日に歌った話だ。それで思ったんだよ。
親にとってさ、俺っていつまでたっても子供なんだよなって、でもさ、いつまでも生きてるわけじゃないんだよなぁって。死ぬんだなぁって。
そしたら親孝行したいなぁって思ったんだよ。孫の顔見せてやりたいなぁって。
俺、一応さ、相手もいるんだよ。でもさ、バイトやりながら音楽やってるアラフォーじゃ結婚しようとか言えないだろ。相手はさ、自分が働くから浩ちゃんは音楽頑張ってほしいって言ってくれてるんだけれどさ、俺、祥子も幸せにしてやりたいんだよな。
OK！祥子コールはOK！いいね、盛り上がっていこうぜ。ラストライブ。
しょーこ、しょーこ、なんか新興宗教みたいだな。

ラストソング行くぜ！（手拍子を募る）（客席を指さしながら）高橋！せおっち！りょうちん！ななこ！まさひこ！きょうこ！田中！そして美恵子と祥子！俺の親父、浩三！全員、もう顔見知りじゃねぇか！ん？奥の奴、誰だ？ごめんちょっと明かり落として、兄貴？え！兄貴、何で？笑ってんじゃねぇよ、ちくしょう！最高の観客じゃねぇか！お前らの為に、ラストいつものいくぞー！ラストソング！「俺、就職すんの嫌だ！」