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【男性モノローグ】明日の穴

(男、ホテルの部屋から帰ろうとする恋人を呼び止める)
違う!違う!そうじゃないんだ。
待ってくれ。頼むから待ってくれ。そういうことじゃないんだ。

僕はね、もっと君のことをわかりたいと思ってるんだ。
もっと。心の底から。付き合っていくってそういうことだろう。相手のことを全てわかった上で許せるか。許せるっていうとなんだか上から目線になっちゃうからさ、ちょっと嫌な気分にさせてしまうかもしれないけれど、まずは理解することが大切だと思う。
君のことをもっと理解したい。
そしてもっと好きになりたいんだ。

ほら、バッグを置いてくれないか。しっかり話そう。
今日は恋人になって一年目の記念日だろう。
そうだよ!僕はそういう細かいことも覚えてるんだ。
食事美味しかっただろう。あの冷製スープがとても良かったよね。
・・・・・・うん、似合ってる。ティファニーなんてなんだかベタかなと思ったんだけれど、こうして君の胸元で光っているとすごい映えるなぁ。似合ってるよ。
いや、本気だよ。お世辞じゃない!本気で言ってる。
この部屋も悪くないだろう。最上階を用意したんだ。このあたりでこれ以上に高いホテルはないんだよ。いや値段じゃない。そんなマウンティングはしないよ。地上からの高さだよ。窓からの眺めもすごくいいだろう。
僕の気持ちはわかってもらえたかな。

そんな怪訝な顔をしないでおくれよ。
もっともっと君のことを好きになりたい。
僕はまだまだ君のことをわかってない。だから知りたいんだよ。
だからさ、うん。そういうことなんだよ。
だからお願いをしたんだよ。
わかりにくいかもしれないけれどわかってもらえないかな。
ほら、座って。話し合おう。話し合うことで僕たちはわかりあうことができる。人間ってのは動物とは違うんだ。コミュニケーションがとれる生き物だからね。

(彼女が座ったのを確かめて、まっすぐに目をみて)僕はね、お尻の穴に指を入れてほしいだけなんだ。
そう。お尻の。穴に。指を。僕のじゃない、君の。僕の指を僕が自分で入れるんだったらわざわざ君に頼まないだろう。君の指をだよ。そう。入れてほしいんだ。

待って!
君の心配はわかってるよ。
大丈夫。指にゴムをはめれば汚くならないから。女の子だものね。汚いのは嫌だよね。だからコンドームを使えばいい。用意してあるから。
僕の心配をしてくれているんだろうけれど、それも大丈夫だから。ローションも用意してある。使えばすんなり入ると思うんだ。

そうだね、誰だってお尻の穴に指を入れてほしいなんて頼まれたらそりゃ断ると思う。
友達にお願いされても僕だって断るよ。
君に言われたらやぶさかじゃないかもしれないけれど、待って待って、そういうことじゃない、君のお尻に興味があるとかそういう話じゃないんだ!
変態じゃないよ。僕はただ知りたいだけなんだ。

うん、どっちかっていうと性的欲求っていうより知的好奇心だと思う。
入ってこられるということを知りたいんだ。わかりたいんだよ。
ほら、よく相手の立場にたって考えることが大切だっていうだろう。相手の立場に立たないとわからないことがあるって。だから君の立場に立ってみたいんだ。
身体の中に侵入されるということがどういうことなのかを知りたいんだ。
自分で?それじゃダメなんだよ。自分でやっても侵入にならない。自分の家に自分で入っていってもそれはただ帰ってきただけだろう。
お店じゃダメなんだよ。お店じゃ。風俗の女性は他人じゃないか。そこに愛はないから。自分の家に他人が入ってきたら警察を呼ぶよ。
愛しているから愛されているから侵入してくることを許せるんじゃないのかな。

君のことをもっとわかりたいんだよ。
だからさ、お願いできないかな。

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