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ハアレクイン・ロマンス

『ハアレクイン・ロマンス』 原案:ハアレクインムーン

 男が夜に妻と話をしている。
 
今日は何の日かって?
なんだろう、秋分の日かな。夕陽の日やお墓参りの日ってことでもないよね。あ、今日は夕陽の日なんだよ。夕陽をみて死んだ人に想いをはせる日なんだ。娘関係じゃないよね。その旦那さん関係でもない‥‥‥ちょっと考えるね、大丈夫、ミステリマニアの名にかけてすぐにこの謎も解き明かしてみせるから。

ごめんごめん、嘘だよ。冗談だよ。結婚記念日だよね。覚えてるよ。本当だよ。本当に忘れてない。忘れていたら今日のことをこんなに詳しく調べてたりしないでしょ。普通、夕陽の日とか突然出てこないよ。わかったわかった、覚えてた証拠を見せるから。

ジャーン!(小箱を出す)ほら、プレゼントもしっかり用意してあるんだ。(小箱を開ける)。真珠の指輪。ほら、この真珠、理恵子の肌みたいに白くてすべすべで美しいだろう。
結婚25年目が銀婚式で、50年目が金婚式っていうけれど30年目は真珠婚式なんだ。
真珠には、健康とか長寿って宝石言葉があるんだよ。僕たちがこれから永久に一緒に健康で長生きできますようにって。指輪の後ろには二人のイニシャルが刻んであるんだ。今日渡せるように作ってもらったんだよ。ちょっとロマンチックすぎたかな。

子供も結婚してさ、これからは二人で過ごすことになるからね。
マンネリな日常にはしっかりサプライズがないと。これはサプライズ大成功かな。
最近、旅行雑誌をやたらとみてるの僕は気づいてるからね。刺激が欲しいって思ってるんだろう。種明かしをするとね、実は今日、ずっと理恵子に指輪を渡すタイミングを探してたんだ。理恵子は、今日は朝から複雑な顔をしていただろう?ぬちゃっとした甘すぎる砂糖漬けのジェリービーンズを食べているような複雑な顔。サプライズはタイミングが大切だからね。理恵子は細かいから、結婚記念日を忘れてるなんてことはないって確信はしてたけれど「今日は何の日か覚えてる?」って聞かれた時、ホッとしたよ。

(咳払いをして)ずっと支えてくれてありがとう、理恵子。
僕はさ、理恵子がいないとだめなんだ。料理も掃除も洗濯もできないし、理恵子がいないとどこに何があるかもわからない。お菓子の袋を開けっぱなしにして菓子を湿らせてしまうようなズボラな男だ。身長が高いわけでもないし、エリートでもイケメンでもない。
でもね、僕は君のヒーローでありたいって思ってる。理恵子は僕のお姫様なんだ。
一緒にこれからもハッピーエンドを作っていこうね。

‥‥‥なんかさ、あらためて言うと、こういうの照れてしまうね。

え?理恵子も何か、用意してくれてたの?
サプライズ返しが来るなんて思ってなかったからすごいサプライズだよ。
待って待って、当てさせて。封筒に入っているってことは、薄いものだよね。理恵子の性格から考えると、実用的なものだと思うんだ。図書券とか商品券とか、もしかして現金だったり、それは味気ないか。あ、旅行券か!ここで旅行雑誌と繋がるのか!

(封筒を開ける)え‥‥‥離婚届?
旅行雑誌は?一人で温泉いくの?「疲れた」って‥‥刺激が欲しいんじゃないの?
「私はあなたのお母さんじゃない」って、そんなのわかってるよ。
「サプライズ大成功」じゃないでしょ。
「材料は全部揃ってるから解き明かしてみたら」って、いつでもどこでもミステリやサプライズが欲しいわけじゃないからね、こういうのは時と場合によるでしょ。
「そういうこと」
「そういうこと?」


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