箱入り女

『箱入り女』　原案　鳥海真奈美

　女、母をみつめている。

私ね、ずっと不満だったんだよ。もうこの際だから言いたいこと全部言わせてもらうね。
もういいよね。何十年もずっとずっと我慢してきたんだから。
‥‥‥私はあなたの所有物じゃないの。
私には私の生き方があるの。
私はもう子供じゃないの。

ママのことなんて嫌い。ずっと黙っててほしいって思ってたんだから。
「お菓子ばかり食べてたら太っちゃうじゃない！」
「夜遅くまで起きてないで早くお風呂入って寝なさい！」
「もっと可愛らしいセンスのいい服を着なさい！」って、口を開けば私への文句ばかり。
私の話は全然聞いてくれなかったね。
「女の子なんだからおしとやかにしなさい」って。
ママのルールが絶対だったもんね。
好きなものくらい自由に食べさせてよ。
夜の11時なんて全然夜更かしじゃないよ。
私はシンプルな服が好きだったんだよ。知らなかったでしょう？ママがデパートで買ってくるテロテロした素材のフリルのついたような服は苦手なんだよ。

‥‥‥今日はママ、私の話黙って聞いてくれるんだね。
もしかして反省してるの？子育て間違ったとか思っちゃってる？

大丈夫だよ。ママ。私ね、今、とても幸せだから。
ママと離れて、右も左もわからないまま一人暮らしを始めてさ、色々あったんだよ。
恋人もできたの。私、ママのおかげで箱入り娘同然だったでしょ。つきあうってどういうことなのか想像もつかなかったけどね、恋愛にルールなんてなかったんだよ、ママ。
彼は寂しい時、いつも一緒にいてくれるんだ。
私の言葉を尊重してくれるの。とても素敵な人なんだよ。

ママ、私ね、その人と結婚したの。
ママ、私ね、子供が生まれたんだよ。
ママ、私ね、ママになるの。

ママ、女の子だよ。すごくすごく可愛いよ。
目元は私に似てる。だからママにも似てることになるのかな。
小さな手で一生懸命生きようとしてさ、私の指をギュっと掴んでくるの。
私、この子の為なら何でもしたいってってそう思ってるんだ。
自分がどう思われてもいいから、絶対にこの子を幸せにしたいって。

‥‥‥きっとお菓子ばっかり食べてたら怒っちゃうだろうな、身体に悪いもんね。
夜遅くまで起きてたら叱っちゃうだろうな、健康にもお肌にも悪いもんね。
女の子なんだから思いっきり素敵な洋服を着せてあげたいもんね、きっと服のセンスにも文句を言うようになるんだろうな、私。
私さ、ママと同じことしちゃう気がするよ。

ママ、すごいね。ママの子育ては大成功だ。
だって私、今とても幸せだから。ちょっとは調子にのっていいんじゃない、ママ。

ママ、どうして何も言ってくれないの。そんな窮屈な箱の中で微笑んでないでさ、いつもみたいに私に文句を言えばいいじゃない。
私の話、ただただ聞き続けるなんてママらしくないよ。

‥‥‥ふざけんな！ふざけんなよ！言い返してきなよ！ほら！
ママはおばあちゃんになるんだよ！目をあけてよ！ねぇ、ママ！
どうして、どうして何も言ってくれないのよ！ママ、何か言ってよ！ママ！

　間

‥‥‥（笑って）私も昔、ママに何も言い返さなかったね。その仕返しかな。
ママ、昔の私にそっくりだ。ママの前で何も言い返さずにただ黙って笑っていることしかできなかった私にそっくり。あの時、言い返せばよかったなぁ。あの時、言い返せばママも言い返してくれたかな。言い返せばよかった。

言い返してよ、ママ。
「女の子なんだからおしとやかにしなさい」って。箱の中から出てきてよ。
何か言ってよ、ママ。ねぇ、ママ。ママのことなんて嫌い。嫌い、嫌い、大嫌いだよ！
ねぇママ。ママってば‥‥‥大好きだよ、ママ。