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#3: 直感的思考と論理的思考:チェスにも使える5つのアイディア

あなたの脳は、2つのシステムを使い分けています。

  • システム1 (直感的思考): 自動的、無意識のうちに行われる

  • システム2 (論理的思考): 集中力が必要、意図的に行われる

ノーベル賞を受賞した心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマンはこの前提をもとに、ベストセラーファスト&スローで我々が持っている数々認知バイアスや無意識のうちにとっている行動や癖を紹介しました。


その中から、チェスにも関連する5つの理論・発想を見ていきましょう。
※試すのは自己責任でオナシャス


1. 「事前検討」をしよう

検討は通常、試合後にするものですが、試合後や試合中にも使えます。
どういう問題が生じ得るか、先に考えておくのです

次に何をするかほぼ決めかけている時は疑うことをやめ、全てうまくいくだろうと信じたくなるものです。そういう時に、「なぜうまくいかなかったのか」といういくつかのシナリオをその細部まで想像する、すなわち事前検討をするのが効果的なこともあります。

チェスでは、事前検討はこんな風に使えます:

  • 相手の狙いを突き止めようとする

  • 試合の大事な場面で、AかBを指すか比較する

  • 手を指す前に、穴がないかもう少しだけ考えるようにする

  • 試合に向けてのオープニングを決める際にオプションAとBを比較する

  • 大会まで2週間の時点で、どういうトレーニングに徹するべきか決める

Magnet.me / Unsplash

2. 試合中に微笑む意味は?

公式戦のさなか、あなたは無意識のうちに微笑んだり眉間にシワを寄せたりしていませんか?

自分の直感をもっと信じたい場合は、無理にでも微笑んでみましょう。脳はそれを認知的安心と思い込みます。脳が現状オーライと思い込んでいるリラックス状態なので、勘や直感も信頼しやすくなります。
じっくり考えたり、細心の注意を払いたい場合は眉間にシワを寄せましょう。脳はそれを認知的不安と思い込みます。疑い深くなる状態なのでミスも減りますが、直感を敬遠しやすくなり、創造性も落ちます。

あなたが試合中にいつも眉間にシワを寄せているタイプなら、直感である読み筋が良いと感じていても、そこに飛び込むのはなかなか難しいと感じるかもしれません。口角を上げてみましょう。
試合中によく微笑む人は幸運にも少数派ですが、この癖を持っている人は、佳境に入った時にもう少し険しい表情を心がければいいかもしれません。

Bernard Hermant / Unsplash

3. チェスプレイヤーの主観と客観¹

プロスペクト理論の決定加重によれば、客観的に低い確率は主観的には過大評価され、客観的に高い確率は主観的には過小評価されます

例えば、宝くじに当たる確率は限りなく小さいのに、多くの人が「ワンチャンあるんじゃないか」とくじを買います。
その反面、例えば手術の成功率は99%だと聞くと、その1%を過剰にこわがり、心配してしまいます。

チェスの試合でも、客観的な確率と主観の評価の間にはよくズレが生じます。例えば、この2つは実戦的によく起こるケースです:

  • 負けそうでも、1%でもチャンスがあれば積極的に指すことで相手を悩ませ、ミスを誘える。失うものが何もないので指しやすくなる

  • 勝っていても、1%でもリスクがあれば相手のカウンタープレーを過剰に心配し、消極的に指してしまう。失うものが大きいので指しにくくなる

あなたがもし、勝ちポジをよく台無しにするまたは負けポジで踏ん張るのは苦手というプレイヤーなら、プロスペクト理論のことを思い出しましょう

Phillip Larking / Unsplash

4. 起きることの多くはランダム

人間は、何が対象でもそれはあるパターンや法則に基づいて起きている・存在すると考える習性があります。あなたの脳は常に外界からの情報から学び、それを考慮した最善の行動を取ろうとするからです。
例えば、家のすぐ近くの通りで交通事故があったと知ると、交通事故の確率は統計学的には普段と変わらないのに、「自分にも起きるかも」としばらくの間はいつもより注意深くなってしまいます。

しかし、多くの物事は全くランダムに起きているので、起きること全てから無理に学習しようとしなくてもいいことがあります。

  • 大会での悪い結果が立て続けに起きると、「自分はチェスに向いてない」「弱くなってる」「もうやめたほうがいいかも」と考えてしまうことがあります。しかし、たった2つの大会です。実力よりレートが低い相手に複数回、当たったかもしれないし、僅差で負けてしまったかもしれない。

  • 同じように、ある大会で絶好調でも、毎回そのレベルで指せるわけではない。自分の実力を知るには、とにかく多くの試合をこなさないといけません。失敗や成功に毎回影響されすぎると、結果に固執するようになり、とにかく失敗を避けようと消極的に指すようになってしまいます

  • メガベースやリチェスのマスターズデータベースで序盤研究をしていると、ある手の勝率が一番高いかもしれません。しかしこれは試合数が少ないのが理由かもしれません。試合数が少ないと、勝率も例えば1つの試合の結果に左右されてしまうので、サンプルの大きさにも注意しましょう。

Will Myers / Unsplash

5. 後悔しないメンタル

勝ちポジでのブランダー。なぜか見つけられなかった、(後で考えてみると)簡単な勝ち筋。痛い負けのあとの苦悩。

人間である以上、ミスは避けられませんが、後知恵バイアスと後悔に対するカーネマンの言葉はチェスの助けにもなるかもしれません:

「我々は損切りをする時に今後の損益だけでなく、埋没費用も考慮し、失敗だとみなす。後悔につながるかもしれない行動は避け、行動をしたかしなかったかに対しても、感じる責任の度合いが違うから捉え方も変えてしまう」
「後悔するかもという考えが頭をよぎったら、それをはっきりと認識しよう。もし、事態が悪くなった時に後悔する可能性を考慮したことを思い出せた場合、後悔の度合いは軽減される」
「私が後知恵バイアスを回避する方法はこうだ。長期的な帰結を含む決断をする場合、かなり細かく検証するか瞬時に決断するかのどちらかにする。後知恵バイアスは、考えたけど、あともう少しだけ考えれば良い決断ができた!とあとで自分を責めるような半端な考え方に一番引き起こされやすい」

¹「3. チェスプレイヤーの主観と客観」は、当初の投稿の「確実性効果」及び「プロスペクト理論」についての文章に、私の不勉強さから複数の誤りがありました。専門家の川越敏司教授にご指摘いただき、ツイッターのスレッドで色々教わることができました。この修正版では、川越教授の言葉もそのまま使わせていただきました。川越先生、ありがとうございました!


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