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研究室から社会へ。使うときだけふくらます風船モビリティ「poimo」

家から駅、駅から目的地など「すこし歩くな」と感じる距離を移動するときに、折りたたみ傘みたいに、使いたいときだけ鞄から取り出して使う乗り物。

そんな夢みたいな話が実現しつつあります。
それがメルカリ R4Dと東京大学が共同で開発する「poimo(ポイモ)」です。

「Portable(持ち運びできる)」と「Inflatable(膨らませることができる)」と「Mobility(移動手段)」の頭文字をとった poimo は、「軽くて柔らかくて持ち運びができるモビリティ」というコンセプトのもとにつくられた、風船のように筐体の中に空気を入れて使う新しいモビリティです。

研究室から生まれ、社会実装されつつある poimo について、プロジェクトメンバーである、mercari R4D の山村亮介さん、東京大学で研究員をされている佐藤宏樹さん、助教をされている鳴海紘也さんにお話を伺いました。

(聞き手・編集: 池澤 あやか)

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左から、山村亮介さん、佐藤宏樹さん、鳴海紘也さん

使うときだけふくらませる、柔らかいモビリティ

佐藤さん: poimo は「軽くて柔らかくて持ち運びができるモビリティ」というコンセプトをもとにつくられた、新しいモビリティです。
ふだんはカバンにいれて持ち運ぶことができて、使うときだけ、風船のように筐体の中に空気を入れて使います。

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佐藤さん: 他のモビリティと比べると、部品数が圧倒的に少なくて、そのぶん重量も軽くなっています。例えば、車体の進行方向を変えるステアリングの部分も、硬くて重い部品は使わずに、風船状のパーツの復元力を利用して実現しています。

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池澤: もともとこのプロジェクトはどういうところから始まったんですか?

佐藤さん: poimo は、わたしたちの環境に溶け込むデジタルデバイスを研究する「ERATO 川原万有情報網プロジェクト」の一貫として立ち上がったプロジェクトです。

最初に、チームメンバーと新プロジェクトについての話し合いをしていたときに「風船で車椅子を作れるんじゃないか」みたいな話になって、そこから「使いたいときに膨らませて使うモビリティって面白いんじゃないか」という話になりました。

基礎研究から新しいモビリティの機構を考える

鳴海さん: ERATO に参加している研究室のひとつである新山研究室では、温度が34度になるとパーツ自体が膨らんで動く機構の研究していました。これを応用すれば、柔らかい機構が実現できるんじゃないかというのがアイディアの根底にあります。

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鳴海さん: ERATO に参加している他の研究室を見ても、川原研と高宮研では無線給電できるキックボードの研究を、新山研では風船状の機構の研究を、筧研ではマテリアルやインタラクションについての研究をしていたので、せっかくだからこれらの研究を全部盛った新しいモビリティをつくれたら面白いよねという話もありました。

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研究全部盛り

山村さん: そこから「ドラゴンボールに出てくるホイポイカプセルみたいに、持ち運べて、使うときはポンと投げると展開されるようなモビリティがあるといいよね」とか「ベイマックスみたいにぶつかっても楽しいモビリティがあればいいよね」とか、そういう夢みたいな話もして、研究とか夢とか、そういうものを全部かけあわせて誕生したプロジェクトが poimo です。

池澤: メルカリとしてはこのプロジェクトにどう関わっているんですか?

山村さん: 僕が所属している mercari R4D は、今のメルカリの事業にとらわれず、3〜5年後のメルカリに役立ちそうな、新しい事業を開拓するための研究機関です。

僕はこのプロジェクトにフルコミットして、東大のメンバーと一緒に研究を行ったり、社会実装担当として論文にならない仕事をほぼ全部担当していたりしています。

池澤: メルカリとコラボすることで、研究になりそうな領域と、社会実装する領域を分担して作業できるのはいいですね。社会実装することで見えてくる研究テーマもありそうですし。

poimo が公道デビューするために必要なこと

池澤: 社会実装するために、これから解決しなくてはいけない課題は何ですか?

山村さん: 実際に街中で poimo を走らせるためには、実用レベルの操作性や乗り心地を実現したり、展開や収納しやすい形状を検討したりと、まだまだ解決するべき課題があるんですよね。

例えば、バランスボールに乗っているような不安定な乗り心地をどう安定させるや、ヒンジの復元力が強すぎて曲がりにくいなどの問題を、いろんなパートナー企業を巻き込みながら、解決しようとしています。

鳴海さん: 筐体に空気を出し入れする機構にも改善を加えようとしています。
poimo に乗って駅まで行って、駅で苦労しながら畳んでいる人がいたら滑稽ですよね。例えば、折り紙みたいに筐体に折り線がついていれば、折りたたむことで空気が抜ける機構を実現できるかも、と思案しているところです。

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現状の poimo は空気を抜いて畳むのにすこし時間がかかります。

柔らかいモビリティは、研究分野として発展途上

池澤: poimo ってバイク型だけではなくて、ソファ型とかいろいろな形状のものをつくってましたよね。ある程度自由に設計可能なんですか?

佐藤さん: この風船状の筐体の中は、上下の面を糸で拘束することで、拘束した面にすこし剛性のある平面ができるようになっています。なので、平面を利用した形状であれば比較的自由に造形をすることができます。

poimo プロジェクトとしても、バイク型やソファ型、イス型などいろいろつくりました。

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筐体の中身。糸で上下の面が拘束されています。

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平面を利用した形状であれば、比較的自由に造形できます。

池澤: poimo プロジェクトとして、課題に感じていることはありますか?

佐藤さん: そもそも柔らかいモビリティの研究って、研究分野としてまだ未熟なんです。
硬いモビリティだったら、自動車やバイク、飛行機だとか、いろいろと先行研究や設計論があるのですが、実際、柔らかいモビリティをつくるときに、硬いモビリティの設計則に従っても、うまく機能しないんですよ。

柔らかいモビリティは、車両自体の剛性も低いし、車両の軸も安定しにくいし、タイヤの位置や、車輪の径や太さもゼロから考えなくてはいけません。

柔らかいモビリティに硬いタイヤをどうやってつけるんだという議論もあります。接着剤ではつかないので、今はタイヤやモーターのついたプレートを筐体に埋め込んでいます。

こんなふうに、どうやって設計したらいいか全くわからないところから研究がスタートしているので、これからみんなで解き明かしていかないと、こういう柔らかいモビリティは普及していかないと思います。

山村さん: 柔らかいモビリティの研究にもっと人を集めて、研究分野自体を盛り上げていきたいというのも poimo プロジェクトの目標のひとつです。

個人的には、世の中が完全に自動運転に切り替わったら、柔らかいモビリティが主流になるんじゃないかと思います。自分たちの安全を守るための硬い筐体がいらなくなるじゃないですか。

柔らかいモビリティはこれからアツいぞ!って言いたいですね。

編集後記

実際にわたしも poimo にも乗らせて頂きました。

poimo は手持ちのコントローラーでスピードを調節し、ハンドルを使って進む向きを操作します。

左右のステアリングは、金属部品ではなく風船状のパーツの復元力のみを利用して実現しているため、特有のハンドルの操作感があって、乗りこなすには少しコツ必要そうだと感じました。

最高速度は10キロほどで、緩やかな坂道なら登ることができます。車体はシンプルな構造ですが、座席にぽよんと風船のような弾力が感じられ、座り心地はよかったです。

これからも poimo プロジェクトは、実社会で機能する走行性や利便性を獲得したり、東大の最先端の研究を反映させたりと、アップデートが続いていくそうで、わたしもいちテクノロジー好きとして、今後をとても楽しみにしています。

■ poimo メルカリ R4D 公式ページ

■ poimo 東京大学 公式ページ

本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。

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