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手荷物を取り間違うということ

空港職員は体力仕事だ。
空港内を走り回り、深夜早朝関係なく仕事をする。
体力仕事である理由だ。

そんな私たちは、腕力がつく。
それは、スーツケースなど、預ける荷物を持ち上げ、運び、
返すからだ。

航空会社によって、預けられる荷物には制限がある。
特に、無料で預けるには、重さ・サイズ・個数が重要だ。

飛行機に持っていくものや大きさ、重さ、量によっては、
機内に持っていくだけで十分であることもある。

とはいえ、格安航空会社で7kg
大手航空会社でも10kgが限界だ。
それ以上の重さになれば、預けるしかない。

また、大きさも問題だ
機内に持ち込もうとすると、縦・横・高さ
そう言われることもある。

そんな大きさや重さ、量についてはまた今度
それらを超えれば、やはり預けるしかない。

預けたら、引き取らなければならないのだが、
そんな引き取るときにもトラブルは起きるのだ。

今日はそんなお話


飛行機が飛び立ったころ、到着する空港は情報の確認を始める。

「今日は荷物多いね」
そう言いながらカウンターに戻ってくる同僚。

「今日は3桁くらいBAG乗ってるよね」
私はそう答えながら片づけを続ける。
受託手荷物がどれだけ乗っているかで、返却終了までの時間が変わってくる。

「次のはどれくらい?」
同僚はそう尋ねながら、向かってくる。
何度も繰り返される話題だ。

「次も多かったと思うけど…」
私は、システムに照会するために、パソコンに向かう。

「お疲れ様
 次は200越え
 232個だよ」
私は同僚にそう言いながら、他に何かないか確認を続ける。

「大丈夫
 ペットも自転車もサーフボードも楽器もないから、
 取り違えだけ気をつければ大丈夫」
システムを確認し終わったので、片付けに戻る。

「取り違えだけは、やだなぁ」
そう言いながら回っているベルトコンベアに向かう同僚を見送りながら、
「私も嫌だね」
そう言いながら、手は動かし続けるのだった。


⦅○○からご到着のお客様は、✕番手荷物台からお返しします⦆
そう、アナウンスが流れている。
「あ、そろそろ来るかな?」
そう呟きながら、準備を続ける。

多くのお客様が飛行機から降りてくるのが見える。

スーツを着た男性や小さなスーツケースを引いた女性が、
足早に通り過ぎていく。

手荷物返却台の付近には、手荷物カートを準備して、
荷物はまだ来ないのかと待っているお客様たちが待っている。


⦅手荷物をお預けの皆様へご案内いたします。
 ○○からご到着のお客様は、✕番手荷物台からお返しします。
 黒いスーツケースやお土産袋など、似たようなものが多くございます。
 取り違いのないよう、手荷物控え証をご確認の上、お引き取りください⦆


手荷物を返却台から回ってくる。
時間が迫っているのか、あまり確認せず、荷物を引き取っていく。

子供たちは、保護者の手を引いて、取りに行ったり、
スーツケースのハンドルを引っ張るも、重くて下ろせず、
など、それぞれ引き取って、荷物を受け取っていく。


手荷物返却台を流れている荷物がまばらになってきた。
そろそろ手荷物返却台に残っている荷物を回収して、
次の到着便に備えなければ…


残っているスーツケースやお土産袋、段ボールなどを、
手荷物返却台から下ろしながら、残っている荷物を確認していく。

そんな中、荷物を探しているであろう、パーカーを着た男性が声をかけてきた。

「すいません 私の荷物が返ってこないんですけど…」
黒のリュックにグレーのパーカーを着た男性が声をかけてきた。

こういうことはよくある話だ。
手荷物台は回り続けているので、お客様がいらっしゃったときに、
反対側に行ってしまった可能性がある。

「お待たせしております。
 まもなく手荷物台を停止させますので、残っていないか、
 確認させていただきます」
手荷物台に残っている荷物を確認し、男性に問いかける。

「この中で、似ている荷物はありますか?」
荷物を見せながら、問いかけると男性はリュックにもなる黒い布製のスーツケースを指さしながら言う。
「これに似てますね」

「恐れ入りますが、手荷物控え証をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
これを確認しない限り、情報が足りない。

「どれですか?」
男性がポケットを探しながら、言う。

「出発した空港で渡された、白に番号が書かれたものは渡されてませんか?」
そう伝えると、搭乗券の裏に貼ってあるのが見えた。

「搭乗券の裏に貼ってあるようです。
 お預かりしてもよろしいでしょうか?」
そう伝えると、男性は搭乗券を渡してくれた。

「確認してまいります。
 ベンチにかけてお待ちいただけますか?」
ここから時間がかかる可能性があるので、男性には座って待っててもらったほうがいいだろう。


無線で同僚たちに伝える。
「手荷物の取り違えが発生した可能性あり!!
 対応入ります。」

システムで確認をすると、似ている荷物を誰が預けたか、
誰かと一緒に乗っているか、何個預けたのか、情報を集める。

「何か手伝えることある?」
手が空いたであろう同僚が声を声をかけてくれる。

「ありがとう!!
 空港の館内アナウンスと、関係部署に連絡お願い」
手荷物の取り違いは対応の早さが重要だ。
空港を離れてしまったら、アナウンスは聞こえない。

「お客様に説明して来る」
同僚に伝えて、お客様に説明をしに行く。

「お客様 お待たせしています」
男性がスマホから顔を上げて、こちらを見上げる。

膝をついて、目線を合わせて、説明を続ける。
「確認いたしましたところ、
 現在お客様のお預けいただいた荷物の行方が分からない状態です。
 出発された○○に積み残しがないか、機内に残っていないか、
 他のお客様が荷物を取り違っていないかを確認中です。」


「どうしたらいいですか?
 中にパソコンが入っているので、困るんですけど…」
男性は、そういった。

「ご迷惑をおかけしております。
 ほかに薬や貴重品など、入れてましたか?」
私は、そう尋ねる。

この質問は重要だ。
その日の洋服など、買えば何とかなるものであれば、
どうにかできるかもしれない。

しかし、薬などは、命に直結してしまう可能性がある。
また、貴重品など、高価なものであれば、盗難も気を付けなければならない。


「パソコンだけです。
 重要なデータが入っているので、なくすのは困るんです。」
男性は本当に困るのであろう、顔をしかめてそういった。

「承知いたしました。
 この後のご予定はどのような予定でしょうか?」
男性がこの後、どうしたいかによって、対応する方法が違う。

「今日はもう家に帰るだけなんですけど…」
男性は携帯で予定を確認したのであろうか、そういった。

「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。
 状況を確認してまいります。もうしばらくお待ちください。」
私はそう言って、男性から離れ、カウンターに戻る。


「いまの状況はどうなってる?」
カウンターに入りながら、電話を終えた同僚に声をかける。

「○○空港には残ってないから、積み残しではないと思う。
 荷物が入ってた情報も確認したけど、コンテナに入ってたみたい。
 けど、コンテナには入ってなかった…
 たぶん取り違っただろう、お客様には担当が電話してるよ」
同僚は状況を簡潔に教えてくれた。
本当にありがたい。

「待ってるお客様はとりあえず予定ないみたい。
 どうなってもいいように、書類作るわ」
私が同僚にそう言いながら、書類を準備する。


書類を作っていると、電話がかかってきた。
同僚が電話に出てくれた。

電話を終えた同僚がこちらにかけてきた。
「連絡着いたって!!」
ベンチにかけている男性には聞こえないくらいの声で言う。

「連絡着いた!! どこにいるって?」
連絡が早い段階で取れたのはありがたい。
が、場所が問題だ。

「車で走り始めたばっかりらしい
 10分くらいで戻ってくるって」
10分か、そう思いながらも、書類を作る手を止める。

「ありがとう お客様に説明して来る」
そういって、カウンターを出る。


「お客様、お待たせしております。」
ベンチにかけていた男性に、声をかけると、顔を上げた。

「誤って、荷物を取り間違われたお客様と連絡が取れました。
 車で空港を離れたばっかりだったようで、15分ほどで戻られるそうです。
 ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。」
そう伝えながら、頭を下げる。

「わかりました。ここで待ってていいですか?」
男性は疲れた顔でそういった。

「もちろんです。ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。」


この後、荷物を間違われたお客様と荷物を交換し、
ベンチで待ってくださった男性に荷物を確認してもらい、
事なきを得た。

間違って持っていった黒のリュックにもなる布製のスーツケースは、
似てはいたものの、同じものではなかった。



こういったことは、残念ながら起きることだ。

預けた荷物にも手荷物タグが付いており、
手荷物控え証にある番号との照合はお客様自身で行ってもらっている。

手荷物返却台から自分の荷物だと思ったとしても、
番号の確認をしなければ、確定ではないのだ。

どれだけ特徴的だったとしても、
似たようなものが流れてこないとも限らない。

「こんなにハートの主張が強いスーツケースは
 私以外には使ってないだろう」
なんて思わず、確認をお願いしたい。


番号で確認するのも面倒ではあるだろうが、
確認は少しで済む。

間違って荷物を持って帰れば、必ず面倒なことになるのだ。

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