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結果ではなく過程をただ楽しむ

私が支援員として個別支援級に入った日のこと。
個別支援級とは、個々の子どもたちの障がいの状態や程度に応じた学習をするための少人数の学級だ。

最近、A君はチック症の症状が目立っている。
何らかのストレスや不安があると思われるA君がリラックスできる状態を作るため、彼が好きな図書室で本を読んで過ごしている。
上手くいくと、本を読み始めるとチック症が収まるが、その日は本を読んでも症状が一向に収まらなかった。

そこで、担任の先生の指示のもと、A君と一緒に砂場で遊ぶことになった。
担任の先生が色々と試行錯誤をして、砂遊びをするとチック症の症状が緩和されることを発見したのだ。
A君のほか、気持ちが落ち着かないB君も連れて、シャベルを持って校庭の砂場に移動した。
B君はスキップしながら砂場に向かう。
「子どもって嬉しいと自然とスキップしちゃうんだな」と微笑ましかった。
そうだ、私もスキップしてみよう。
思いの外、身体が重くて、軽やかなスキップにはならなかったが、二人で並んでスキップをすると心が弾んだ。

砂遊びを始めると、ほどなくしてA君の症状がきれいに消えた。砂遊び、恐るべし。

「今日はレース場を作る!」
と宣言するA君。
「一緒に山を作って」
と言われて、シャベルを使ってせっせと砂山を作る。
ある程度、山ができたところで、山を手で押さえながらしっかりと砂を固める。
砂山ができると、A君はコースを作り始める。そこへB君も加わる。
A君は、車がコースを外れないように、カーブにはガードレールも作る。
次に、山に穴を開け始めた。
どうやらトンネルを掘るらしい。
山が崩れないように、じわじわと穴を掘り進める。
私も協力することになった。
両側から掘っていき、もうそろそろ開通するかなとワクワクしながら穴を覗き込むA君。
私も、どれどれと覗いてみる。
山が崩れないように、はやる気持ちを押さえながら、さらに慎重に掘っていく。いい感じの緊張感だ。
「あっ、穴の砂が動いた!」
反対側で掘っていた私のシャベルが突いた砂がA君の方に動いたらしい。
あともう一息。
「開通した!」
と嬉しそうなA君。
「やったね!」
と思わず拍手する私。

A君はコースをどんどん延ばす。
「ここはワープするんだ」
と言って、葉っぱを空中にジャンプさせた。
なるほど、紅葉した葉っぱが車の代わりのようだ。
「はい」
と言って、私にも葉っぱを一枚渡してくれた。
私もコース上に葉っぱを走らせる。

B君は、シャベルをペン代わりにして、砂に線を描いていた。
「ここがトイレで、ここがお風呂ね」
と家の間取りを描いていた。一通り描き終わると、B君は、砂場をぐるりと囲む1メートルほどの塀によじ登って、上から砂場を眺めていた。
「先生もおいでよ」
と誘われる。
塀の上から砂場を見下ろすと、家の間取りや作りかけのコース場が見渡せた。B君は満足そうな表情をして、塀からジャンプして砂場に飛び降りた。
「先生もジャンプしたら?」
と言われて、久しぶりに高いところからエイッと飛んだ。軽々と飛ぶ予定だったが、実際はドスンと着地した。
さっきのスキップといい、このジャンプといい、この歳になると、頭のイメージと身体の動きにギャップが生じるようだ。気をつけないと。

普段、他の遊びではコミュニケーションが上手くいかず、子ども同士でトラブルになることもあるのだが、砂遊びをすると心が穏やかになるのか、トラブルに発展しそうな発言があっても、私がちょっと代弁をしたり、サポートをすると、すんなりとまるくおさまった。平和で楽しい時間だった。

時間を確認すると、タイムリミットまであと10分。心の準備ができるように、子どもたちに一回目の声かけをする。
「あと10分で砂遊びはおしまいです。まだ、時間があるから遊んでいて大丈夫。5分前になったら、またお知らせします」

立ち上がって砂場を眺めると、何もなかった砂場に大がかりな素晴らしいアート作品が生まれていた。
壊すのがもったいないと思い、
「せっかく素敵なものができたから、このままとっておこうよ」
と私は提案した。
しかし、子どもたちは、
「とっておかなくていい」
と言って、躊躇なく作品を足で踏みつけて壊し、あっという間に砂場を元のまっさらな状態に戻してしまった。

作ったものに執着しない子どもたちの潔さに頭をガツンと殴られた思いがした。子どもは、ただ作る過程を楽しんでいるだけで、結果はある意味どうでもいいのだろう。
またいつでも作りたいものを作ればいい。
何事も、こんなふうに楽しめたらいいなあ。
大人だって、もともとそうやって楽しんでいたのだから。
子どもは、今を生きる手本だと改めて思う。
子どもたちと一緒に居ると、自分の子ども心が呼び覚まされる。
その瞬間がたまらなく好きだ。

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