見出し画像

【祝!生還】見たら死ぬ、映画「何者」(感想)

羞恥心で虎になる(直感)

 私はあまり邦画を観ない。頭を使いたくないから、マッチョが出てきたりとにかく爆発する映画を優先して観たいからだ。本作も当然スルーするつもりだったのだが、ついに観ることにしたのだ。

 この作品を知ったのは、劇場でトレーラーを観たのがきっかけだ。公開が2016年10月だから、このトレーラーから凡そ2年くらいは経っているのではないか。わたしは演劇をしたことがないし大学生をやったこともないからそれらしい就活も知らない。だが直感したことがある。この映画は見たら死ぬ。大学生の男女がすったもんだして、一歩踏み出して、タッッ タッッ ターー(テーマ曲)で、青春が終わって人生が始まって、タイトルが「何者」だ。悪寒がする。"最近の"若者を描くと見せかけておいて普遍的なテーマを突きつけ見る者すべて根こそぎ地獄に突き落とすタイプの敵だ。中島敦の「山月記」が甦る。思い出したくない過去の失態や関係ない過去の失態とか思い出して、恥ずかしすぎて虎になるやつだ!!

 更にたちの悪いことに、テーマ曲が最高だ。2年たった今でも出勤時、永代通りを歩くときに鼻歌してしまうのだ。職探しも始めたところで、この歌詞不明の脳内リフレインと決別すべく、鑑賞を決意したのである。

生還

 開始早々、有村架純の「慈愛に満ちた笑み」炸裂。個人的に有村架純に対するヘイトが高いのだが、やさしい気持ちのときこれ以外の表情はできないのか。

 あと予告編。恋愛要素がかなり全面に出ていて辟易してたけども、実際見てみたら殆どストーリーを邪魔しないじゃない! ベタベタな恋愛描写のあるトレーラーだったけども、よく拾い集めたなって思うくらい本編の方がシンプルで印象が良かったので、惚れた腫れたに辟易してる御仁も安心してほしい。

悪口おわり。

 ‥ええ、もう、めっちゃよかった。めっちゃよかった。もう一度言う、めっちゃよかった。私にはこれ以上文句なんてない。観てよかった。ありがとうの気持ちすら抱いている。

 協力という目的を振りかざして、なるたけ自然にマウントを取り合い、分かりやすいWinnerに嫉妬し、それを自分の最も内側としてのソーシャルネットワークにぶちまける。もっともらしく、魅力的な、本当の自分のつもりで。私の中の「ちょっとだけいいやつ」と「ちょっとだけわるいやつ」が、画面の中でみんなしてたくさん傷つけあってんの。大丈夫、わかるよ、だれも悪くない。

演劇、就活、SNS。

 この3つの要素が枝を絡ませながらストーリーが進んでいく訳だけど、就活という戦場で登場人物たちが立たされたフィールドが、時間経過によって徐々に狭まっていき、自分を拡張するために使っていたはずのSNSによって逃げ場がなくなっていく。

 そうして行きついたある事件によって極限まで張り詰めた空気から、劇中劇という最も深度の深いレイヤーにあった「演劇」要素がすべてをぶち抜いて浮かび上がり眼前に迫りくる度肝を抜く演出!! 抜かれた度肝!! それを指さす指!! 私を見るな!! 指をさして名前を呼ぶな!!

 気づけば画面の前で一匹の虎になっていることに気づくだろう。羞恥の炎に焼かれるのを耐えながらもっと恥ずかしいやつをニヤニヤ眺めていたら、いきなり「これ、お前のことだからな!!」と指を突きつけられ、あわや顔を掻きむしる手には大ぶりの爪が生えているのだ。

青春が終わる。人生が始まる。

 息も絶え絶えにエンディングを迎えることになる訳だが、過去の恥ずかしい自分と、今まさに恥ずかしい自分が、ちょっとだけ胸に期待を抱いていることに気づく。この映画、青年期の若者が何人も出てくるわりに誰も成長していない。いや、「成長」がビフォア・アフターの形では一切表れないのだ。それこそがキャッチコピーに対する違和感の答えなんだと思う。

 大人は知っている。青春は終わり続け、人生は初めから始まっていたのだ。何かが変わること、変わる兆しが見えること、まだ変わっていないこと、そのすべてが鮮烈に胸を熱くする。これこそが人生を決定すると、もがくあなたのすべてが美しい。リクルートスーツの背中に、あなたは何者にでもなれるし、何者でなくてもちゃんとあなただ。そう声をかけたくなる。

まとめ

 トラウマぱっくり塩を塗られるだけの映画だと思っていた。が、想像をはるかに超えた完成度で、リアルタイムで劇場で観なかったことを後悔すらさせられた。

 そしてエンディングで流れるテーマ曲、NANIMONOはやっぱり最高だ。映画が始まった瞬間から、むくむくと湧き上がる羞恥でクライマックスには十分立派な虎が出来上がっている訳だが、シンプルなラストシーンでふと、人間としての良心を取り戻す。そしてテーマ曲が流れ始め、エンドロールで徐々に現実に帰っていく中、若者にはなむけを送りたくなる気持ちをそっと自分に向けさせてくれる。

 映画「何者」、素晴らしかった‥そしてありがとう!!!!

いただいたサポートで映画を鑑賞します。 御礼として何の映画を観るか勝手にチョイスして返信、鑑賞後はnoteにてレビューとしてアウトプット致します。