【4.4.8】セルフマネジメント組織の給与制度(Salaries in self-managing organizations)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/448.html

■翻訳メモ
「セルフマネジメント」に移行するすべての組織にとって、避けて通れないのが、給与にかんする問題です。それは主に次の4つから成ります。まず「金額」、その次に「昇給」、そして「透明性」と続いて、最後が「ボーナス」と「インセンティブ」です。それぞれについて、いくつかの考えがあります。それらを紹介していきましょう。

誰がいくらもらうかという給与の問題は、多くの「セルフマネジメント」に向かう組織でも発生します。おそらく、そこで働く人々にとって、給与が何を意味するかを考えるのは初めてのことでしょう。多くの組織では、メンバー全員の給与額は公開されていないはずです。入社時に熱心に交渉を進めた人などは、同じ仕事をしている同僚よりも高い給料をもらっている場合があります。また、性別や人種による不均衡が存在することはよく知られています。この問題に取り組む際は、最初に透明性の検討から入る企業が多いようです。

ブファー社というソーシャルメディア企業があります。彼らは、特に閲覧権限は設けずに、実にさまざまな自社の試みを公開しています。それらはすべて透明性が高く、彼らが学んだことを踏襲することの意義は大きいと感じています。一般的には、給与モデルが効果的に機能を発揮するのは、職務連動型とされています。そのことについては、ひとつ前の4.4.7の動画で話しました。そして、時折、他の基準が追加されることもあります。たとえば、ある人が物価の高い都市に住んでいる場合、生活費の調整が行われるかもしれません。また、難易度の高いスキルを持っていたら、そのために調整が必要な場合もあります。プログラマーやIT技術者も、専門性のいかんにかかわらず、他の職務に比べて、相対的に給与のレンジは高いようです。企業側から声をかけて社員になってもらうのなら、通常より多く支払う必要も出てくるでしょう。それらが公正かどうかは別問題です。もし調べようと思ったら、公開されている業界の平均給与額を調べれば、乖離が明らかになります。

採用してしまってからでは手遅れなので、こういう給与体系はやめておいたほうがいいと、先に、きっぱり言っておきたいのが、職務連動型です。このシステムは、「役割」と「報酬」がリンクするので、一見、自然に感じるかもしれません。しかし、例えば、ある人が5つの役割を兼任しているからといって、割増ししようというのはやめておいた方が良いということです。それは、役割へのこだわりを増長させるだけです。例えば、「私は現在6つの役割を持っています。しかし、その内の1つに忙殺されて、それ以外に十分な時間が割けません。なので、それらの「役割」の一部を誰かに、一時的か、もしくは、ずっと、渡すことはできませんか?」ということは起こりうることです。その際、その「役割」に値段がついていたらどうですか?その「役割」に割り当てられた「支払額」が小さいから、やりたくない、となっていると、組織の流動性を落としてしまいます。これをやっていると、以前のような恐怖観念や社内政治が戻ってきて、すべてが減速し、有機的ではなくなってきます。何度でも言いますが、メンバーが目指すものに「役割」が入っていることは好ましくないのです。それによってメンバーがより多くの痛みを得ることになるからです。

2番目の問題は昇給の問題です。給与額の確定が終わったあと、組織のシステムに慣れ親しんだ人ほど、昇進した人の給与額が気になるようです。しかし、その点については、『ティール組織』の本に詳しく書いたので、ここではあまり触れません。一方で、例えば、モーニングスター社のように、給与の年次更新を、アドバイスプロセスを用いて自己申告制で行う組織もあります。また、「Reinventing Organizations Wiki」には給与に関する多くのヒントが載っています。自己申告制の給与がどのように機能するかや、格付けによる給与の決定方法など、さまざまな例が示されています。これらのアプローチは、格付けのシステムの有無にかかわらず適用できます。アドバイスプロセスを用いたり、給与決定システムを利用したりしてランクを上げることで、より高い給与を得ることが可能です。

3番目は、透明性に関する問題です。私は、最終的には、完全に透明であることが理想だと信じています。誰のものであっても、給与額を隠す必要はないと思っています。一部の組織では、ある日突然、全ての給与を公開したという話を聞いたことがあります。すると、当然のことながら、彼らはそれぞれを比較して、「彼が彼女よりもはるかに多くもらっているのは不公平だ」といった声がしばらくの間、組織内で広がりました。しかし、しばらくすると、メンバーは前に進み、その騒ぎは沈静化しました。給与額の差についてはそれ以外にも懸念すべき点があります。客観性が担保された給与レンジを持っていない組織の場合、もともとの給与額が高い人は、周りが追いつくまで昇給を止めるのが良いと思います。そのため、周りと合わせるために給与額を下げることは避けるべきです。

次は、ボーナスとインセンティブですが、これも大きな問題です。私が関わっている、すべてのセルフマネジメント組織では、個人の業績の応じたボーナス制度を廃止し、利益分配制に移行しました。それは、とても理にかなったやり方です。つまり、ボーナスとインセンティブは、非常に強力な薬であり、ひどい副作用を引き起こすものです。そして、それらは「セルフマネジメント」の機能を阻害し、歪めてしまいます。そこで働く人たちは、仕事そのものから「やりがい」を得るべきです。仕事に意味を見出し、得意先と有意義な関係を持ち、自分たちで仕事そのものを良くしていきます。ただし、組織が非常に利益を上げている場合は、誰もがその利益の適正な割り当てを受けるべきです。

従業員が自分たちでオーナーになっている組織であれば、間違いなく利益はメンバーに分配されるでしょう。一部の非営利団体では、「すべての利益の30%が再分配される」といった規則が明記されている場合もあります。多くの場合は、1人あたりの受取額は全員が同じです。したがって、給与が低い人の場合は、高い人よりも、その割合がより大きくなります。いくつかの組織では、年間の2~4か月分の給与額に相当する額を利益分配により得ることができています。これよりも複雑なシステムもあれば、給与の一定割合に基づいて支給している組織もあります。もっとシンプルにするために、全員に同じ額を支給しているところもあります。

米国、ニューヨーク州の北部にあるある企業は、このアイデアに独自のアプローチを加えています。彼らのモデルでは、利益分配が年に一度ではなく毎月行われます。彼らはこの利益分配が、個人と組織を強く結びつけると確信しています。さらに、この方法によって組織の運営が大きく進化したと述べています。また、毎月組織の成績に直面することで、メンバーの財務知識が向上したとも言われています。例えば、光学レンズを製造する工場で働く人々でさえ、財務状況を理解することで、前月の給与がどのようになったのかを把握することができます。これは、彼ら個人だけでなく、組織全体にとっても明らかな利点です。

ここまで、4つの問題を検討してきましたが、さらに1つ追加して、5つ目の問題についても触れます。それは、これらの問題について心配するタイミングです。私のアドバイスは、できるだけ早くではなく、できるだけ後に心配することです。私はいくつかの組織から、たとえば給与を早い段階で透明化することが重要だという意見を聞いたことがありますが、私はむしろ後で行うことをお勧めします。なぜなら、セルフマネジメントがうまく機能するためには、他の成功体験を積み重ねることが重要だからです。ある程度の成熟度を持ってから取り組むべきです。お金に関することは感情的になりやすいので、最大限の成熟度を持っているときに対処することが重要です。プロセスの早い段階で行うことは、問題を引き起こす可能性がありますので、避けるべきです。

最後のアイデアになります。これまでのすべての企業で、セルフマネジメントに移行しても、実力主義の枠組みは依然として残っています。つまり、より幅広い範囲の役割を担当する人が、より高い給料を得るということです。私の友人であるミッキー・カシュトンが、私に考えを共有してくれました。彼女は、将来、給与は実力主義から離れ、必要性に基づくものに移行すると信じています。例えば、年老いた両親の介護や多くの子供の養育費、里親としての責任がある場合、役割に関係なく、上級者よりも多くの給料を受け取るべきだというものです。この考えが妥当であることは直感的にも理解できると思います。ただし、この考えが一般的になるにはまだ時間がかかります。組織がこの方向に進むと、外部から高額の給料を要求する優秀な人材を引きつけるのが難しくなります。そのため、この方向性への移行もゆっくりとしたものになるでしょう。それでも、必要性に基づく給与の考え方を保持することは興味深く、重要だと考えます。

もしもこの方法が実現可能であるとするならば、組織内にそのためのファンドを設けることで達成されると思います。そして、給与額の何パーセントなどと上限を決めて積み立てしますが、希望すれば、その仕組みから外れることも可能にしておきます。誰もが利用できるファンドを組織内に設置することで、特別な支援を必要とする人が利用できるようにします。人生にはライフステージやライフイベントに応じてお金が必要な時期が訪れるものです。このような必要性に応じて給与が支給されるシステムは、実力主義のシステムと同様に素晴らしいものになる可能性があると考えます。


■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。