【4.3.1】マネージャーの役割を分配する(Distributed roles replace the manager)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/431.html

■翻訳メモ
組織が「セルフマネジメント」に向かおうとする時、必ず発生するのが役割移行の問題です。それは、チームリーダーやチームマネージャーが持っていた「役割」が、チームのメンバーに分散、移動する時に起こります。ちなみに私はそれを「役割」と呼びましたが、ビュートゾルフ社のコンサルタント、アストリッド・フェルメールとベン・ウェンティングは、「役割」ではなく「タスク」と呼んでいます。私はその意見に大いに賛同します。なので、ここではすべてマネージャーの「役割」のことは「タスク」と呼ぶようにします。つまり、皆が「役割」と思っていたものは、チーム全体に分散可能な「タスク」、つまり、「業務」や「作業」に過ぎないということです。私たちは「役割」という言葉に、エゴやアイデンティティを投影させる傾向があります。その傾向が強い人は、「タスク」を実行するだけの人にそれに見合った給料は払えないと、「役割」を正当化したがるはずです。それは、お金の側からしかものを見ることができない非常に偏った見解です。「タスク」とは単に「やること」です。チームにとって必要な、「やること」なのです。

「セルフマネジメント」に移行途中の組織に、「役割」はどうなっているか聞くことがあります。多くの場合、「役割」をメンバー間で分割するステップは、実際には行われていないか、行われていてもまったく注意は払われないまま行われているという答えが返ってきます。時には、マネージャーはすでにいなくなっていて、誰がその「役割」を引き継いでいるか、誰がリーダーシップを取っているのかさえ分からないといったケースもあります。

今、やろうとしているのは古い習わしである「役割」を再定義することです。今まで私たちは、チームリーダーやマネージャーといった役職名が書かれた一つの箱を見ていただけです。その中身は何も見ていませんでした。ここで再定義することはとても価値あることです。最初は、「役割」と呼ばれたものを5か10の、多くても15や 20の、細かい「タスク」に分解していきます。

そして、意味のある「タスク」に分解されたリストが完成したとします。となれば、その中には、「ビジョンの設定」や、「ビジョンのチームへの浸透」といった「タスク」も存在するはずです。そして、きっとあなたが指摘したかったことだと思いますが、「チームに高い目標を与え、その結果を監視する」というタスクもそのリストにはあるのかもしれません。「部下のパフォーマンスに対するフィードバック」や、「紛争解決のための専門知識の提供」も含まれているはずです。それらの多くはジェネラリスト特有のもので、専門的なタスクは少ないかもしれません。ここでやるのは、一般性の強いものに専門性を持たせ再定義し、配分可能にしていくことです。注意して欲しいのは、これは元々、リーダーと呼ばれた人たちのリストだということです。つまり、役職名に引っ張られると抽象度が高いまま残ってしまいます。そうすれば、結果的に実効性がなくなる可能性が高くなるのです。ですので、分ける過程で、「タスク」はできるだけ具体的にしてください。これらは実行タスクです。書き出すときは、「~すること」と動詞形にするのがよいでしょう。

リストを見れば歴然ですが、そこにあるのは、すべてのことが1人の人間によって管理されていたという事実です。すべてを1人で完璧にこなすには困難がつきまといます。また、本人にとっても、そういうプレッシャーを背負って働くことは本意でなかったかもしれません。その場合、やりたい仕事しかやらないということは往々にして起こります。例えば、対立や摩擦を好む人は稀です。だからといって、常に回避していると、争いはどんどん大きくなり、またその数も増えていくものです。中には、機械的に問題解決を図ることは好きでも、人を評価することは苦手という人もいます。最初からこれらをすべて完璧にこなせる人などまずいないのです。その点、「セルフマネジメント」の素晴らしいところは、「タスク」が分散されることで、やりたい人や得意な人がそれをできるという点です。これは、私が「セルフマネジメント」を勧める理由の1つです。得意な人や、やりたりと思う人がその仕事をすることでチームのパフォーマンスは向上します。これこそが、「セルフマネジメント」を理解する上でのもっとも重要な部分になります。「好き」がパフォーマンスに反映する理由は、人の持つ情熱や強い感情が、行動の起点となるからです。

次は、これらのさまざまな「タスク」をどうやって定義するか、またそれをチーム内でどのように配分するかについて話します。実際には、多くの組織では、それらはとてもシンプルに行われています。彼らはチームミーティングを開いて、マネージャーがこれまでやっていた「役割」をチームが引き継ぐ「タスク」にしてリスト化していきます。そのリストが分割のためのすべての基礎情報になります。リストを作る際、いろんなことが頭に浮かんでくると思いますが、リストを作り出したら、一旦はそれに専念します。マネージャーの以前の「タスク」だけでなく、チーム内の今ある他のすべての「タスク」も一緒に書き出した方がやりやすいでしょう。そうすれば、メンバー全員が、肩書に縛られているのではなく、一連の「タスク」を基にして組織化されていることがよく分かると思います。ホワイトボードやフリップチャート、付箋などもフル活用します。そして、最後の分担のところは、メンバーの自発性に委ねられます。「私はこれをやりたい」と言うだけで「タスク」が決まっていくのが自然ですが、通常は、メンバーそれぞれの「強み」をフィードバックし合いながら行います。中には、誰もがやりたくない「タスク」もあると思います。そのような場合は、「是非ともあなたにやってもらいたい」と何人かから熱望されるパターンも出てくるでしょう。これが一般家庭だと、「ゴミ出し」がそれにあたるでしょう。おそらく「ゴミ出し」が大好きという人はいないと思います。それでも誰かがやらなければならない「タスク」は存在します。しかし、この「セルフマネジメント」の原則では、「タスク」は交代可能なものです。自分のやりたいこともあれば、チームのため行う「タスク」もあります。しかし、先ほどのような、本当に誰もやりたがらないものに関しては、複数の人で分担するやり方もあります。登記上通らない場合もありますが、その際は工夫が必要になってきます。

重要な役割を扱う場合は、既成のものを参考にしてもよいでしょう。その中でも、ソシオクラシーの選挙プロセスなどはお勧めの1つです。「Sociocratic election process」と検索してみてください。私がとてもよいと感じるのは、その候補者リストの配置の仕方です。とても非政治的で、チームの機能を意識した配置になっています。ある「タスク」に必要な資質を見極めるのに最も理にかなった方法です。それを見ると、そのチームで誰が適任なのかすぐ分かるように工夫がされています。候補が思い浮かばない時は、空欄のまま先送りすることもできます。そうしておけば、最終候補が選出される時には、必ずサポートが要ることが皆に共有されます。

この「タスク」の割り当てプロセスには2つのルールがあります。1つ目は、「タスク」が1人に集中するのを避けるというルールです。例を挙げると、ビュートゾルフ社では、結果的に「タスク」が1人の人に集中してしまう以前のマネジメントスタイルに戻ってしまう傾向を発見しました。上級職や以前のチームリーダーがチームにいる場合、その傾向は顕著でした。彼らにとっては、「タスク」が確実に分散できるよう、その傾向に対抗できる明確な定義が必要でした。

しかし、仕事の内容次第では、「タスク」の分散が常に可能であるとは限りません。例えば、フランス北部にある掘削機を扱うファヴィ社には、「タスク」に分解されない例外パターンが存在します。稼働中のマシンから離れるのは難しいものですが、それでも、その場にいなくてもできる「タスク」はあります。また、いつ発生するか分からないものに備える「タスク」もあります。ファヴィ社の場合、社内でチームリーダーと呼ばれる人たちにそういう仕事を集中させました。先に述べた分散化に反して、「タスク」を人に集中させる場合もあるということです。ただし、その場合は、「セルフマネジメント」にある他のすべての側面を正しく実行する必要があります。つまり、アドバイス・プロセスや個人間に生じるプロセスをきちんと制度化しなければそのやりかたは機能しません。その人物が権力を握っていると他の人たちが思っていたら、問題が生じるのです。そのためには、「タスク」の集中を禁止するというルールを定めるのも一つの方法です。

考慮すべき2番目のルールは、一定の時間が経過したら「タスク」を入れ替える、つまり、ローテーションするということです。この方法を取り入れている組織では、メンバーには概ね歓迎されているようです。ただ、特定の「タスク」の中で多くの能力を獲得できるかについては十分に検討が必要です。その「タスク」が、専門性を身に付けるといった意味で必ずしもキャリアにプラスになるとは限らないからです。ローテーションは義務化すべきだという人は、1年後、半年後、2年後、「タスク」を経験した後にサポートすればいいと言いますが、実際にはそんな簡単なことではありません。例えば、チームの継続的な改善を見守るのが得意という人がいたとしましょう。そして、誰もが、その人にとっては、それがふさわしい「タスク」だと認めています。そうすると、その人自身だけでなく、チームにとっても、その人に、得意とするその場所にずっと居てもらいたいという思いが発生します。それをそのまま継続することは組織にとっては楽な選択です。ただ、本人にとっては、学ぶ機会の損失となってしまう場合があります。本人のキャリアにリスクが発生するということです。また、人間とは、自分の専門領域と思った場所に、ちょっとした権威の基盤を築いてしまう生き物でもあります。ローテーションはそれを防ぐ機能があります。

最後に、もう一つ考えてもらいたいことがあります。マネージャーやチームリーダーを呼ばれていた「役職」の枠の中から、「タスク」を取り出して、チーム全体に再配布するイメージはついたと思います。ここで注意しないといけないことは、決して怠惰な方向に行ってはいけないということです。仮にも、調整のための権威を手に入れたなどとは決して思わないことです。ここでは、単に、「タスク」を定義し、再配布を実行するだけです。


■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。