【4.1.13】自己修正システム:自らの意思で行動する(Self-correction: voting with your feet)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/4113.html

■翻訳メモ
「自己修正」の方法に、主体的に参加を取りやめるという方法があります。つまり、そこから離脱するということです。自らの意思を行動で示すことを意味します。前回のビデオで「自己修正」に関するいくつかの例として取り上げましたが、今回はそれを掘り下げて、もう少し詳しく解説していきます。

一度、会議に招集されたり、プロジェクトに呼ばれたりすると簡単には抜けられない従来型の組織にあっては、そこから自らの意思で抜けると聞いたら、直観によくないことと思うでしょう。むしろ、もっともやってはいけない行為がそれだと思います。まず、組織のトップが、そのトップの持つ経験と知識と知恵をもってしてこのプロジェクトが重要であると判断したのですから、そこから抜け出るというのは、その意思決定に反したものとみなされてしまいます。ただ、実際問題は、そこから誰かが抜けでたとしても、大勢には響かないものです。セルフマネジメント組織では、誰かに強制的に役割を当てたり、プロジェクトや会議に強制的に参加させたり、といったことはありません。気に入らない時は、簡単に抜けることができます。おっと、誤解しないでください。私は「これは少し退屈だな」という理由でプロジェクトを抜けるのを支持しているわけではありません。それはセルフマネジメント組織でも認められません。特に、多くのセルフマネジメント組織で働く人たちは自分の仕事の意味や組織をしっかり理解しています。それはとても重要なことなので忘れないでください。つまり、それが退屈かどうかという尺度ではなく、もしそう感じても、そこに意味を見出し続ける限りは、抜けるという選択肢はないのです。私が話している、立ち去っても良い時というのは、そこで過ごす時間に意味を見出せなくなった時、プロジェクトが方向性を失ったと感じた時、そこよりも他の場所で時間を過ごすほうが良いと判断した時のみということです。むしろそういう時は積極的な行動に出るべきです。変なことを言うようですが、そこから去るという行為は、その人が、とても貴重な、「弱いシグナル」に基づいて行動しているということなのです。

ここで、「弱いシグナル」と「ノイズの多いシグナル」という、非常に重要な概念を紹介します。私は本の中ではそれらのことついて触れませんでした。多くの問題は「弱いシグナル」を無視することから始まるという考え方です。「弱いシグナル」は時間の経過とともにノイズを含んでいき、最後にはノイズだらけになって大きな問題に発展します。これは私たちの私生活も同じです。仕事で燃え尽きそうになったり、病気や離婚に直面したりということを経験した人がいるかもしれません。これらは「大きな破壊的なシグナル」です。ただ、振り返ってみると、その前に必ず、何らかの「弱いシグナル」があったはずです。それにもかかわらず、耳を傾けることをしなかったために「大きなシグナル」に発展したのです。つまり、信号がまだ弱く、修正するのが比較的簡単で、害がほとんどない間に、その信号を拾い上げるのが「セルフマネジメント」の目的になります。誰かが「弱いシグナル」を拾い上げることで、システムは「自己修正」を始めます。しかしこれは、多くの大組織では起こりにくいことでもあります。一部の人たちが、この「弱いシグナル」に気づいても、それが階層を伝わり、経営陣に届くことはありません。そのため、放置された問題はどんどん大きくなり、収集のつかない大問題へと発展するのです。そして、その後に待つのは、非常に苦痛を伴う大規模な修正です。それゆえ、正しくないのではないかと感じている、自分の時間はここではなく他の場所で使うほうがよい、と感じているとしたら、そのシグナルがまだ弱いうちにそれを拾い上げます。それが素晴らしいことなのです。つまり、そのような直感に遭遇したら、そのシグナルを拾い上げることが重要です。そして、もし、他の人のそんなシグナルを感じたら、同じようにそれを拾い上げて、プロジェクトから去る方向性を示してあげることもできます。もちろん、最終的に決断するのは、本人ですが。

次は、必然的に、残りか去るかの選択肢になってきます。誰も気づかず、誰も気にならないという状況は、もうその会議体は存在の意味を失っていることの証明になります。誰かが立ち去っても、誰もその重要性に気づけないのなら、それも同様に、そこにはこれ以上時間を費やす意味がないということなのです。そんな時は「もうこんな無駄なことはやめよう」と言うべきです。あなたが言わなくても、ほかの誰かが言うかもしれません。いずれにしても、「もう放置できない」と誰かが声を上げることが重要になってくるのです。これはあなたのクライアントがこの状況にあっても同じです。彼らは、あなたの声を待っているかもしれません。それが何を意味するか、つまり、誰もが「自己修正」を引き起こす言葉を持っているということです。例えば、「抜け出ることなんてできないと言うのなら、もう一度有意義だと感じられるようになるために、あなただったら何をしますか」と問いかけることもできます。あなたの後押しが直接的な行動のきっかけとなるかどうかは分かりませんが、その人にしてみれば、あなたの言葉によって、複数の道が与えられたのです。

そこで、いくつか例を挙げたいと思います。前回のビデオでは、組織のプロジェクトを例にとって説明しました。今から話すことは『「ティール組織」の本にも出てきます。私は、そこで、サン・ハイドロリクス社のことを書きました。油圧部品を製造している会社で、大規模なエンジニアリング部門を持っています。そしてこの会社の何より魅力は、同時に何百ものプロジェクトが進行しているにもかかわらず、プロジェクトを優先順位付けする管理機能がまったくないことです。そして、そのプロジェクトは緑色(すべて順調)かオレンジ色か赤色かといった、今、どんな状態にあるかが把握可能なため、わざわざ上司に報告する必要もありません。そこで働く人たちは、「最も価値があると思うことをする」と、シンプルに信じています。そのため、誰かがプロジェクトから去るとなると、二つに一つのことが起ります。ひとつは、そのプロジェクトは重要でないと認識されて、結果的に何も起こらない。もう一つは、誰かがそのプロジェクトはやめるわけにはいかないと言い、手直しされ、自己修正され、改善されるといったことです。

次は、世界最大規模のコンピューターゲームメーカーであるバルブ社の例です。多くの人がバルブのゲームをするためにモバイルデスクとモバイルチェアを揃えます。そんなバルブ社の場合、プロジェクトに参加して、自分にとってその場所がそぐわないと思ったら、いつでも去っていいというやり方を採っています。クレイジーに聞こえるかもしれませんが、「弱いシグナル」を拾うためにはこれが最良の方法なのです。

会議についても同じことが言えます。ベルギーの運輸省のローラン・ルドゥー氏から聞いた話ですが、彼は、会議に出ることに意味がないと感じた場合、その会議には出席しなくてよいというルールを導入しました。そのルールは本人が基準となります。工場全体がセルフマネジメントチームで編成されている、フランス北部の自動車の部品メーカー、ファヴィ社の場合は、何か理由があって、そのチームが気に入らない場合、別のチームに移ることができるというルールがあります。これは非常によくできた「自己修正」メカニズムで、とても興味深いものです。チームが何らかの理由で雰囲気が悪い場合、何かが機能していない場合、メンバーは自分から出て行きます。もし、複数の人がいっぺんに出て行った場合は、チームで何が起こっているのか、残りのメンバーで会話が持たれ、チーム自体が「自己修正」を図ります。その話し合いの後に、出て行った人が戻ってくる場合もあるといいます。

それ以外の「自己修正」の方法に、あなたがリーダーとして、招待状を送るいう方法があります。以前のビデオで話した内容ですが、私はある大きな変化について話しました。それは、プロジェクトに人を任命するのではなく、「このプロジェクトに本当に取り組みたい人。参加したい人はいますか?」と言って、招待のメッセージを発するというやり方でした。その時々で、多くの人が参加を表明することもあれば、まったく誰も手を上げない場合があります。しかし、それは、とても意味のある「弱いシグナル」の発信方法でもあるのです。組織内の誰もが、一人として、それに熱量を感じないのなら、まだ始めるタイミングではないのです。誰かに、それが重要であるという感情が立ち現れるまでは始めてはいけないということです。仮に、重要度が伝わったと感じても、それを説得力のある形で表現できないうちは、まだ始めるべきではありません。言葉が満たされると、「自己修正」は自ずと始まります。すると、突然多くの人がやって来てあなたのチームに加わることでしょう。その中の何人かは、オープンスペーステクノロジーに精通しているかもしれません。だとすれば、組織内の多くの人たちと一緒にワークショップを開催して、抱えている問題とその対処方法を検討することもできるようになります。

オープンスペースの原則は、基本的に全員が自分で決められるところです。最初はあらかじめ設定されたテーマがないため、メンバーは何を話し合ったらよいか戸惑うかもしれません。しかし、誰かが問題を投げ入れることで、チームは自己組織化を始め、さまざまな問題に対処できるようになっていきます。

別の例としては、ホラクラシーが挙げられます。テーマがあらかじめ設定された状態で会議が開始されることありません。メンバーが事前準備できるようにとアジェンダが事前に設定されている通常の会議からすると直感に反するかもしれません。しかし、ホラクラシーやそれに似た他の方法で会議を行う人たちは口を揃えて言います。「私たちは会議に参加する人たちが瞬間に発するエネルギーに触れ、それがどこに向かうかを知ろうとします。会議の3週間前に決められた課題について、検討する時間を消費したくはないのです。その場でテーマを出していくことで、まだ明らかになっていない水面下の問題に光を当てることができるのです」。もっと多くの例があるかもしれませんが、参加者が参加するのを見合わせ、その時間を他の場所で過ごす方が良いと感じたときは、それを尊重するのがホラクラシーの原則です。それができるのは、「弱いシグナル」を尊重しているからです。そして、「自己修復」について考えるための1つの強力な方法は、それができる組織と、従来の組織とを比較することです。そうすれば、従来の組織では、重要でないことにたくさんのエネルギーと時間を使ってきたことが分かると思います。私は、昔、もっと若かった頃、当時は今よりずっと素直だったのですが、多くのプロジェクトに関わってきました。私は早く結果を出したいと取り組んできましたが、実際にはほとんど何もできませんでした。つまり、何も改善できなかったということです。いくつか、成果が出ない仕事をしてしまいました。それを一冊の本にするなら、さしあたり、私たちの収入のほとんどはでたらめな仕事で成り立っている、というようなタイトルになるでしょう。まず、普段、私たちは会議にどれだけ時間を費やしているか考えてみましょう。これらの会議に価値がないことが分かっている人は文句をいうかもしれません。膨大な時間とエネルギーが無駄になっているからです。だったら、時間を無駄にしないようすぐに立ち去るようにしようということです。そうすれば、時間を無駄にしないで済みます。時間を無駄にしていない組織と比較すればその差は歴然だと思います。その時間で別のことができます。両者を比較すれば、セルフマネジメント組織の生産的の高さが分かると思います。会議を抜けるか、居続けるかの選択が、システムが自己修正を開始する分かれ目となります。それが、会議の自己修正です。意味のない会議に参加し続ける理由はどこにもありません。

■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

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