【6.10】「予算」なしでやっていくということ(Can we do without budgets?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
—————————————————————

■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/610.html

■翻訳メモ
まだ依然として「予算」が必要なのか、それとも、もうそれなしでやっていけるのか、私は多くの組織と話し合いました。この疑問が寄せられる組織は予算なしてやっていくことを検討している組織でした。年間をつうじた頭痛の種は、すべて「予算」という儀式から来ているのだと彼らは気付いていました。その調整は時間を食うばかりか、多くのコンフリクトをも生み出します。そして、多くの人は、やがて、コントロールしようとすることの無意味さに気付くというわけです。つまり、予算は大きければ大きいほど良いとされるのは、数字が媒体になった、一種のゲーム上のルールに過ぎないのです。そしてそれは、経営者と管理職という組織のヒエラルキーを固定化させることにつながります。当然ここでの大きなトピックである「存在目的」の観点からすると、「予算」は私たちの感覚と反応の妨げとなるものです。それはあらゆる「声」に対して耳を塞ぎ、1年間を無力化するようなものです.

まだ「予算」が必要ですか、それとももう必要ありませんかという問いはイエスかノーかを求めています。あるいは、あなたにとっては、その質問自体がもう意味のないものになっているかもしれませんね。というのは、今回の「予算」というトピックは、前回の「計画」と根っこは同じだからです。「予算」は次の年の、数字に関する「計画」だからです。それよりも、問題は、あなたの組織が本当に必要としているかどうかということです。より正確に言えば、あなたが決断を下す際に「予算」に関わる情報を使いますか?使うとしたらそれは何ですか、ということです。もし、今、「予算」が関係する重要な決定事項がないというのなら、「予算」自体も必要ない、「予算」を立てる意味はないということです。もし、将来を予測して決めないといけないものがあるとしたら、部分的に調整して、必要な領域だけ予算を立ててください。完全に予算化してしまうのではなく、必要なものだけにとどめるやり方です。ビュートゾルフ社の場合、彼らは非常に限られた範囲の予算組みでやろうとしているので、「予算」といってもシート1枚で済む内容です。それは、彼らの成長スピードが大きく、次々に新しいチームが編成されていくこととも関係しています。彼らは計画がなかったことで、最初は資金繰りに困りました。そこで彼らが編み出したのは、キャッシュフローだけを把握するという仕組みです。キャッシュの限界と新しくできるチームの数とのバランスをとるようにしたのです。それが彼らのもつ「計画」のすべてです。彼らは、それ以外に「計画」と呼べるものは有していないのです。

Favi社では、最小限にまで抑え込んだ計画を使ってシンプルに運営しています。それは、彼らの側で売り値を決めることができることに由来しています。「計画」と呼べるものは、原材料の購入だけです。フロリダの上場企業、サン・ハイドロ―リックス社の場合、予算に必要となる情報が何もないというので、何年間も予算を立てていないといいます。意思決定に「予測」がいらないからだともいえます。

こんな例を出します。例えば、あなたが働くティール組織で、仮にそこに17.2ドルという予算が設定されていたとします。それでも、あなたは、その予算を武器にして、あらゆる営業活動に目を光らせるなどということは起こりえないのです。あるいは、月に決められたコストが6.8ドルで、実際使ったのが6.5ドルであったとして、その説明を求めること自体がナンセンスなのです。今、あなたはメンバーが精一杯、最高の仕事ができるようにと彼らに信頼を置き、施策を進めていると思います。「予算」はそれらの信頼を無価値なものにしてしまう力を持っています。ここまでは「売上」や「運用」の予算について話してきましたが、「投資予算」についても同じことがいえます。

トピックは、まだ「投資予算」が必要ですか、に変わります。それでも、それはあなたのビジネスのあり方に即するだけで、必要か必要でないかというのは「売上予算」の時と変わりません。投資コストに対して、ビジネスで回収できる額が安全圏にあるうちは、予算を立てる意味はありません。メンバーがアドバイスプロセスを使用して意思決定することができれば、それで十分だといえます。

一方で、資本集約的なビジネスの場合は少し様子が違ってきます。例えば毎年新しい機械を購入する必要がある製造業などの場合を想定してみます。そして、年度末に1度だけアドバイスプロセスを経て意思決定を行っているとすると、年度の途中に年間の予定費用のすべてを使い果たしてしまう事態が起こる可能性があります。年の後半に、良いアイデアがあったとしても、お金は残っていないという事態になりかねません。それではビジネスが成り立たないので、6か月や 1 年といった周期のリズムが必要であることが分ると思います。それにはまず、予測できる投資機会をまとめることが必要です。そして、人を集めてそれらに優先順位を付け、投資における「健全な範囲」を決めます。本の中で私が紹介したモーニングスター社やFavi社がそのようなアドバイスプロセスを使っています。そうやって使いすぎを防ぐために、お金の流れをチェックできるシステムを使うのが最もシンプルな方法です。もし、過度な投資の懸念があるのなら「予算計画」は必要です。そうでないなら、「計画」は必要ありません。

最後のトピックは、「予算」をなくしたり、大幅にその仕組みを簡素化したりできると感じたいくつかの組織との会話を紹介したいと思います。予算をなくすことのメリットは分かった、でも、いつ、どうやって始めたらいいのかわからないと聞かれることが多かったように思います。しかし、率直に答えると、その適切なタイミングを伝えるだけの十分なデータは、私も持ち合わせてはいません。多くの組織にとって、「予算」や「計画」といったものは組織のバックボーンの1つに数えられます。組織が十分に成熟していない段階で「予算組み」を早々に放棄した場合、例えばアドバイスプロセスが機能しない状態で手放すと心配な面しか残りません。マネージャーの権限が強い組織の場合、マネージャーは決裁権を行使すると、過度な投資を抑制できない場合があります。それを防ぐには、どれだけ使ったか監視するチームが必要かも知れません。個人的な投資に対する監視も行うチームということです。いかんせん、「予算」の放棄は、組織の成熟度とは密接な関係があります。この「予算」に縛られるという不合理なプロセスへの共通理解が必要とも言えます。やはり問題となってくるのは、組織がそれを放棄できる準備ができているかどうかにかかってくるということです。組織が十分に成熟しているか、そうでなければもう1年、予算プロセスに委ねるというところに判断のポイントがあります。あるいは、アドバイスプロセスが機能するよう、その準備期間にあてることも考えられます。いずれにせよ、互いの信頼と組織の成熟度が両立してこそ、「もう予算はいりません」と宣言できるのです。

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?