【4.3.8】「痛み」を話し合う場について(Spaces to talk about the pain of self-management)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/438.html

■翻訳メモ
「セルフマネジメント」は、時に、私たちの核心に向かって挑戦状をたたきつけてくることがあります。私たちにとって、かつて習得したものを捨て、学び直さなければならないものが数多くあるということです。新たに学ぶことといっても、慣れてしまえばとてもシンプルで、常識的なものばかりです。なにもロケット工学を学び直そうというものでもありません。しかし、そうであっても、「セルフマネジメント」は、私たちが慣れ親しんできた多くのものに対して、さらには私たちの深いアイデンティティーに対してさえも挑んでくるのです。

元マネージャーにとっては、まず、出世レースや力の中枢に居座ること、そして、力の保有者として部下にどう見られたいのかも含め、自分自身にかかわる多くのことを手放さなければなりません。組織図の、長い間慣れ親しんだ位置もからも離れざるを得なくなります。これらは相当につらいことです。しかし、同様のことが、ピラミッド下の方にいた人たちにも当てはまってきます。彼らは、「責任」からは遠い存在でした。ところが急にパワフルになったため、「責任」の領域に足を踏み入れざるを得なくなったのです。マネージャー同様に大きな戸惑いが生じてきます。

交流分析という手法では、親子や成人の関係を扱います。それによると、伝統的なピラミッド型組織は、「親子関係」にあると言われます。マネージャーが「親」であり、部下は「子」にあたります。そして、そこに「成人」の関係を持ち込むことは、相当な量の再学習が必要であることが分っています。例えば、その「親子関係」の解消のために、経験について話すスペースを作る方法がありますが、それは非常に大変なプロセスを巡ることになります。なぜなら、それは、職場における人間性を取り戻す行為になるからです。それとは別に、経験についてオープンに話せる「ホールネス(全体性)の場」を作る必要もあります。経験上、そのような場は、心から安心できる場であることが求められます。そこは、苦しんでいるのは自分だけではないことを知る場になります。自分自身に原因があると信じ込み、その苦しみ自体をないものにしようとしていた人にとっても、その場所での共有体験は大いなる救いとなります。苦しみの真っただ中にある人の話を聞いて、自分の方が旅のもっと先にいることが分かり、そのことから多くのインスピレーションを得る人もいます。苦しみの中にいる人も、少し元気になった人に出会うことで、「セルフマネジメント」に変化のための新しい可能性を見いだせるようになっていきます。そこでの会話が勇気になって、それがエネルギーにも希望にも変化して行きます。ゆえに、そのような話し合いの場が必要です。そこから、「セルフマネジメント」への移行に向けた大きな可能性が広がり始めるからです。

反対に、疑問や不安について話し合うスペースを作らないとどうなるか。移行はすべて順調に行っていて、完璧にコントロールができているという印象を苦しんでいる当事者に与えることになってしまうかもしれません。それはとても危険なことです。それだと、移行がうまくいっていないと感じた人は、自分の内面にある問題や痛みをすべて組織のせいにしてしまうことでしょう。そうなると移行に困難が生じます。「痛み」ついて共有できる場を作ることを真剣に検討してみてください。

また、それを行うにも、さまざまな方法が存在します。大規模な組織の場合は、ランダムに、さまざまなチームからメンバーを招集することが可能だと思います。一緒に働くメンバー同士が自然に集まれるのなら、それに越したことはありません。そこで働いているメンバーが皆、自分の悩みを開示していくと、オープンになることが苦手なメンバーであっても、自分のことを開示しやすくなります。そうやって、自然にチームに深みと信頼が生まれていきます。

元マネージャーだけが集まって、その時の気持ちを吐露し合うことは事例も多く、手法もたくさんあります。グループをいかに設計するかという観点は重要ですが、それよりも重要なのは、その場を作るファシリテーターの存在です。ファシリテーターには、不安に駆られた人たちが仮面を脱ぐことのできる、そして、弱さを見せ合える安全で神聖な空間を作ることが求められます。そのことを知っている専門家はたくさんいます。そして、方法論も多数存在します。しかし、結局のところ、その部屋の中から、あらゆる判断を取り去ること以上に重要なことはありません。そこは深い傾聴の場でなくてはならないのです。よく起こりがちな、人の意見をただすとか、助言を与えるとかがあっては何にもなりません。

パーカー・パルマーの書いた、一冊の素晴らしい本を紹介します。この本のタイトルは『隠された全体性(a hidden wholeness)』と言って、このような空間を作る方法について書かれたものです。この本を読むことも一つの方法ですが、場を作るのに長けた専門のファシリテーターを呼んでくるのも良い方法です。

彼らのファシリテーションのことを少しお話しすると、もっとも、そこに一番気を付ける必要があるということですが、私たちはあまりにも外の世界のことについて話すのに慣れてしまっていて、自分の核となるもの、内側の世界を見るのにまったく慣れていないことが分かると思います。彼らは、内外をバランスよく見るのに長けています。

例えば、「新しい役割」への適合というのは外側のことです。そして、その「役割」をどのように演じたらよいか、特に、アドバイスプロセスにおいて、どのように振舞ったらよいかなど、それらはすべて外側の問題です。そして、そのような自分自身の存在の不確かさに対してどう対処していくかというのが内面の問題となります。優れたファシリテーターはそのバランスに注目します。多くの人は、対話の場で、どうやって振舞えばよいのか、そのヒントを知ることに躍起になります。しかし、そうではありません。私たちの信念や思考といった現象は、すべて、私たちの内面のあり方と深く関係していることを理解しなければなりません。外側の結果に振り回されるのではなく、自らの根本となる内面を見つめなければなりません。後々、それが大きな救いとなってきます。各自の不安への投影を減らしていけば、移行自体もスムーズに進むようになっていくでしょう。


■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
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最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。