フレデリック・ラルー、誠実さと活力を取り戻すための招待状⑤(Frederic Laloux with an invitation to reclaim integrity and aliveness)

2020年10月、セルフマネジメント組織コーチであるLisa Gillが主催する「Leadermorphosis」というポッドキャストに、『ティール組織』の著者である、フレデリック・ラルーが登場しました。そのインタビューの訳を7回に分けて掲載していきます。今は、「ティール」を話すことから離れてしまったと言われるフレデリックが、コロナ禍の現状をふまえ、久しぶりに「ティール」についても語ったポッドキャストです。

(前回のつづき)
リサ・ギル:
確かにそういった変化をもたらす方法があるのなら、それはとてもエキサイティングですね。しかし、実際にはそれがない現状で、リーダーは必ずしも明確な解決策を持っている必要はない、というあなたの言葉は、想像するだけでも救われた気になります。実際、あなたが、多くの人たちに対して、高いレベルで透明性を保っていることは本当に頭が下がる思いです。あなたにとっての理想とは一体どのようなものなのでしょうか。私は、今、そのために何をすべきか聞かれても答えることができません。そして、そういう自分が嫌でしようがありません。いずれにしても、多くの人があなたの助けを必要としているのです。

フレデリック・ラルー:
多くの人は、間違いなく、あなたの行動に感謝しているはずです。ニコリーノが辞めるときにもらった1500通のメッセージのことを思い出してください。あなたにもそのメッセージに匹敵するような感謝の想いが、たくさん届いているはずです。

リサ・ギル
そう言っていただいて、ありがとうございます。話題は変わりますが、あなたの最新のプロジェクトについて、ポッドキャストを聴いている人たちと、何か共有できそうなことはありますか?

フレデリック・ラルー:
それについて詳しく話すには、まだ少し早い気がします。なんせ、私は、ついつい難しい話し方をしてしまいますからね。それでも少しシェアすると・・・、約1年前のことですが、故郷のベルギーから、何人かが私の元を訪ねてきました。私は彼らとは面識はありませんでしたが、彼らは互いに親交はあるようでした。彼らは迫り来る環境や気候の崩壊の本を読み、とてもショックを受けたと言いました。そして彼らは、生活のためにお金を稼ぐ生活をやめて、そういった価値観を捨てた生活に切り替えたいと言いました。そして彼らは、私たちのエコビレッジで一緒に過ごすようになり、少し違った人生の形を模索するようになりました。彼らと話すうちに、彼らは私が持っていない、「勇気」を持っていることが分りました。私の中には、まだ、現実から身を守ろうとする部分があることに気付きました。しかし、それを認めることには、ある種の抵抗を感じました。私は昔住んでいたベルギーから離れ、まったく軽やかな暮らしを送る、少し変わったエコビレッジに引っ越してきました。堆肥や野菜のほとんどは農場内のリサイクルで完結できています。多少のお金をかけて電気自動車を運転するなど、生活のほとんどもこの中で完結しています。それにもかかわらず、エコビレッジでは生活できないという、見出しの数行だけでもその意図が分る、厳しい記事は後を絶ちません。しかし、彼らは、そういうものを見ても、まったく動じない勇気がありました。彼らは悪質とも思える記事でさえ、知りたいだけの子供がいたずらをしているだけといった程度に受けとめています。妻と私は、彼らの勇気にとても感銘を受けて、彼らと同じように振る舞おうと決心しました。これは精神的な訓練なのかもしれません。それに伴った感情の旅がいかなるものであれ、無力さからくる悲しみと絶望は受け入れなければなりません。しかし、大事なのは、そこで立ち止まらないことです。あなたならそこから這い出せるはずです。少なくとも私たち夫婦はそうやって乗り越えてきました。多くの人が過去に似た、痛みのプロセスを経験してきていると思います。きっとあなたの人生に、何が重要であるかについては、病気になった親友を目の前にしたときに抱く感情と同じ程度にまで鮮明になってくるはずです。それに対しての価値が、今までよりも大きくなってくるのと、今までのように、利用を目的として関わってきたものの価値が逆転するのは同時期に起こります。それが起こると本当に自由を感じられるようになります。あなたは、それに少し不安を感じ、その状況に不平を言うかもしれませんが、それでもすでに問題にフォーカスできているはずです。重要なのは私たちがそれをどう感じたかということです。それに生き生きとした感覚があったかどうか、といったことなのです。そして、その感覚は、私たちにとても重要な意味をもたらします。それを得ることができれば、共に旅をする人が、そばに大勢いることに気付けるでしょう。そうすると次に何をすればよいのか、プロジェクトのアイデアが浮かんできます。-まずは弱い動きから始めたらいいと思いますが-。そしてそれらのいくつかは書籍の形で紹介されています。その当時行っていた危機への対処法がまったく効果を発揮していないという事実を話した何年か前の私の記事もそれらの書籍に収められています。たいていの場合、その問題にかかわっている人たちが、目を覚ますかどうかが重要です。彼らは問題意識を表面化させますが、それだけだと何も変わりません。問題提起はありましたが、それだけでは喫煙問題に対しては効果がありませんでした。エイズに対しても同様でした。妊娠問題に対しても、やはり、効果がありませんでした。それらが全部うまくいかないのは、支配的なモデルがベースとなっているからです。気候変動の問題にかんしても、ずっとこのパターンが踏襲されました。多くの人が読んでいるゴードン博士やIPCCのすばらしいレポートも基本的にはこのパターンです。ただし、そうは言え、それらのレポートの効果についても常に関心は注いできました。つまり、それらが私たちをより良い戦略に導いてくれるかという観点で見てきたということです。映画『未来を花束にして』で題材となった婦人参政権や、公民権運動、そして、「色の革命」が「恐れ」や「社会的な無関心」をどのように乗り越えたかなど、そういった過去の運動を例にとって、何がどのように作用したかなどが気になっています。それらの運動には、「恐れ」が目の前に迫っていたという共通点がありました。きっとそれは、あなたが普段何気なく通りを歩いていても、突然、誰かに殴り殺されるかもしれないといった恐ろしい「現実」です。それでも彼らは、そういった「恐れ」や「社会的な無関心」を克服していったのです。それらを成功に導いた戦略は、その運動以前のものとは異なっていて、参加した人たちすべてに情報が伝えられていたわけではありませんでした。彼らは情報にではなく、「恐怖」に対して自ら覚醒し、行動に移したのです。最近では、社会科学の分野において、素晴らしい研究がたくさんあります。それらの研究を参考にしながら、気候変動にも適用できないかと考えています。それは私たちがやろうとしているこの壮大なプロジェクトの1つでもあります。機能するかしないか、今はまだその半ばですが、一見の価値はあるように思います。それが機能するなら、きっと、次の2、3年は忙しくなるだろうと思っています。

リサ・ギル
それは本当にエキサイティングですね。それはある意味、様々な種類の対話や会話といったこのポッドキャストでの最初の会話や、答えが見えなくても己を信じて、矛盾を持ったまま前に進むといった、私たちが話し始めていることが循環の輪に乗ったということでしょうか。何かが明らかになったことで、活力や目的、そして誠実さが、我々を問題の向こう側へと導いてくれているのでしょうか。

フレデリック・ラルー:
それらすべては「共鳴」なのです。その人の人生のどの部分に、その共鳴するポイントがあるか、ただそれだけが重要なのです。

リサ・ギル
確か私たちがメール交換を始めたとき、つまり、このポッドキャストで何を話すか意見交換を始めたその最初に、私がその頃気付き始めた「誠実さ」について、質問したように思います。パンデミックは、否が応にも、私がどれだけ飛行機で世界中を飛び回っていたか、振り返る機会を与えてくれました。つまり、会議に参加するために、ぐるぐると世界中を飛び回っていたのに、それにまったく罪の意識を感じていなかった自分自身に気付くことになりました。それがきっかけで、すべての環境にかんする問題に対して、何らかの「共感」を持つに至りました。私が両親の友人の会話に違和感を持ったのは、まさにそのポイントだったと思います。私もあなたのように、環境問題や社会の不平等に対して、怒りを持つようになりました。それがその瞬間だったと思います。困難な課題に立ち向かうのが楽しいと感じた瞬間だったのかもしれません。もし、誰かが私の世界観を否定するなら、まずその彼を不快にさせ、そして、私が心から大事にしているものを、全身全霊をもって投げ打つことでしょう。そうやって初めて「共鳴」が起こるのだと思います。今、私たちが話しているような、人間として私たちがしなければならないことに対する関心が、ますます強まってきています。また、これはまさに、「セルフマネジメント」の体験とも捉えています。つまり、ある種の構造やプロセス、そしてフレームワークが実装された取り組みを体験していると感じています。ある一定の人たちが、ティールを取り込もうなどとの野心にとらわれているのとはわけが違います。本物のシフトと偽物のシフトとの違いは、さまざまな対象にまでおよぶ対話と、その対話の場の創設にあると思います。火を囲みながら話し合えるような「場」のことです。

フレデリック・ラルー:
いや、まったくそのとおりだと思います。あなたの意見に賛同します。あなたはあなたの体験を通して、それらを見て感じてこられたのですね。あなたの体験は、私のビデオシリーズ『insights for the journey』の2番目のビデオで、ある人々が私のところにやって来て、「私の会社をティール組織に変えてください」と言ったときと同じだと思いました。その時は、誰がコンセプトの推進者なのか、本当にそれに興奮をおぼえるのか、本当にティールへの旅を体験したいと思っているのか、それらを疑いました。そういう時は、まず、何に対してだったら気分が高揚するのか、そこから会話を始めなければなりません。そのティールへの情熱、もしくは、そのあこがれのバックグラウンドにあるものを知らなければなりません。冷静でいられなくなるもの、真の憧れ、明らかにしたいと切望するのは何か突き止めることが必要です。そして、それらは、時に、手放すことによってもたらされるものでもあります。ティールの導入というのはよく聞くトピックですが、いずれにせよ幾重もの会話が必要で、時間のかかるものです。にもかかわらず、多くの人は、その動機でさえも、さほど明確ではありません。そして、彼らは、「セルフマネジメント」を高貴な目標のように言いつつも、その方向に従業員を方向づけたいと思っています。それを感じた時は、それがなぜ必要なのかと聞き返さなくてはなりません。本当に理解できているのか確認するわけです。その会話は、子供時代のエピソードや、今の自分を形成するに至った人生での重要な瞬間など、しばしば、それは非常に深く、非常に個人的なものに分け入るはずです。そういった瞬間とは、彼らがまったく無力だと感じた瞬間、強烈に嫌な思いをした瞬間、もしくは、何かショッキングなことを目撃してしまった瞬間を指すことが多いようです。例えば、彼らの父親や母親が、仕事でヒエラルキーに押しつぶされて、非常に不幸な経験をして、それが二度と起こらないようにしようと決意したことなど、動機のベースとなるような個人的な体験を話してもらうのです。1時間かそこら、その種の会話をすると、その個人のエネルギーの源が特定できます。それでも、時には、まったく感情移入できない場合もあります。私は時折システマティックな会話の仕方をします。それは、仕組みに準じた自己組織化が念頭にあるからです。しかし、私たちが持っている一種の「深い憧れ」や、過去の古い歴史は繰り返さないといった固い決意など、究極的にはこれらすべて、一種の「明確性」に対する無償の奉仕を超えるものはありません。これこそが、私がリーダーたちと話している会話の中身です。その人がどんな未来を望んでいるのか、最初は誰にも分かりません。その「憧れ」について、会話しないことには何も始まらないのです。

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。