フレデリック・ラルー、誠実さと活力を取り戻すための招待状① (Frederic Laloux with an invitation to reclaim integrity and aliveness)


今回から何回かに分けてになりますが、2020年10月、セルフマネジメント組織コーチであるLisa Gillが主催する「Leadermorphosis」というポッドキャストに、フレデリック・ラルーが登場したときのインタビューを載せていきます(1時間20分あるので、多分6回くらいに分けると思います)。今は、「ティール」を話すことから離れてしまったと言われるフレデリック・ラルーが、久しぶりに「ティール」について語る、それほどレアなポッドキャストです。コロナや「ドローダウン」といった現実と「ティール」という可能性、そのあたりが“聞きどころ”となりそうです。

こんにちは。いつも「Leadermorphosis」を聞いてくださってありがとうございます。リサ・ギルです。今回のゲストはフレデリック・ラルーです。フレデリックは、世界中で70万部を売り上げた『Reinventing organizations』の著者です。そして、その本は、20の異なる言語に翻訳もされています。これを聞いている多くの人は、彼の本を読んでいて、何年も前から彼のことを知っていることだと思います。このポッドキャストのほぼすべてのゲストがなんらかの形で、彼の本については触れてきました。「セルフマネジメント」「ホールネス」「進化する目的」を特徴とする彼の述べる「ティール組織」のアイデアは、新しい働き方を探求し、それを実践する人たちを鼓舞し続けるという、たいへんな影響力を発揮しています。私はここ何年か、何度もメールを書いて、フレデリックに出演を依頼し続けてきました。彼はポッドキャストはやらないと、毎回丁寧な返事をくれていました。しかし、私たちの熱量が不可能を可能にしたのか、今回、ようやく彼の出演が実現することになったのです。結果的に、私は朝の午前2時に目を覚ますことになりました。しかし、そんな時差のことなど、彼を話せることの価値に比べたらなんでもないことでした。それほど、今回は、彼と本当に深い会話を持つことができました。本の各チャプターには触れませんでしたが、私たちは本の内容以上のことを話しました。彼が現在何をしているのか、もしくは「ティール」の本を書いた時のような誠実さを失ってしまったのではないかという私たちの心配をよそに、自らを奮い立たせ取り組んでいる現在の彼の様子をお伝えすることができたと思います。と同時に、そういった心配は、彼が大企業のCEOや上級リーダーに対して抱いている心配でもあります。そして、彼は今も、そういった人たちのために深い会話を続け、おそらく彼らが不快に感じるであろう「問い」をぶつけ、それに正面から向き合うためのサポートを続けています。今回、私たちが話題にしたトピックを通して、「セルフマネジメント」「ホールネス」「進化する目的」という3つもアイデアは、現在の経済を覆う破壊的なパターンを打破するに十分であることが分ると思います。現在、人類が行っていることをこのまま続けていけば、文字通り、地球は破滅します。私たちはまずそのことについて話し合いました。そして、その後、私たち一人一人が何を学べばいいのか、そして、それに立ち向かう困難についても話し合いました。私たちの会話は多岐に渡りました。それは私にとってもとても挑戦的で、そして、非常に示唆に富んだ内容でした。私がフレデリック・ラルーとの会話を心から楽しめたのと同じくらい、皆さんもこの会話を楽しんでいただければ幸いです。

リサ・ギル:
フレデリック、ポッドキャストの出演に同意してくれて本当にありがとう。こうやってあなたと会話できることに興奮をおぼえて、今はなんだか夢心地な気分です。改めて、ありがとう。

フレデリック・ラルー:
ええ、私もとても楽しみにしていましたよ。私はあなたのポッドキャストをたくさん聞きましたからね。だから、今回、ショーに参加できることになって、とても興奮しています。

リサ・ギル:
今までにポッドキャストに出演した多くのゲストがあなたのことについて話しました。彼らはあなたから多くの影響を受けていました。だから、本当にエキサイティングで、そしてとても重要な会話ができると思っています。ちょっとメモを見ますが・・・、私たちが今から話そうとしている内容は、本当に興味深いことばかりです。2020年の今、私たちにとって何が重要か、そしてそれをお互いが理解するために、何度もEメールのやり取りをしてきました。2014年に発刊されたあなたの本が企業の組織に及ぼした多大な影響を振り返る必要性がありました。そしてそれから6年が経ち、少なくとも、世界は大きく変わりました。この動きは、新しい働き方が一つの大きなうねりのようになって押し寄せたとも表現できます。その変化は、さらに進化し、そして成熟に向かいつつあるようにも思います。私が知る限り、本が出た頃と今とでは、いろんなものが大きく変わりました。おっと、今、私は、予定とは違う質問をしてしまいそうになりました。では、まず、私たちがメール交換を経て、ここで話す合意に至ったトピックから始めたいと思います。それは、「セルフマネジメント」「ホールネス」「進化する目的」という本に書かれた3つのアイデアから始めたいと思います。つまり、これらの発想が、私たちが取り組み始めたおそらく相当に難しい問題の解決に役立つのではないかと考えています。と同時に、私たちは、ますます破壊的な方向にシフトしてしまってもいます。私たちが普段何気なく使う「自殺」や「経済」という言葉だけで、そのシフトが体感できるはずです。これらはとても大きな問題です。そんなキーワードから何が浮んできますか?そして、それらの問題の本質はどこにあるとお思いですか?

フレデリック・ラルー
はい、今、まさに、まさに、それらの「問い」が私の上にのしかかってきています。それらを感じるようになって、もう、2~3年が経ちます。それ以来、本当に困難な会話に没頭することになりました。6年前、ティールのアイデアがかなり過激なアイデアとして受け入れられたころがコンフォートゾーンだったとしたら、今、私は、完全にその外にいます。そして、ゆっくりとですが、少なくとも一定のサークル内では、それら問題意識が完全に受け入れられるようになったとも感じています。そして、それらは、さらにゆっくりと、メインストリームへと浸透するように感じています。いずれにせよ、私は、自分の信じた道を進むだけということですが・・・。今、まさに、私たち自身の生活の中に、非常に破壊的な行いが存在しています。私たちが動かしている経済システムは、その根本に、地球に対して取り返しのつかない損害を与える要因を持っています。このコロナ禍の、初期段階で、私にストレスをもたらした一つの考えがまさにそのベースとなっていました。コロナウイルスは感染が疑わしい人の約1%を死に追いやると聞きました。「約1%」というのは専門家が言ったのです。人間が1%死ぬということですが、実際私たちは、私たちの生活がかかわったことによって、毎年毎年、地球上のあらゆるレベルの生物を殺し続けています。平均をとったら、過去30年間で地球上のすべての昆虫の70%を死に追いやりました。鳥類に至っては、人類の鳥類に占める割合は約2%ですが、同様に過去30年間で全体の30%を殺してきました。人類の大型哺乳類に占める割合は約1%ですが、それでも、過去50年間で、すべての大型哺乳類の60%を殺してしました。魚にかんしては、1%で、90%以上をです。サンゴやマングローブの森にかんしても、毎年1%を上回るペースで人間は死に至らしめています。向き合いたくない現実かもしれませんが、これらの数字はすべて真実です。そして、私にとっては、命のある限り、これらの問題は常に一番重要な問題であり続けるはずです。私には7歳と10歳になる子供がいます。彼らは、私にとって、信じがたいほど不快な、答えようのない質問をしてきたことがあります。そして、私は、それを受けとめた時、気づかされたのです。人間の振る舞いにかんする様々な事柄を受け入れざるを得なかったということです。そういった視点は、一見無害に見えるなんでもない行為から非常に根が深い問題へと発展しました。最初は息子たちと一緒にスーパーマーケットに行った時のことでした。「ウェグマンス」という、地元ではもっぱら「ホワイト・ミンスター」と呼ばれているスーパーマーケットでの出来事です。そこで彼らは、「なぜすべてのレジの横にキャンディーが置いてあるの?それは家族げんかをさせようとしてるからなの?」と聞いてきました。私は、「なぜそんなことをするんだろうね。そんなことしなくても客はリッチな人ばかりなのにね」と答えました。息子たちは、「父さん、違うよ。僕は、なぜ全部の商品がプラスチックで梱包されているのかって聞いたんだよ」と。プラスチックは分解するのに何千年もかかります。そしてそれは至る所でマイクロプラスチック汚染の原因を作ります。あなたなら、この子供のした質問にどう答えますか?私は、地球はステロイド状の何かによって完全に覆い尽くされたかのような錯覚に陥りました。私たちは皆、この世界のそれぞれが属する集団に適合して平和に暮らしていくために、何かに気付いても、それを見なかったふりをして過ごすことがあります。私たちが本来持つ誠実さを深く傷ける行為と知りながらも、それに気付かぬふりをします。長年の生活を通してそうすることを学んできたのです。そういう行為を取ってしまう理由は、問題に対処する術を知らないからなのかもしれません。私の仲間は、どんな状況下であってでも、プラスチック使用の削減に努めています。何が重要か、その価値観は人によって異なると思います。しかし、あなたやあなたの周辺の人たちはプラスチック製品の製造会社の節税対策に協力してしまっているということです。それでも良いかどうかは個人に問われる問題です。私と私の仲間は「ディープダウン」を受け入れました。私は、ブラジルで、CEOたちのグループと会話した際、そのことに触れました。私は、彼らに、「あなたはこの汚染システムにどのようにかかわっていますか?そしてあなたは、本当に誠実さを失ってしまったのですか?」と尋ねました。すると、そのうちの1人が真摯に答えてくれました。「フレデリック、君が話していることは最初まったく理解できなかったよ。でも、今は、よく理解できるようになった」、と。私はその彼がある有名なファッションブランドのCEOであることを知っていたのですが、彼らに向かって次のように言いました。「私は、最近、いくつかの、いかにも即物的な広告を見ました。その広告の一つは、半裸の女性が横たわっている傍らに、6〜7人の不吉な目をした男性がいて、その彼女を見下ろしている構図になっていました」、と。その時、彼に言った感情が今よみがえってきました。彼に会ったとき、私の娘は6歳でした。彼女が一生のうちに性的虐待を受ける可能性は25%あります。すべての女性が等しく持っている可能性のことです。その広告はそうした性的虐待に加担しているとしか言いようがありません。「私は他の誰かよりはまし」というのが、業界の中に共通して存在する規範です。彼らは「ディープダウン」しなければなりません。また別の人は乳製品加工会社のCEOでした。その彼が乳製品業界の現実について知っているとしたら、それは必ずしも、プラスチック容器の被害にあっている動物たちの問題です。これらのすべては、本当に難しい問題です。しかし、私たちが声を上げるまでは、こうした問題は深い沈黙に閉ざされたままだったのです。ちょうど、先ほど、いかにも健全性を失った場所として例を挙げたスーパーマーケットの、その日曜日の朝のような静けさの中に眠ったままでした。この「ディープダウン」の話をした後、彼らにはペアになって会話してもらいました。彼らにとって、すべてのことを理解しようとするこの試みは画期的な出来事だったに違いありません。私は「社会的な規範に忠実であれ」と言っているのではありません。あなたは今挙げたようなこと以外にも加担しているのではないかと、皆にそれを尋ねたいだけです。現在の経済システムという現実の中で生きるのを恥じることはありません。また、そのことを非難しているのでもありません。自ら進んで積極的に選択しているわけでもなく、自らが設計に関与しているシステムでもないからです。しかし、私たちが本物の「ホールネス」を求めるのなら、本物の「進化する目的」を果たそうと思うのなら、これらの現実から目をそむけてはなりません。それらを直視する勇気を持つのです。あなたはそれを言い出す最初の人になるかもしれませんが、困難な会話を強いられるようなことにはならないでしょう。一緒になって考えてくれる人は必ず、います。これらの問題を押しのけるには、常に膨大な金銭的なコストが必要です。発達障害などの子供を持つ組織リーダーたちは、子供たちのきたるべき将来のために毎週金曜日にデモを行っています。彼らは彼らができる範囲で、できるかぎりのことをしているとも言えます。しかし、彼らの運動を知れば知るほど、色々なものが見えてきます。その子供たちやその友人たちの言葉を借りるなら、彼らはそのリーダーたちがやっていることが理解できないのだそうです。私たちはそういった事象に対してオープンになれるでしょうか?その会話の入り口こそ、真摯な態度で人生を送ることのできる真の権利だと思います。私たちが深い会話を持とうとする時、越えなければならない深い谷があると思います。その時に「困難」と表示してある箱にナンバリングはしないでください。押しのけもしないでください。それが自分自身に正直な勇気あるリーダーの態度です。私は、彼らのそういった活力に満ちた行動の中に、様々なものが解放に向かう実現性を垣間見てきました。そこに具体的な答えが存在するわけではありません。しかし、そういった行動が、私にはとても重要に感じるのです。

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。