【4.2.3】仕事が少なくなる恐怖に向き合うこと(Addressing the fear that there will be less work)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/423.html

■翻訳メモ
「セルフマネジメント」への移行を開始すると、ヒエラルキー型のシステム下で発生していた膨大な量の無駄が、白日の下にさらされます。ダラダラと予定の時間を過ぎても続く会議や、何かの調整を目的とした会議がそれらの典型です。以前、すべての人は、階層によって管理されてきました。そして、それが、自分のポジションが安全であるとの認識につながっていたのです。隣り合った上下の階層に情報を流すだけの目的で作られたExcelやPowerPointなどの資料は、「セルフマネジメント」の元では、それらのほとんどが役に立ちません。上司へ忖度しても機能しないでしょう。コンサルタントのゲイリー・ハメルは、ほとんどの人が2つの仕事をしていると言っています。すなわち、1つは本質的な仕事で、もう1つは他人の目を気にした、いわば、「うわべだけ」の仕事です。今までのシステムが崩壊したことによって、空き時間ができてくるのです。

「セルフマネジメント」への移行期には、そのような空き時間が突然現れます。時間を自由に使えることは素晴らしいことです。無駄な仕事に時間を費やすこともなく、パーパスに向かって働くことができるようになります。しかし、私が「自由な時間」と表現する、その空き時間は、一部の人にとっては無駄を意味するようです。私たちは、基本的に、時間に余裕のない人にたくさんの給料を払ってきました。中間管理職、トップ管理職、および人事部門に高給取りの多くが集中していると思います。もちろん、給料が良いこと自体は、けっこうなことです。しかし、「セルフマネジメント」に移行したら、時間に余裕ができてしまった彼らはどうなってしまうのでしょう?彼らは組織を去らねばならないのでしょうか?彼らは解雇されるのでしょうか?それとも、何か別の役割が与えられるのでしょうか? - いま言ったことは、従来のシステムの世界観です。組織図を広げ、その上で、人を駒のように扱う世界観なら、これらのことが起こるでしょう。

「セルフマネジメント」への移行期では、次のようなプロセスが発生します。基本的には、次の2つです。まず、どちらかというと、ごくごくまれだと思いますが、会社が生き残っていくために、資金繰りを維持を目的に、それ以上の流血を止めようとするパターンです。こちらを選択する場合は、財務面の逼迫を理由に、社員に対し、退職勧奨することになります。去ってもいいと思っている人に、より良い枠組みを提示します。まさに、早期退職プログラムが効果を発揮する場面です。それらの人は、「セルフマネジメント」に意味をまったく見出せないか、あるいは、自分の人生において、もっと別の経験をしたいと思っているなど、何らかの理由によって組織を去っていきます。

ただ、大多数はこちらのケースでしょう。つまり、フリーな時間にフリーな才能が当てはまっていくケースです。つまり、いままで、やろうとして、手を付けていなかったプロジェクトなどに人が加わることで、プロジェクト自体が活性化していきます。ほとんどの組織では、探せば、組織内に無限の取り組みやプロジェクトがあるはずです。なぜなら、組織はパーパスを追い始めたからです。しかし、新しい組織には、エネルギーも人材も不足している状態です。人によっては、ようやく自分本来の場所が見つかったというでしょう。また、別の人は、組織にとって価値がることができて、とてもワクワクしていると言うでしょう。

これは組織における安心感と安全性につながることなので、確実にやっていくことが重要です。かつて「セルフマネジメント」を始めようとした時、ポジションがなくなると思い、恐れが充満しかかったかもしれません。仕事がなくなるかもしれないと思うと、当然、人は不安になります。仕事を辞めないとしても、どこに飛ばされるか分からないという時も、すごく不安になるものです。それらが重なって、精神面で追い込まれると、今度は自己中心的な考えが跋扈します。最悪の場合、架空のポジションを勝手に作り、「これが私の新たな役職です」などと言って居座ってしまう場合もあり得ます。しかし、前もって、組織はうまくいっているから何も恐れる必要はないという告知が十分にできていると、メンバーは、自分の価値を高める方法を見つける時間を持つことができます。

時間が過ぎると、多くの人は、おそらく、突然、それまでとは全く違う何かを感じとることになります。安心感や安全が保障されたことが分かると、周りを見渡す余裕が出てくるようになるのです。そして、「私は前からこうありたいと思っていた。そして、いま、ようやくそれを手に入れた」などという声が起こり始めます。多くの組織で、このような好転が起こりました。自分はそんな仕事に就くことは絶対にないであろうと思っていた人も、その役割とともに成長が可能になったのです。そうすると、「私の仕事をちょっと体験してみない?」などという連携が起こり始めます。そうなると、今までとは世界が一変します。少し手伝ってみることで他人の仕事を理解するというのは、とても素晴らしいことです。

ある組織でのとても素晴らしいと感じた変容の話をご紹介したいと思います。それは数年前にベルギーの運輸省の中で起こったある変化のことです。最初、組織が「セルフマネジメント」を始めた時点で、メンバーは2週間ほど、自宅で仕事することになりました。すると、彼らから、「交通渋滞に巻き込まれず、家で仕事をして、家からデートに行くこともできるようになった」などの声が聞こえてきました。しかし、そういう状況を知って、窓口担当チームからは不平が出て来ました。「ちょっと待ってください。これでは不公平ではありませんか。家で仕事をしたいのはやまやまですが、私たちは市民の人たちと会話しなければなりません。窓口業務は放棄できませんから」、と。次に何が起こったのかというと、自宅で仕事をしていた人の中から、「ファイルを持ち帰って自宅で仕事することも重要ですが、週に1〜2日仕事内容を変更して、市民と直接対話する時間が持てるのなら、それはとても魅力的です」と言いだす人が出て来ました。この役割の交換は当然、人事部が仕掛けたものではありません。これがまさに、本質的な連帯が起こった瞬間だったのです。窓口業で週5日働いていた人は、ファイルを持ち帰って、週に1〜2日、自宅で働くことになりました。これが純粋な関心が素晴らし結果を引き起こした例です。そうしたら、その後、省の清掃担当者からも、やはり、週1日か2日は家で働きたいと言う人が出て来ました。しかし、これは問題でした。なぜなら、週に1回か2回、自分の家を掃除しても給料は支払われません。そういう理由で、清掃の担当者は、週の内、1日か2日、コールセンターで働くことになりました。そのため、彼らは、コールセンター業務のトレーニングを受けました。しかし、なぜコールセンターだったのか?それは、その時、1日か2日なら、スタッフが在宅勤務しても仕事が回るようなソフトウェアを導入したタイミングでもあったからです。

週に5日、オフィスを清掃していた人が、オフィス清掃は週に3〜4日、そして、週に1〜2日は自宅からコールセンターに行くようになりました。数年前、同省でこの変革を率いていた人物と会話したとき、彼は、この連帯が発生するメカニズムは心理的安全性にあると、特にその部分を強調して語ってくれました。人は、自分の仕事が守られていると感じることほど、安心して働けることはありません。職場に安心感が広がるとメンバーは周囲に心を開きます。同省では、この大変興味深い試みを実施したために、オフィススペースを、以前使っていた4万平方メートルから、その約半分の2万平方メートルに縮小することができました。理屈だけで言うと、通常は、週3日勤務が可能になったら清掃担当は人数を減らされます。しかし、彼らはコールセンターに行くことになったので、誰一人として人員削減の対象にはならなかったのです。

いま、私が話したこと以外にも、仕事が確保できる方法を考えてみてください。繰り返しになりますが、「安全」と「連帯」がよりどころとなって、事務職や、受付担当や、清掃担当といった職のラベルに囚われていた人たちも、その枠組みが架空のものであったことに気付くようになったのです。これは人事プログラムではあり得ないことです。彼らは、自らの内面に向き合い、組織のパーパスに沿った仕事を自ら見つけるという再発明を行いました。

突然降って湧いた自由を手にした時のことを、前もって考えておくことをお勧めします。人によっては、それは、即、失業を意味するでしょう。そうならないためには、いままでよりも、もっとハッピーな仕事について、周りを安心させる準備はしておかなければなりません。もちろん、次の仕事が本当にやりがいのあるものかどうかは、その本人にしかわからないことですが。

■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。