【7.3】「安全な場」と「実験の場」を確保するために(Negotiate a protected space)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/73.html

■翻訳メモ
CEOがいない、もしくは、その力を借りずに「セルフマネジメント」を進めていくには、基本的に2つのやり方があると、このセクションの最初のビデオの中で話しました。それらは、トップマネジメントの承認を受けて行うか、もしくは、あなたのできる範囲から始めていくというものでした。そして、今回は、その1つ目のほう、つまり、トップマネジメントの承認を受けて実行する方法について話そうと思います。複数のやり方があると思いますが、どんなやり方を採用するにしても、取り組みの基本は「対話」にあります。必要な「対話」ができる安心安全な場や、失敗が許される実験スペースを作ることが必要になってきます。一部の人は、「すでにそれらはそろっている」と言います。では、それらがきちんと機能するように、2つの要素について順に見ていきましょう。

まず、最初は、トップマネジメントと取り交わす「約束」についてです。あなたの側から見れば、「与えられた」ものになります。彼らは「任せた」と言ってすべてを委ねてくれるかもしれません。しかし、それは、今日の「結果がすべて」という概念に取りつかれた組織では、あなたに「結果」だけが課せられたことを意味します。与えてもらった「自由」は、彼らの求める「結果」との引き換えなのです。それが、あなたが手にすることのできる1つ目のものです。もうひとつ、あなたには、入手可能なものがあります。今度は誰かから「与えられたもの」ではなく、自分で獲得できるものです。つまり、システムとかかわることで得られる「自在性」がそれです。その「自在性」とは、例えば、人事部門に関係したら「人事権」を手にできる、といったものです。その場合、あなたは、自分の望む方法で人を雇うことが可能になります。それによって、自分の手足となってくれる人たちを雇うことができるのです。そして、自分自身のパフォーマンスに反映させるために、彼らのための研修を企画することになるでしょう。そして、そのパフォーマンスに対しては、いずれ、なんらかの報酬が伴ってくるはずです。それは給料に反映されるかもしれませんし、そうでないかもしれません。あるいは、人によっては、その過程における「会話」が一番の報酬となるかもしれません。また、ケースによっては、あなたが手に入れる「自在性」とは「購入権」かもしれません。それは、必要なものは、自分の決済で何でも購入できるというものです。あなたが入手できるもの、それが何なのか決まってはいませんが、いずれにしても、トップマネジメントとの会話なしに、それらのものを手にはできません。あなたが手にすることになるこれらの2つのコンポーネント、つまり、「自由」と「自在性」は、あなたにとって本当に大切なものですから、トップマネジメントと会話の際には、よく考えて話さなければなりません。あなたが手にするのは、トップマネジメントが担保する「聖域」を含んだ、「裁量権」であるからです。

もしあなたのいる組織が、比較的独立性を重んじた組織であるならば、この「裁量権」が最もものを言います。本の出版のすぐ後にですが、私は南フランスにあるITサービスの企業に勤務する人からメールを受け取りました。トップマネジメントとの交渉が首尾よくいったということと、今の取り組みは数年先にはうまく着地しそうだということを、彼は知らせて来てくれました。彼は自分のチームをある種の実験の場として、素晴らしい取り組みに挑戦中だということでした。そして、彼は、その小さな自由を堪能しているとも知らせてくれました。この組織は地理の面でも独立性が強く、組織構成もシンプルで、やりやすい条件は整った組織でもありました。

あなたの属する組織が複雑に統合された組織である場合は、そのフランスの組織のようには簡単にはいかないでしょう。しかし、どんな組織であっても、やろうと思えばできるものです。より複雑に統合された組織の代表例として、世界的なタイヤメーカーであるミシュラン社を挙げたいと思います。それは一言でいえば、自己組織化チームを作りたいという想いを実践した人事部のバラカン氏の功績といってもいいような改革でした。まず、彼らは、38の独立したチームと工場から始めることでトップマネジメントから承認を得ました。そして、その後、残りの5つの工場にまで取り組みを広げて、現場全体にまで拡大させました。ミシュラン社のような大きな組織でさえ、トップマネジメントは改革のプロジェクトに対して承認を与えました。それは、どんな大きな組織でもやれるということの証となりました。

さらに最近の傾向では、以前に比べれば、トップマネジメントが承認を与えやすい環境になってきています。提案を通し、改革をスムーズに始めるには、取り組み自体を、トップマネジメントが特に関心を抱いている問題の、その解決の場として位置付けるのです。一から十まで、すべてをあなた1人が動かすものでもありません。あなたが優先してやらなければならないのは、彼らの興味を喚起するものを選んで、この提案を通すことです。それさえできてしまえば、実際には、あなたのしようとしていることを彼らが正確に理解している必要はありません。むしろ、ひょっとしたら、彼らが考えていた以上の成果をあなたが上げてしまうことになるかもしれません。ですので、あなたは、彼らが理解できる言語を使って説明する必要があります。そのためには、もしあなたのチームが革新的でなかったとしたら、あなたは致命傷を負いかねません。例えば、あなたのチームからスピード感が感じられない、とか、従業員エンゲージメントの数値が低いなど、もしくは、進め方が官僚的すぎるなど、それらの指摘は絶対に受けないように注意してください。そういった事態を避けるためにも、あなたがトップマネジメントの関心事を把握している必要があるのです。それらの関心事に関係する言葉を使って、実験スペースの話を持ち出すのです。そのためには、あらゆる流行には敏感になっておく必要があり、彼らが最近「アジャイル」という言葉をよく使っていると思ったら、あなたもその言葉を使こなせるくらいになっておかなければなりません。彼らの耳に心地よく響く言葉を使ってこそチャンスは訪れるというものです。それが彼らとのコミュニケーションを成り立たせる上での最も有効な手段です。CEOにはCEOの特別な言葉があります。「アジャイル」などといった言葉は、CEO仲間のあいだでは、日常の会話にも頻繁に登場する言葉です。「パイロットプロジェクト」という別の言葉を使えば、例の実験スペース獲得の際に、効果を発揮してくれるかもしれません。

そして、ミシュラン社には、―飽くまで、私の見解ですが―、非常に父性主義的な家族経営の文化があったと思います。そして、その文化は、彼らが大成功を収めたリーン生産方式を取り込んだ際に崩壊の時を迎えたように思います。そのプロジェクトはすべての工場の無駄を省き、多岐に渡る標準化によって生産効率の改善をもたらしました。しかし、それはどこか無機質なところがあり、ミシュランで働くという古い文化を隅に追いやった感覚は否めないものがありました。そのためか、従業員エンゲージメントはかなり低下しました。その下がってしまった従業員エンゲージメントを向上させること、そして、企業文化を取り戻すことが目的に含まれたために、パイロットチームとトップマネジメントとの間で取り交わされた約束には、現場にかんする裁量権の、パイロットチームへの大きな譲渡がありました。トップマネジメントは、悪化しない限り、口出しはしないと宣言しました。本当に、ただ、やりなさい、と言っただけでした。それは、遮るにも機能しようがない、トップマネジメントにとっては効力がないに等しい約束でした。あなたがトップマネジメントと約束を結ぶ交渉をする際、以下のことを考慮に入れて臨むようにしてください。それは、彼らが抱えている問題と、あなたがやろうとしていることを、うまくリンクさせるということです。「彼らの役に立つ」という観点で考えてみてください。

■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。