フレデリック・ラルー、誠実さと活力を取り戻すための招待状④(Frederic Laloux with an invitation to reclaim integrity and aliveness)
2020年10月、セルフマネジメント組織コーチであるLisa Gillが主催する「Leadermorphosis」というポッドキャストに、『ティール組織』の著者である、フレデリック・ラルーが登場しました。そのインタビューの訳を何回かに分けて載せていきます。今は、「ティール」を話すことから離れてしまったと言われるフレデリック・ラルーが、久しぶりに「ティール」について語った、レアなポッドキャストです。
(前回のつづき)
リサ・ギル:
あなたの言う「課題感」について、それをシェアできた最初の友人の話をさせてください。あなたの本を読んで、私たちは本当に情熱をシェアできたと思いました。その友人であるダニアは、彼女もポッドキャストの番組を持っているのですが、今はKTK社の変革に取り組んでいて、その取り組みは本当にエキサイティングなものです。しかし、彼女は、あなたの本を読んだ直後、本の内容に大きな欲求不満を漏らしていました。この変革が本当にうまくいくためには、トップが権力を手放し、アイデアに対してオープンになるまで待たなければならないように思ったそうです。そして彼女は、とてもイライラしながらも、それらが起こるのを待とうとしました。しかし、考えてもみてください、例えばグーグルのような大きな会社のCEOが、彼女のそんなやきもきしている心持ちを、わざわざ知りたいと思うでしょうか。あなたの本によると、彼らにとって、そういう従業員の気持ちは取るに足らないものにすぎません。しかし、そうは言っても、中には自ら権力を手放そうとする経営者もいます。一体、そういうトップが権力を手放すことについて聞かれたとき時、どう答えるのが正解なのですか?
フレデリック・ラルー:
プランBは、組織のあらゆるレベルで相互に作用します。多くのマネージャーは、解雇されるのではないかという「恐れ」を持っています。それは彼らにとってはこの世の終わりを意味しているからです。ゆえに、彼らはリスクを冒さないことをポリシーにしているのです。中には、そういう状況に慣れてしまって、マネージャーとはリスクを取らないものだと自分で定義づけている人もいます。彼らの多くは、他に選択肢がないと思っています。少なくとも私にはそのように映ります。しかし、このポッドキャストを聞いている皆さんは、彼らが選択肢はないと思っていることが、どれだけおかしなことか気付いているはずです。彼らには「誠実さ」が欠けていることもお分かりのはずです。もし仕事を失ってしまったら、何か別のことを探さざるを得なくなります。それゆえに「恐れ」が完全に内面化してしまっているといえます。私は、かつて、コンサルタントとして、マッケンジーに長年勤めてきました。当時の私はプランBを持っていませんでした。他の選択肢を知らなかったわけです。私は、目には見えないコネクトされた世界に興味が持てず、人生で何をやりたいかを語りかけてこないコンサルティングという業務に専念していました。それ以外のことに関心が及ぶこともありませんでした。何が面白いか、もしくは、少なくとも何か面白いものはなさそうかという観点で、人生でこれをやろうというものに出会うまで、私はその環境に閉じ込められていたのだと思います。その後、幸いにして、私は自由を得ることができました。あなたの質問はこのプランBがない状況と非常によく似ていると思います。それらは、自由は突然やってくるという共通点があります。もし今、あなたが、あなたにとってとても重要なことを同僚を相手に会話できるとしたら、きっと何らかの「共鳴感覚」を得るはずです。それが起これば、新たに何かを始める人が出てくるかもしれません。例えば、ある大きな資本のスポーツ用品会社で起こったことですが、現場責任者レベルの人が、経営陣の許可を得ずに一つの壁を越えたという話を共有したいと思います。こう話せば私があたかも産業スパイのように聞こえるかもしれませんが、その改革の実行者、ロレッタという23歳の女性からは、いつも刺激に満ちた話を聞いています。彼女の職場はスポーツショップです。カスタマーサービスデスクにいて、7日や14日以内といった返品可能な商品の受付が彼女の仕事です。彼女は、ある時、それらの返品されてきた商品の内、どれほどの割合が廃棄されるかを知りました。例えば白いスニーカーに洗っても落ちないほんの小さな汚れがある場合、商品は捨てられてしまいます。傷ひとつついてない外箱もそのまま廃棄されます。どうして会社は、使用上何の問題もない完璧な状態の商品を捨ててしまうのか彼女はショックを隠しきれませんでした。そして、上司の許可を得ないまま、その廃棄の実態を調査し始めたのです。そして、最終的には、それを基に、経営陣に返品商品を20%割引いて販売することを認めさせました。そして、それを知った他の店舗も彼女の店舗に倣って、20%引きの販売を行うようになりました。そして、その販売方法は全店舗にまで広がりました。彼女は店長を説得する必要はありましたが、その上の人は知らないまま調査を始めました。それをやったのは、商品の廃棄を終わらせないことには、そこでは仕事を続けられないと思った23歳の女性です。この会社には、トラックの十種競技ブランドのデザイナーをやっている別の女性がいます。彼女はパリ協定が話題になった頃、ある決心をしました。彼女の携わるブランドをパリ協定の基準に批准させようと考えたのです。環境面での数値目標を持ったブランドではなかったのですが、その目標ができるまで、あたかも友達を待つかのようにじっと待つという選択肢は彼女にはありませんでした。何年かかってもいいので、CEOがもう止めてくれと彼女を拝み倒してくるまでは、温室効果ガスの40%削減に取り組む決意をしたのです。トップマネジメントの判断を待つつもりはないと宣言するのは、なんとも大胆なことです。「私はこの目標を設定し、それに取り組みます。もしそれを気に入らないのなら解雇してもらって結構です。自分勝手と言われるでしょうが、これは私にとって唯一絶対の選択なのです」、と言い切ったことで得られる「自由」は、私たちが思っているよりもはるかに大きなものだということです。
リサ・ギル:
今の話を聞いて希望がつながった思いがしました。私がポッドキャストを始めたきっかけも、まさにそれだったからです。あなたの本が大勢の人の胸を打った理由も今分かったような気がしました。あなたのビデオやそこで共有されるストーリーは、多くの人を惹きつけ、勇気づけています。「許可を待っている時間はない」というメッセージは、もっと大きく重要なものにトライする準備として、リスクを冒す勇気はあるのかと、問われているような気がします。私たちは本当に種として進化しているのか、うさぎの穴に落ちて、そこから這い上がれないままでいるのか、時々立ち止まって考えなければなりません。私たちは良い方向に向かって進化しているのか、その臨界点がどこにあるのかを意識しなければなりません。人類は複眼をもって物事を見ることができる生物なのかも省みる必要がありそうです。同じパターンを繰り返していないか、今目撃しているのは文明の崩壊の始まりではないか、それらも見極めなければなりません。時にはそのうさぎの穴を自分でも少しだけ掘ってみて、そこに腰を下ろし、今やっていることはそれほど重要ではないな、などと振り返る必要がありそうですね。
フレデリック・ラルー:
こう言うと奇妙に聞こえるかもしれませんが、環境と気候の崩壊が迫っている非常に難しい現状にあっても、真の希望は持ち続けています。変化の下地は私たちが思っている以上に進行してきたと感じています。私は、今、アメリカにいるのですが、ジョージ・フロイドの事件の後、我々には大いなる目覚めが訪れたように思っています。過去のフィルムにも似たようなシーンが収められていて、それらも同じように恐怖を助長していることに興味を覚えました。そして、何かが突然整ったのです。不平等や断裂といった多く課題に対する取り組みの中に、地球をアップグレードするための「誠実さ」という力強いカテゴリーが備わったと感じています。だから、私は、考えている以上に土壌はでき上ってきていると言いました。それは突然噴火を起こすようにして広がっていくものです。私の友人の多くがiPhoneやAndroidに瞑想アプリ入れていることを知って、正直言って、ぶっ飛びました。それはサブスクリプションベースのアプリですが、1か月で5年分の収入があると聞きました。だとしたら、このアプリのユーザーは5百万人です。なんと、5百万人のサブスクライバーがいるのです。そして、ヨーロッパの人口はだいたい7億人ですから、7億の分母に対して5百万人の人が瞑想アプリを入れているのです。1つの瞑想アプリで5百万人です。似たような瞑想アプリは他にもいくつもありますから、それを考えたら、一体、ヨーロッパで何人の人が瞑想アプリを使っているのか、私の心が吹き飛んだ理由が分るでしょう。ですので、この認知的不協和の容認を拒否する人たちが確実に増えていて、それを裏付ける根拠も十分にあることが分ってきました。今、米国が人種差別の撤廃に燃え上がっているように、世界は一部の人たちのみが保有してきたパワーの解放を待っている状態なのです。その小さな起爆装置は今か今かとその信管が引き抜かれるタイミングを待っているのです。私たちはもっと話し合うことが必要です。「会社で実現しようとしたことは何一つ実現させることはできませんでした。しかし、私は、今度こそ、それを実現するためにこの変革に取り組みたいと思います。」という言葉が必要です。私はあるとても刺激的な取り組みを知っています。キャビー社で働くニコライが、卸売りの環境の改善に取り組んだ話です。その取り組みは、よくある「持続型トップダウン・プログラム」の改編とはまったく違いました。実際には、経営層は、営業部隊には細かいことは言わず、基本的には、ただ外に出ろと言っているだけでした。「私たち営業チームはとても大胆な部隊です。仮に問題を抱えても、常に正直に振る舞いましょう。自分のして欲しいと思うことを他人にしましょう。試してみて失敗すれば次はそれを修正すればいいのです」。そういう日々の声掛けで、職場は活気に満ちました。そして、その活気は次々にメンバーに飛び火していったのです。さらに経営陣は次の提案をしました。「素晴らしいエコデザイン・トレーニングを開発したので、すべての人に受講してもらいたいと思っています」、と。驚愕に値するような結果は、常に真実が語られるところから始まります。数ヶ月前、私はユニリーバ社のクリーニング製品などを作っているホームケア製品部門のCEOと会話しました。彼はビジネスにおいても非常に誠実な人間なので、きっと投資家を前にしてもユニリーバ内の彼のホームケア製品部門に対しても同様に、正確なことを話していると思います。彼いわくは、彼らの年間の二酸化炭素消費量はハンガリー一国分の消費量に匹敵し、また、彼らの年間の水の使用量は英国全体のそれと等しいと。また、製品化されるプラスチックにかんしては、エッフェル塔の重さに匹敵するといいます。彼の発言は十分なレベルの誠実さと信頼に値すると思います。残念ながら、その状況は持続可能な状況とは言えません。そのため、そこから抜け出す方法を見つけることが必要になってきます。組織との対決が必要な場面で、それに勝利できそうな解決策があるとしたら、それに飛びつきたい気持ちはよく理解できます。従来ならばコンサルタントに相談すればよかったのでしょうが、しかし、問題は、そうシンプルではないのです。
最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。