【4.4.6】「承認」や「指導」を欲しがる人たち(We need recognition! And mentoring!)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/446.html

■翻訳メモ
今回は、いくつかの組織で発生した新たな問題についてお話ししたいと思います。それらは「セルフマネジメント」に移行してもすぐに表面化するとは限らないため、少し特別なものと言えるかもしれません。「セルフマネジメント」への移行から1年かそこら経ったある時、突然、「私たちには承認が必要です」という声が聞かれるようになります。この行動は非常に興味深いものです。というのも、「セルフマネジメント」への移行とともに一旦忘れ去られていた、そして、人間が持つ「承認欲求」が再び表面化するからです。かつての組織では、「昇進」という、「承認欲求」を満たすための明確な方法が存在しました。また、上司からの「よくやった」という一言や、特別ボーナス付きの社員表彰制度なども、「承認欲求」を満たすのに十分な機能を果たしていました。従って、従来の組織の管理メカニズムは、報酬を与えることでメンバーのモチベーションを高めていました。しかし、「セルフマネジメント」に移行すると、ほとんどの外的な動機付けの要素は取り除かれてしまいます。外部要因に依存するものはすべてなくなってしまう可能性があるのです。そこで働く人たちは、内発的な動機付けのみによって活動することが求められます。しかし、一部の人たちにとっては、外部環境からの「承認」がまだまだ必要な場合もあります。セルフマネジメント組織で働くには、そういった現実も受け入れる必要があります。また、「競争」と「協力」という二つの側面を両立させることで、より広い視野で問題を解決できるかもしれません。現在の多くの組織は、競争が中心になっており、協業は少ない状態です。しかし、「セルフマネジメント」に移行すると、協業が重要視されます。しかし、競争にも健全な側面があります。私たちの人間性は、多くの場合、協力と競争の両方に基づいています。それは、人類の歴史を振り返れば明らかです。先日、チャールズ・アイゼンスタインが競争の美学について語っていました。彼は、人間が自らの才能を理解し、洗練する手段として競争を捉えています。それは、他者との比較を通じて、自分の得意分野や才能、独自の貢献を見出すことができることを意味します。だとすれば、競争が存在することを否定せずに受け入れる必要があります。競争がある限り、「承認」という行為がなくなることもありません。

以前に話した影の側面を引き出さずに、健全な方法で「承認」を構築していくには、どんな方法があるでしょうか?

お勧めするのは、まず、「承認」と「お金」を切り離すことです。基本的に、私たちは、「お金を稼ぐ」という直接的な行為よりも、他人によく見られたい、尊敬を集めたいという方が関心が高いはずです。お金欲しさが目立つ状態では行動は起こしにくいものです。多くの人はお金に対し、何らかの恐れや不安、欲望などを投影しています。金銭トラブルにも巻き込まれたくないとも思っています。私の本では、シンプルで美しい方法を見つけたいくつかの組織の例を紹介しています。

一部の組織では、ミーティングが始まるとまず最初に、組織の内外の人たちが行ったことに対して、順に、「承認」と「感謝」の言葉を発していきます。定期的に行うと、それが毎回のミーティングの一部になります。その声を聞くことで、メンバーは自分の存在の価値を再認識します。それが本当の「承認」であり、報酬がそれに代わることはありません。一部の組織では、金曜日の午後に「感謝」の気持ちをチェーンメールにして送りあうことを習慣にしています。その人の優れた「貢献」に対して、感謝のメールを送ります。無理に習慣化しようとしなくても、1人が誰かに感謝のメールを送信すれば、それが連鎖して、全員が送りあうようになります。それは、「金曜日の午後のチェーンメール」と呼ばれるようになりました。

ドイツのハイリゲンフェルト社には面白い制度がありました。そこには、CEOが以前所有していた古いジャガーがありました。メンバーは本当に素晴らしい仕事をしたと感じた人を指名することができ、その指名を受けた人は、1週間だけ、そのジャガーを運転することができました。楽しくてバカバカしい精度ですが、皆がそれを愛していました。

アメリカにも、ハイリゲンフェルト社の例をそっくりそのまま制度化しているバリー・ウェーミラーという会社があります。彼らの場合も、高級車を1週間限定で運転できます。ただし、もっと理想に近づけるという意味では、もっと豊富なコンテンツが必要です。これでは、少し、ストーリー性が足りないように思います。働いている人たちのお互いの感謝の気持ちを高められるような工夫があればさらによくなるはずです。あえて言えば、素晴らしい映画作品がそうであるように、一人から別の人へ、感謝が伝わっていくような方法が良いと思います。それが私たちの心を満たすものです。

しかし、それを行う際には、強欲さや不足感の感情を引き起こさないようにする必要があります。もし自分が指名されなかった場合に怒りが湧いてくるといったことは避けたいものです。「承認」の持つ多くのメリットを得つつ、多くのデメリットは抑え込む必要があります。これを活かせば、会議やメール、1週間の車のようなシンプルな方法がうまく機能するようになります。

また、「承認」と似たような意味合いを持ちますが、一部の組織からは「メンタリングを導入して欲しい」「昔のヒエラルキーの時代には、定期的にマネージャーと1対1でミーティングしていたが、それがなくなった」という声も聞かれます。かつての組織では、上司と話す機会が作られ、そこで会話を楽しんだり、アドバイスをもらったり、フィードバックをもらったりして、方向性の確認などをしていました。しかし、セルフマネジメント組織では、そのような仕組みを導入する理由はまったくありません。セルフマネジメント組織の多くは、非常にシンプルなメンタリングシステムを導入しており、誰でも自分のメンターを選ぶことができます。そして、メンバーは、1か月に1回など、定期的にその人と会って、会話するのが習慣化しています。下位の人と上位の人との接点が増え、互いの視点や経験から学びを受けることができます。

逆に、以前は下位の人とパフォーマンスについて話すことができたというシニア・リーダーからも、彼らはもはやそれができなくなったという声を聞いたことがあります。ある女性の管理職から聞いた話ですが、彼女は、ある時、マーケティング担当者が進める仕事の優先順位がどう考えてもおかしいと感じたそうです。しかし、その担当というのは彼女の元部下であったため、どう会話したらいいか分からなかったといいます。以前なら、「あなたはクール過ぎます。あなたは仕事の順番を間違っています」ということが言えましたが、今はもうそれができないように感じたと言います。間違った方向に進んでいるのが分かっているのに、何もできないことを彼女はとても不快だと、私に言いました。私は彼女がそう思うことをとても興味深く感じました。私は彼女から話を聞いた後、彼女がどう変化するか見届けようとしました。そして、私は、組織の誰一人として「承認」を必要はなくなったと伝えました。その代わりに、組織の誰とでも会話を始めることができると言いました。このマーケティング担当者は、彼女なりの視点、考え、優先順位を持っています。それでもあなたが行って、経験上それではうまくいかないことを伝えることができると言いました。

何かを押し付けたり押しやったりすることのできる上司の立場ではなく、この会話は、仲間同士の会話です。基本的にはアドバイスプロセスの形式を取ります。私は、マネジメントにおける「親子関係」といった一般的な比喩がとても嫌いです。なぜなら、それは、マネージャーと部下の関係を親子のような固定的な関係と定義するからです。今回は、まさにその考えが役に立ちます。「子育て」の場合、親がボスであるため、親は子供のやるべきことを規定して、子供はその規定に従わなければならないという考え方があります。その一方で、子供がやりたいと思うことは何でもやらせるという自発的な子育ての方法も存在します。これは「セルフマネジメント」においても同じことが言えます。

上司が部下に何かをやらせる、もしくは、上司がそんな権利を持っていないと考える人がいます。しかし、親子関係においても、マネジメントの世界においても、その考えは間違っています。私が取り組んでいる育児方法、そして多くの人が試みている育児方法は、子供のことを理解し、自分のニーズも理解し、その上で、自分のニーズをどうシェアするかだと思います。つまり、関係性に基づいた育児です。そして、皆のニーズが満たされるためには会話をしましょう、ということになります。組織内でも同じことが当てはまります。上級の人であれば、下級の人と話す権利は絶対にあります。自分の視点やニーズを共有することは可能です。ただ、以前のようにそれを押し付けることはできないというだけです。

つまり、これらすべてをまとめるとこうなります。承認と指導、そして下級職と上級職の対話は、「セルフマネジメント」の中核に位置するということです。会話が起こる仕組みの設計自体はそんなに難しいことではありません。競争にも競争の役割があります。そして、例え、いい仕事とは何かという内発的動機付けがあったとしても、「承認」が果たす役目は残ります。

■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。