【4.1.6】 「セルフマネジメント」の誤解2:組織構造、過程、ルールは不要!?(Misconception 2: No more structures, processes, rules)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/416.html

■翻訳メモ
4.1.6 Misconception 2: No more structures, processes, rules (Mis/understanding self-management)

今回話すのは、私が頻繁に出くわす誤解です。なので、特に注意して聞いてもらいたいと思います。これは、実際には「誤解」という言葉で片づけるよりも、「落とし穴」と言ったほうがよいくらいです。それくらい、多くの組織が陥りやすいということです。そして、一度、その「落とし穴」にはまると、抜け出すのには痛みを伴い、また、多くのエネルギーも必要になってきます。その誤解というのは、「『セルフマネジメント』には構造もプロセスもルールもない」というものです。

構造とプロセス、そしてポリシーとルールで満たされた古いシステムは、とても息苦しく感じたはずです。そのため、そのシステムを新しくする際には、あらゆる束縛から解放され、拘束の原因となるものはすべての取り除きたいと思うことでしょう。この全部捨ててしまえとという考えは、「セルフマネジメント」への移行を考え始めた時や、「セルフマネジメント」への移行の準備に取り掛かった時、ほとんどすべての人の心の中に、生じるようです。しかし、これはまったく悲劇的な誤解です。

その場合、次にどうするかというと、なんら新しいものの作成には一切手をつけることなしに、組織を支える屋台骨となっていた多くのシステムを壊し始めます。それをすると、当然混乱が起きます。組織を支えるバックボーンを失ったからです。そして、その次には、皆が混乱に巻き込まれ、やるべきことが分からなくという事態が起こります。あらゆることが遅滞し始め、結果も伴わなくなって、組織全体にイライラが募ってきます。何人かの人は状況を変えるために何かを始めようとしますが、意思決定の仕方が明確でないため、何かを決めることもできません。そのまま、挙句の果ては、権力闘争が勃発するか、あるいは元の古い独裁的なシステムに戻ってしまうかの道を歩みます。これは、まさに悲劇であり、またとても残念なことでもあります。

「セルフマネジメント」には、以前の組織と同じように、構造とプロセス、ルールがあります。これは明快なことです。ただし、以前のものとは明らかな違いがあり、多くの場合は、以前のものに比べて決まりごとが少ないのです。繰り返しになりますが、組織に構造は絶対に必要です。すべての生物には構造と境界があり、そしてプロセスがあります。それは、組織も生物も同じです。

14,000人の従業員が近隣の看護とケアを行っているビュートゾルフ社を例にとると、その組織はカオスでも、単なる個別組織の集合体でもなく、非常に細やかに組織化がなされています。チームは、10〜12人の看護師で編成されますが、それぞれが役割を理解できるシステムがあり、自らが決定を下すことができ、会議を運営して、パフォーマンスを管理する方法を持っています。「セルフマネジメント」で運営されている工場の場合だと、それぞれのチームは、パフォーマンス管理の方法と、コンフリクトに対処する方法を有しています。彼らは単なる無形ではなく、もちろん従来の組織の特徴である階層構成とは大きく異なりますが、確かな構造を持った組織です。いま言った違いというのは、一つは、力の保持のことで、少数の人々に力が集中するのではなく、組織の設計によって、誰もが力を持てるようになったことです。これはもちろん大きな変化です。もう1つは、組織構造の柔軟性のことです。従来の組織は構造が静的で、大規模な再編成を行うまでほとんど変わらないという特徴がありました。「セルフマネジメント」組織の場合は、分散した構造は流動的かつ有機的です。環境の変化と、メンバーが感じるニーズや機会に応じて常に変化してゆきます。いま言った2つの特徴は従来の組織とは種類こそ異なりますが、それでも、とてもしっかりした構造と言えるものです。

プロセスについても同じことが言えます。多くの組織で、形式化され、押しつけられたプロセスがあります。きっとそれはお金を払って誰に設計を依頼したもので、形式上は理にかなっているはずです。しかし、それを現場の状況に当てはめると、うまく機能しないのです。それゆえ、それに従うと創造性が失われ、そうでなければ、いかにプロセスを回避するかという、とても馬鹿げたことに頭を使うことになります。そういう経験があるからすべて取り除こうという願望が芽生えるのです。このような場合は、一般的にですが、プロセスは機能に従います。プロセスが必要かどうかは、それぞれの業界における仕事の性質に委ねられます。たとえば、ビュートゾルフ社の場合、看護師がプロフェッショナルであるがゆえに、義務化されたプロセスはほとんど存在しません。彼らの業界は、看護師は自分の知識と直感、そして患者との関係に基づいて、正しい行動ができる、ゆえに信頼できるという業界なのです。

今度は、ケチャップとトマトペースト、それと、さいの目に切ったトマトを作るカリフォルニアのモーニングスター社の例を見てみましょう。この会社の場合は、一方の側にトマトを投入し、反対側からケチャップが出てくるという、一大プロセスがあります。そしてこれは、入念に管理する必要があるプロセスです。このプロセスに入る際のトマトの温度、そこにかける圧力、そして出来上がったペーストの粘度は厳格に定められています。そこで働いている人たちは、何をすべきか分かっており、そしてその行為は非常に正確を求められることも分かっています。つまり、モーニングスター社には、特色のあるプロセスが存在するということです。そして、それはビジネスの性質上、必要不可欠なものということができるのです。

ここでもやはり、従来型のシステムとの違いは、これらのプロセスは誰からも強制されたものではないということです。彼らは、プロセスに至る処理過程を自ら設計します。つまり、メンバー間で互いに協力したり、また交渉したりして、適切なプロセスが何であるかを決めていくのです。

最後、ルールについても同様です。「セルフマネジメント」のシステムにおいても、ゲームをプレイする上での明確なルールが存在します。それはアドバイスプロセスや同意ベースの意思決定手順を経るといったことです。コンフリクトに対処する方法であり、互いにフィードバック行ったり得たりする方法のことです。しつこく言いますが、「セルフマネジメント」には明確なルールが存在します。大きな違いは、上司に強制されているのではないということです。ルールが役に立たなくなったと感じたら、いつでも変更可能です。また、誰でも変更の提案ができます。そして、その際は、そのための意思決定メカニズムを使います。

旧システムにもあったような、構造とプロセスとルールが「セルフマネジメント」にも存在する点をもう少し掘り下げてみましょう。「セルフマネジメント」は、古いスタイルとは異なりますが、そこに混乱はなく、かつ、完全な自由があるわけでもありません。とはいえ、「構造はない」といった誤解が定着してしまった組織も数多くあります。そして、その結果、多くの場合、奇妙な行動に発展するのです。一部の社員は、「セルフマネジメント」を切り札のように出して、こう言うそうです。「あなたは私に何をすべきか指示することはできません。私たちはお互いに自己管理しているのですから。つまり、私は好きなことができるということです」と。もちろん、これでは、組織は回りません。こういう社員に対して、私だったらこう言います。「私はあなたの上司ではないので、あなたに指図することはできません」。その上で、「しかし、私たちが同意したゲームのルールは、あなたに伝えなければなりません。そして、あなたは、そのルールに従うべきです。内容に不満があるのなら、そのルールに則った上で、そのルールの変更に着手してください」と。つまり、そのルールが機能している以上は、皆がそれを守る必要があるのです。そのため、「誰に何を言われても気にしない、好きなようにやる」というような発想は認められないのです。

もう一度繰り返します。「セルフマネジメント」には、構造があり、プロセスがあり、ルールがあります!ヒエラルキー型のものとはまったく異なりますが、新しいシステムでも、それらは強力に働くのです。それらは、いかにもソウルフルで、またとても柔軟で、そして有機的で、常に変化し続けます。そして、それらは私たちがオーナーシップを持って、共同で作り出していくものです。それは混乱とは無縁で、完全な自由とも違います。冒頭に「落とし穴」と言いました。あなたには、古いシステムを解体し、新しいものも再構築しないという過ちには陥ってほしくないのです。


■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
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https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。